85 石と岩
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さらに新しいエリアへと進んだ俺達を待っていたのは、さっきまでとほとんど変わらない風景だった。
山だからか? 名前はストーレ山脈05。
この辺りのどこかに鉱山があるらしいけど、このエリアかどうかは分からない。探すしかないな。
「とりあえずどんなモンスターがいるか探ろうか」
「はーい!」
「キュルル」
「はい」
おろし金を伴ったまま先へ。
探索を再開だ。
随分先まで来たし、何か想定外のことが起きるかもしれない。
備えておく分には問題ないはずだ。
しばらくうろうろしてみたところ、ここはロックゴーレムとストーンマンだけが出現するMAPのようだ。
体感的にストーンマンとロックゴーレムで比率は7:3といった感じだろうか。
ロックゴーレムはタフだし、ストーンマンは弱点が身体を構成する石のどれかとかいう嫌らしい仕様でしかもそこそこ硬い。石だから。
高い攻撃力で殴るか、相手の防御力をなんとかする手段がないと厳しそうだ。
俺達は問題ないけど。
ここの二種のモンスターは魔法防御力が低いのか、魔法の通りが良い気がする。
魔法を撃てば一撃で粉々だ。
ちなみにミルキーの物理攻撃では一撃で倒せなかった。
それでも何回か攻撃したらバカっと割れるんだけど。
「今まで短剣での一撃で倒せる方が珍しかったのに、今では一撃で倒せないことに驚いてしまっています……」
と、ミルキーが呟いていた。うん、順調に毒されてきてるな。
早く慣れてしまった方が気が楽だぞ。
敵の数はそれなりに多い。
だけどやっぱり瞬殺出来るからピンチにはなりそうもないな。
「タマ、おろし金と一緒に散歩してきていいぞ」
「じゃあちょっと行ってくる! 行くよ、おろし金!」
「キュルッ!」
タマはおろし金の背中に跨って走り去って行った。
俺達はしばらくこの辺りでうろうろするとしよう。
せっかく防御力が高めの敵が出てきたんだし、素手で戦ってみようかな。
≪解放の右脚≫も最近育ってないし、レベル上げにも丁度いいだろう。
「俺しばらく素手で戦うね。上げたいスキルがあって」
「じゃあ私もお付き合いします」
「え、無理しなくても大丈夫だよ」
「いざという時の為に慣れておいた方がいいと思うので、練習しておきたいんです」
「そっか、分かった。それじゃあ一緒にやろう。少しでも危なくなったら遠慮なくスキル使ってね」
「はい」
「支援はかけておこうかな。速度上昇。速度上昇」
俺達二人は、歩き回っては見かけたモンスターに殴りかかった。
ストーンマンもロックゴーレムもひたすら殴る。殴る。たまに蹴る。
硬い石や岩に拳を叩きつけても全く痛くない。逆に石や岩が爆ぜるのは、いっそギャグだな。
「なんかこれ、楽しくなってきました!」
明るい笑顔とレベルアップの女神のエフェクトが咲いた。
女神も輝く笑顔でアッパーを繰り出して消えていった。
レベルアップの処理は後回しだ。近くの敵が一斉に集まってきたんじゃないかってくらい囲まれている。
だけど俺達に焦りはない。
こいつらの攻撃は簡単に躱せるし、当たってもそんなに痛くなかった。
喧嘩や格闘技なんて一切やったことなくても、思うままに振った拳で倒せるんだから正にステータスの暴力だ。
ストーンマンは二発、ロックゴーレムは五発程叩いたら砕け散る。
試しに思いっきり殴ってみたらストーンマンを一撃で倒せた。やっぱり力の入れ方とか殴り方でダメージは変わるらしい。
ミルキーはStrの補正がタマの≪全能の種≫の分しかないから、俺よりもかなり低めのはずだ。
そのせいか倒すのに必要な攻撃の数が俺よりも多い。だがそれでも十発程度で殴り倒せるのはすごいんじゃないか?
大振りじゃなくて、連打を重視したパンチでそれだからな。
「でもかなり増えてきたな。一回魔法で全部倒そう」
「はい」
「火弾火弾火弾火弾火弾」
「ファイヤージャベリン!」
一旦敵の数をリセットしようと魔法を放つ。
≪我らが道を行く≫の効果で7倍の28個に増えた火弾をやや拡散するように放つ。
それを正面が綺麗になるまで連打だ。
火弾は最初から複数発を同時に発射する魔法だが、弾道のコントロールは出来ないしタイミングをずらすことも出来ない。
せいぜい発射する角度を変える程度で、弾道は真っ直ぐでしかない。
それは数倍に増やしても一緒だ。目の前に浮かんだピンポン玉サイズの弾をまとめて真っ直ぐ平行に放つか、それぞれに微妙に角度を付けて広がるように放つか。
俺の中でのイメージはショットガンだ。
目の前に密集していれば拡散させて、距離があれば真っ直ぐに。これを連打するだけですぐに敵はいなくなるだろう。
ミルキーの方は、自前の火属性魔法を選択した。
ユニークスキルである≪弾属性魔法≫は≪我らが道を行く≫の分しか増えないが、普通のスキルの場合は≪解放の右腕≫の倍率もかかるのは実証済みだ。
だからミルキーの魔法は単発の魔法なのに七十発も放たれる。
しかも俺の≪火弾≫と違ってターゲッティングは思考制御だ。視界に入っている敵目掛けてほぼ自動で放たれる。
動きの遅い石ころでは避けようもなく、石炭と化していた。
魔法攻撃力に関しては多分俺よりも上だろうからな。恐ろしい威力だ。
地面は焦げて、何か所も陥没してしまっている。爆撃にでもあったかのような惨状だ。
「片付いたね。俺のレベルも上がったよ」
レベルアップで現れた女神がミルキーの起こした爆炎に怯えていた。
女神に攻撃ってあたるのかな。
「おめです。いつもと同じ魔法なのに、ダメージ量が桁違いです。それにあんなに一度にモンスターを倒せるなんて……」
「数まで増やせるなんてすごいよね。流石にやりすぎな気がする」
威力が100倍になったとして、Intの数値がおかしいから100倍しなくても倒せる場合は完全に無駄だ。
それなら1倍の威力で100発撃てた方が、数が多かったり当てづらいモンスターが相手でも安心出来る。新しい使い方を発見出来て良かった。
「さて、またモンスターを捜しにうぉあっ!?」
「きゃあ!?」
俺の言葉が言い終わらない内に浮遊感。思わず変な声が出た。
それどころじゃない!
何何何!?
辺りは一瞬で暗闇に包まれて、太陽の明かりが頭上へ遠ざかって行く。
訳も分からないまま数秒経って、落下したのだと気付いたのは尻で着地をしてからだった。