学園祭がやってきた③
アズマのご褒美とフィンク様のクラスへ行くという明確な目的のおかげで演劇は大成功。
拍手大喝采なのは、ビオロ様エイロン様王族がいたからかそれとも理事長の魔王ぶりが様になりすぎていたからか。
あまりに怖くて私が半泣きで命乞いをするシーンが演技じゃなくて本気になっていたのは内緒。
とにかく、劇も無事に終わってアズマと一緒に約束していたフィンク様のクラスへ。
ビオロ様とコルセイユさんは二人で見に行きたいところがあるらしくて別行動、エイロン様はあの時フィンク様の会話が聞こえていたみたいで心配して私達と一緒に来る事になった。
「アズマ! それにエグレットにエイロンも! 来てくれたんだ!」
嬉しそうに出迎えてくれたフィンク様の姿は執事そのもの。髪もいつものふわふわじゃなくピシッと綺麗に整えられていて、いつもの可愛い雰囲気と違って普通に格好いい。
ん?
「フィンク様、その格好は……」
「メイドだよ! 僕達のお世話をしてくれる人」
あ。あー、そうだった。
フィンク様はこの国の言葉がまだ上手く使えないんだった。
「フィンク、メイドっていうのは女に使う言葉であって男には使わない。この場合は召使いとか使用人、お前の格好だと執事っていうんだ」
「そうなの!? 僕間違えて周りに言っちゃってた」
つまりフィンク様のいうメイドの格好というのは執事の格好で、普通にウェイターとして働くって事だったのね。
うん、何となく分かってはいた。だって、ねえ。
でも何だろうこの、残念なような安心したような複雑な感情は。
とりあえず席について簡単に注文して待っていたら衣装担当の子達も来た。
やっぱりちょっと残念そうな顔をしていたけど、フィンク様の執事姿と髪型にこれはこれでありって感じで満足そうに眺めている。
何となく周りを確認してみれば女子生徒の割合が多い。
これはカフェという女性向けのお店だからかそれともフィンク様の勘違いメイドからの執事姿が目当てなのか。
出されたパンケーキが美味しかったからこれ以上深く考えない事にしよう。
無事学園祭が終わった翌日、右手に語学の本、左手にフィンク様を小脇に抱えた理事長を見かけた。
何も知らなければフィンク様の命が危ないと以前の私なら心配していたけど、昨日のやり取りを知っている私は安心してフィンク様を見送れる。
正しい言葉を教えるんですね、頑張ってくださいフィンク様!
オマケ
大臣①「我が国の王子であるエイロン様が悪役とは侮辱以外の何でもありません! あの理事長には何かしら罰を与えるべきです」
大臣②「私も賛成です! 公平に王子役を二人に増やすなどやり方はあったと思います!」
王「ふむ、しかしあの劇の王子役は一人だからこそ意味がある。そのような配慮の為に劇自体を壊しては劇の意味がないではないか」
大臣①「た、確かにその通りですが……」
王「劇で悪い役をしたからといってエイロンが悪い人間と思う者はおらんだろう。私は息子達と同じクラスの者達が力を合わせて作った劇を見に来たのであって、良い役を演じている子供だけを見にきたわけではない。全ての役に意味があり全員で力を合わせなければ演劇は成り立たん」
大臣②「…………」
王「それにエイロンの演技を見たか? 見事な演技だったぞ。勿論ビオロや他にも魔王役の理事長、ウィリアムといったな、皆素晴らしい演技であった。そうは思わんか?」
大臣①「あ、その……」
大臣②「わ、私は……」
王「ふむ、どうやらそなたらは息子達の配役にだけ注目して劇自体は観ておらんかったのか」
大臣①&②「!!」
王「私と私の息子の事を思ってなのだろう? そこは理解しているし感謝する。だが私は息子達の演技とその劇も見てほしい」
大臣①&②「……」
王「というわけで、だ。ジルベール宰相」
ジルベール「はい、こちらは魔道具研究所のジェローム殿が開発された撮影機です。先日の劇もしっかり録画されています。私も確認しましたが鑑賞には十分過ぎるほどの性能でした」
大臣①「あの……」
大臣②「まさか……」
王「今から私の息子達が演じた劇を観てもらおう。観終わる頃にはきっとそなた達の考えも変わるだろう」
ジルベール「この劇の時間は約二十分。一回目は主役のビオロ様を中心に鑑賞し、二回目はエイロン様を中心に。三回目は演劇全体を鑑賞しその後にそれぞれ感想を述べる時間を取って一時間半といったところでしょうか」
大臣①「そ、そのような時間は……」
ジルベール「ご安心を。このような事もあるだろうと事前に調整して二時間の余裕を作ってあります」
王「ならばそれぞれ感想を述べた後にもう一度見れそうだな。私は何度でも観れるぞ、それ程良いできだった」
ジルベール「仰せのままに」
大臣①&②「おおう……」
改心しました。




