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悪役令嬢は考えています

 お父様お母様、私は今あの理事長に呼ばれて理事長室にいます。理事長が私の目の前に座っています。今日が私の命日でしょうか。


 一番可能性が高いのはゲームオーバー、つまり退学!

 多分一応何もしていないのに!


「あの令嬢は退学にした。生徒同士の揉め事だけならともかく、学園の不正を疑っておいて何もしないわけにもいかないからな」


 この人貴族とか身分関係なしに学園第一で考えているよね。

 というかゲームでも中々の迫力だったけど実物はその何倍も怖い。

 今まで何作品か学園ものゲームやってるけど理事長って大体スラッとしているのに何でこの人体格がっしりしているの? 男しかいない塾の塾長なの?

 それで無表情だし、魔導人形ではという噂もあながち間違いじゃなさそう。


「話を聞いているのか?」

「あ、はいっ! その、今回はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 正直聞いていなかったけど特に何か言われる事もないし、あれ、もしかして話は終わり? 私は赦された?


「ところで、エグレットはライスクッカーの開発に関わっているそうだな」

「え、あ、はい。といっても私はお父様に開発費用を出して欲しいとお願いしただけで、実際に作られたのはジェロームさんという方です」


 何でここでライスクッカー? もしかして理事長はお米好き?


「それは知っている。手紙にしっかり書かれていたからな」

「……手紙? ジェロームさんとお知り合いなんですか?」

「知り合いも何も、ジェロームは私の兄だ」


 は?


「……お兄さん……ジェロームさんが理事長の、ですか?」


 は、え……うそ、ゲームでそんな設定は……ってゲームには直接関係ないから出てこなかっただけか!

 これ現実! いい加減学べよ私!


「そうだ。兄さんは優秀で様々な魔道具を開発していたがライスクッカーを開発してからは倭国や他国では名を知られる程有名になっている。残念ながらこの国ではまだ米が流通していないからそこまで名を知られていないがこの国にも米が入ってくれば自然と有名になるだろうな」


 一息! しかも何か凄い誇らしげ。

 お兄さんが大好きなんだ……。


「しかし最初に倭国へ行くと決めた時は本当に驚いた、なんせ所長の地位をそこらの者に譲り生活文化が全く違う倭国へ行くと手紙で事後報告されたからな。結果的に兄さんを成功させてくれたミュレー公爵に『は』感謝しているが、このうざったらしくストレスしかない仕事をこなせていたのは兄さんが褒めてくれてその笑顔で癒されていたからであってそれが奪われただけでなく今まで毎日会えていた兄さんと離れ離れにされて誕生日と年末年始にしか会えなくなった時は本当こんな事を考えつきやがった張本人をどうしてくれようかと何度俺は思った事か。兄さんが毎週手紙をくれていなかったら本当に行動に移していただろうな」


 あ、違うこの人ブラコンだ。しかも結構重度の。


 というかお礼を言われているようで、お前のせいで大好きな兄さんと離れ離れになったじゃねえかという恨み怨嗟が……ダダ漏れどころか直接言っている! 口調も荒れて一人称ブレてるし!

 それにミュレー公爵『は』って強調しているって事は、お父様には感謝しているけど張本人には……私の事だよね? 違ってほしい、でも……。


 ジェロームさん絶対私の事書いてる。


 ……あ、もしかしなくてもこの状況はマズイんじゃ……退学以上の酷い目に合わされない!?

 人生ゲームオーバー!?


「……失礼、少し我を忘れていた。とにかく話は以上だ」


 と思ったらまた助かった。

 もしかしてお兄さんの自慢がしたかっただけ?


「ああそうだ、この学園では男女交際について禁止はしていないが風紀は乱さないように。私が言いたいのはそれだけだ」

「う……はい、それでは失礼致します」


 そう言えばあの場に理事長もいたからアズマの告白を知っているんだよなぁ。


 アズマにはちゃんと考えるから三日待ってほしいとあの場では返事した。


 アズマが好きなのかなと考えると正直分からない。勿論友人としては好きだ。


 ただ、私は今もシュエット様の事が忘れられずにいる。この恋を成就させる気はないけどまだ次の恋を見つける気にはなれない。

 そんな状態でアズマが好きだなんて言えないし、でも友人としていてほしいなんてそんな我儘言えるわけがない。


 ぐるぐる考える。


 こういう場合どうしたらいいんだろう。誰かに相談する? でも誰に。

 同じ女性のコルセイユさん? でもまだそこまで仲良くないしシュエット様の事を知っている彼女には言えない。


 こういう時に頼りになるのは……。


 ******


「それは僕に言う事ではないでしょう」

「でもこういった事を話せるのはビオロ様しかいなかったので……」


 エイロン様はこういうのには向いていなさそうだしフィンク様もちょっと違う。まさか当事者のアズマに話すわけにもいかず、ビオロ様に話したら呆れたように言われてしまった。


 しかも名前を伏せてシュエット様の事を話したのに、やっぱりというかバレていた。


「アズマも気づいていますよ。あんなに真っ直ぐ貴女を見ていたんですから」

「なら」

「それでもエグレットに告白したんですよ」

「……私はシュエット様の事がまだ好きなんです。そんな状態でアズマの想いを受け入れてはアズマに失礼ですし、そんな不誠実な事はしたくありません。でも友人のままでいてほしいなんて勝手な事も言えません」


 だって私がシュエット様に友達でいようと言われて耐えきれなかったのに、それをアズマに言えるはずがない。


「それこそ僕ではなくアズマに話すべきですよ。そこからアズマがどうするか、エグレットはどうするべきか二人で話してみては? それで嫌われるなり距離を置かれたとしてもエグレットに問題はないでしょう?」

「う……」

「返事が『はい』と『いいえ』の二つだけとは限りません、時間はあるんですから二人でゆっくり考えればいいんです」

「そう、ですね……。ありがとうございますビオロ様、アズマに全て話してきます」


 正直なところアズマに全部話すのは怖い。婚約者のいる相手を好きで、今も諦めきれていないなんて話して軽蔑されたりしたら……けれど、返事を待っていてくれているアズマもきっと不安だろうから結果がどうなるにしろ早く返事をしにいこう。


 ******


「……アズマに対して失礼だとか誠実でいたいと考えている時点でもう答えは出ているようなものですけどね。ですが、僕もこのままでは人の事は言えません……エグレットにああ言っておきながら自分が何もしないわけにはいきませんし、僕も正直に想いを伝えにいきましょうか」


弟はブチ切れていました

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