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入学式

 ふわり、と浮かんだ灯が照らすのは、高い天井に派手ではないが目を引く装飾。

 石造りの壁には細かな文様が彫刻されていて、大きな窓を彩るのはステンドグラス。

 入学者全員と教師が入ってもなお余りある広さのここは講堂だと説明された。


「ずいぶんしっかりした所だな」

「……これは、物を知らぬ者が紛れ込んでいるようだ」


 案内された講堂の入口で呟いた独り言に反応したのは、あからさまな敵意を乗せた言葉。

 物を知らないって部分には同意する訳じゃないが、なにせ学校というものに通うのは初めてだ。ここは無視しておいてもいいんだろうか。


「耳も良くないようだ、見学は早めに終えることをおすすめしよう」


 明らかにこちらを侮蔑する視線を隠すこともなく向けられたけれど、思った通りの反応ではなかったのだろう、フンッと鼻を鳴らして歩いて行った。

 他の生徒や教師もいる前で堂々と言ってもいいことではないと思うんだが。


「あー、あんまり気に病むなよ」

「大丈夫ですよ、あのくらいなら慣れてるんで」


 今でこそなくなったが、魔法省に入ってすぐの時にはあれくらいのことなんて言われない日の方が少なかった。

 久しぶりに向けられた感情に、ちょっとだけ懐かしさすら感じつつ正直に思ったことを告げたが、案内をしてくれた教師は気まずそうな苦笑いを浮かべてから席を案内してくれた。

 学園の中での扱いが平等だ、と謳っている以上、後から注意くらいはするんだろうが染み付いた貴族意識はそう簡単に直るもんじゃないだろう。


「俺はここでユリエスは……前か」


 先に席についていたユリエスはすぐ見つかった。見慣れているのもあるが、銀髪はそれなりに目立つし、何より一番前の列に座っていれば嫌でも目に入ってくる。人混みの中から探す時に目印がわかりやすい、と言って呆れられたのはいつだったか。


「入学、おめでとうございます。案内された席順がそのまま学科分けになりますので覚えておくように。

 前二列が月科、後ろ二列が陽科となります。入学時の成績順ですが、今後の励み次第で学科は入れ替わることもありますので各自で十分に学んでください」


 言われてよく見ればユリエスは前から三番目。俺は三列目の最後だから、かなり手を抜いたんだろうな、師匠が。俺もこの先、適度に気を抜いていても変に浮くことなんてないかもしれない。そう思えばこの面倒くさい任務にも少しだけやる気が出てきた。



「それでは、最後に学園長からご挨拶をいただきます」


 そんなことを考えていた最中にも話は進んでいたようだが、その一言を最後に説明してくれていた教師が壇から下がる。

 代わりに立ち上がったのは、一昔前の魔法使いといえばこんな姿、を体現したような男性。

 後ろに撫でつけた髪は白く、同じ色の髭は鎖骨まで伸ばしている。笑みを作れば目尻の皺が増し、紺地のローブから覗く手には節くれだった指が目立つ。一見、ただの人好きそうなご隠居だが、こちらを向いた瞳から感じるのは意志の強さ。


「入学おめでとう。初代賢者ハイデルエルムの名のもとに、この学園での生活、これからの月日が君たちにとって実りの多いものになるよう、我々も力になろう」


 初代賢者、ハイデルエルム。

 その生涯については謎も多く、今でも手記や伝記の類は研究者にとって何よりも価値のあるもの、だったか。

 興味はないが、数ある功績のなかで魔法省を作ってくれたことには感謝だ。無かったら、なんて想像もつかないほどに。


「それでは、本日このあとは自由時間となります。学園内を散策するもよし、寮に戻って体を休めてもよし。

 結界が張ってあるところはまだ入れないところですので悪しからず」


 解散、と号令を受けて緊張した空気がざわざわと緩み始める。

 さてそれじゃユリエスがこっち来るまでちょっと待つとするか。


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