出会ったのは
「ユリエス、ちょうど良かった。このまま散策行こうぜ」
「それもいいけど、ディオ話は聞いていたかい?」
「ん? いや、あんまり」
「そんなことだろうと思ったけど、クラスが違うんだしこれからは自分でね」
傍から見たら幼馴染に苦労している、といったところか。入学前から知り合いっていうのが珍しいわけではないようだが、これなら今後俺たちが話していることも変には思われないだろ。
「まずは食堂に行こうか。またご飯抜いてきたんだろう」
「わざと抜いてるんだよ、ベッドが恋しくてな」
「そうだったね、それじゃ……あ、ディオ」
変なタイミングで名前を呼ばれて振り返れば、いつの間に解けたのかタイが床に落ちていた。
振り返って目に入ったのは、声をかけてきたユリエスともう一人、同じ制服に身を包み、緩めに巻かれた金髪を流しながら床に手を伸ばしたご令嬢。
視線に気づき、タイを取ろうとしていた手を戻し、ゆっくりと礼をしてみせた。
「差し出がましい真似を致しました」
「こちらこそ、お心遣いいたみいります」
出来ないわけではないが、こういう場合はユリエスに任せてしまったほうが手っ取り早い。
ぱっと見から庶民と思われる俺と、しっかりした育ちだと思わせるユリエス。
どちらの方が貴族からの印象がいいかなんて比べるまでもないだろう。
「月科になりました、セリ・スフィアと申します。
どうぞよろしくお願い致しますね」
「同じく月科のユリエス・ラングートと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「陽科のディオ、と申します」
タイを拾って雑に結び直し、ユリエスのついでのように頭を下げてみたが、目の前の令嬢はさして気にする様子もない。自分よりも成績が下な俺が話しかけたことにも嫌悪感を示すこともない。家名がなかったことにも疑問に思ってない表情をしていたし、頭の固い貴族じゃないかもしれないな。
失礼します、とまた一礼をして出口に向かう令嬢の背中を見送ってから自分たちも講堂から出る。
案外時間を取っていたようで、生徒の姿はほとんど見当たらない。
「さて、とりあえず食堂だな」
「それよりもディオ、」
「いいから、付き合えよ」
まだ何かを言いたそうなユリエスをわざとらしく遮り、校舎に向かう。食堂の場所は聞いてなかったが、俺が歩くことをやめないことが分かったようで、頼りになる幼馴染は一歩前に出てきてくれた。
「食堂の場所も聞いてなかったんだろう。こっちだ」
「さすが、頼りになるな」
そうして適当な雑談をしながら着いた食堂には、思っていたほどの人影はなかった。
さりげなく隅の目立たないところを陣取ったユリエスが紅茶に手を伸ばしながら先ほど口に出来なかった疑問を言葉にする。
「さっき、どうして」
「家名を名乗らなかった、か?」
当たり前のことをしなかった俺に納得いかない顔で頷かれた。いつもの任務の時には名乗ってた分、余計に不思議なんだろう。
潜入ってことは忘れちゃいないんだろうが、ユリエスの場合は素で忘れてそうなんだよなあ。
しょうがないから分かりやすく目の前に指を立てながら理由を上げていく。
「まずひとつ、あの令嬢――スフィア嬢の反応を見てみたかった。
ふたつ、あの場にはそれなりに生徒がいた。
そして最後に、お前これが潜入だって分かってるよな?」
「それはもちろん……そういう事か」
「そういう事だ。あの場でクラインの姓を出してみろ、任務中止だ」
サブタイトルって難しいですね。