任務の内容は?
後半、ユリエス視点に変わります
「座学は別々だけど、実習は同じ時間だね」
「とは言え、重なるのはここと……これもか」
ユリエスの持ってきたランチプレートをつつきながら、入学案内と一緒に渡されていた授業割を見比べる。
ユリエス、月科側は座学はほどほどで実習のほうが多め。対して俺は基礎からってことで実習は少なくほとんどが座学。
その中で同じ時間で割り振られているのが薬草学。温室で実習だから一緒のほうが効率いいってわけだ。たくさんの人数を組ませたほうがいい護身術も合同。
それでも週五日間の授業の中で重なるのはこの二つだけ。
「終わる時間は一緒か」
「話は、寮でするしかないね。時間は限られそうだけど」
「一人部屋だし、防音魔法だけ使っておけば話は漏れないだろ。
それより、ユリエスは聞いてるか?」
「今回の任務の詳細、かな。まあ少しなら」
言葉を濁すようにキッシュを口に運んだユリエスの様子に、少しだけ思うところがあったので無言で続きを促す。いつも以上に長い時間をかけてキッシュを食べ終えた後、観念したように呟いた。
「ここ何年か、この学園からの入省者の勉強不足が目立つ。かといって魔法省からの視察で行った時には特別楽な授業をしている様子は見当たらない」
「日常の様子を見ないと分からない事、ってわけか」
「そういうこと。僕らが一五歳になるからちょうどいいって笑ってたよ」
いかにもあの師匠の考えそうなことだ、ニヤニヤ笑いながら書類やらを準備したに違いない。その様子があまりにも想像できるものだから、その後のユリエスが少し気まずそうに紅茶を飲んでいたことには気づかなかった。
……危ない。細かいことは僕に丸投げしているのに、こういう時のディオは驚くくらい鋭いことを言ってくるんだよね。
もしかしたら、学園に来ることで本人も自覚のないまま気持ちが盛り上がっているのかもしれないけど。
さっきの師匠の言葉は本当だ。ただし、続きがある。
「ディオの世界はあまりに狭い。悪いことではないけど、私は可愛い子をただ愛でるだけでは物足りなくてね」
ディオには内緒だ、と僕だけに告げられた本当の任務内容。
ただの十五歳として、学園を楽しんでほしいと。もちろん疑問に思われないようにそれなりの細工はするけど、あとは本人次第。
面倒な書類の手続きも、潜入だということがバレれば師匠の立場すら危うくなることも。
その他全てをひっくるめても当たり前のように僕らのほうに傾く天秤を。
今日も綺麗な笑みの裏に隠し、師匠は魔法省で僕らのことを見守ってくれている。
「そういやさっきの令嬢」
「スフィア嬢ね。珍しいかな、自分で物を拾おうとするのは」
所作は綺麗だったし、聞いたことのある家名だったからたぶん高位の爵位持ちのはず。この学園に入るには使用人や侍女なんかは連れてこれないから自分でやるのはおかしいことじゃないんだけど、まだ入学式だからね。その辺に慣れてなくてあたふたしてる貴族は少なくない。
「ま、その辺の様子見は任せるわ。陽科では見れないからな」
「そうだね、そっちはよろしく」
いい具合におなかも満たされたことだし、そろそろ移動しようと立ち上がったら人の気配がざわついた。
「ユリエス、お前気づいてなかっただろうけどさっきから見られてたぞ」
「え?」
「成績優秀、物腰が柔らかそうでおまけに銀髪。どうみても優良物件だろうが」
銀髪、か。確かに貴族に名を連ねてはいるんだけどそういう扱いをされるのが苦手で短くしてるんだけどな。
髪を長く整えることができるのが貴族としての嗜み、なんていったい誰が考えたんだか。
「こればっかりは諦めろ」
「ディオ、自分が関係ないからってからかってるだろ」
「お、バレたか」
貴族じゃなかったら、たぶん、というか確実にディオに出会うことはなかっただろうから。
笑いながら足早に去っていくディオの背中を追いながら、それだけには感謝した。
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嬉しすぎてパソコンの前で変な声出ました