82 発想の転換
「無弾無弾無弾無弾無弾無弾無弾無弾無弾無弾無弾無弾!!」
新たな魔法を習得した俺は張り切っていた。
歩きながら敵がいようがいまいがひたすら連打だ。
寄ってくるウルフも寄ってこないマシューも、全部まとめて木端微塵になっていく。
「ナガマサさん、それは何をやってるんですか?」
「新しく魔法を覚えたからスキルレベル上げだよ」
「何か嫌なことでもあったのかと思いました」
何故か心配したような視線を感じる。
そんなことはないと思うんだけど。
新しい魔法の使い勝手が良さそうで、ついついはしゃぎすぎてしまったみたいだ。
モンスターだけじゃなくて通った場所の木も木端微塵にしてしまったしな。
「タマもやるー! たのしー!」
俺の行動を見て興味を持ったタマが≪弾属性魔法≫の≪無弾≫を連射する。
パーティーを組んでるから俺達はダメージが無いけど、もし他のプレイヤーに当たったら死ぬかな。
なんて危険なんだ。
気を付けるようにしよう。
「中止!」
「えー」
「誰かに当たったら殺しちゃうから」
「ぶっころすぞー!」
「ダメです」
「あ、ナガマサさん」
「え、なに?」
ミルキーさんが言うには、範囲魔法じゃない魔法は当てる相手をしっかり認識していないとダメージにならないらしい。
もう少し詳しく言うと、そこにいることを知ってさえいれば適当でも流れ弾でも当たるけど、発射した時に認識していない相手にはダメージにならないとのことだ。
知らなかった。
「でも危ないからモンスターに向けて撃つようにしてくれ」
「はーい」
まだ街からそんなに離れてないこともあってモンスターはそこまで多くない。
タマ一人の攻撃だけで十分過ぎる。
視界に入った瞬間撃ち殺してるからな。
早撃ち過ぎて俺とミルキーはもはや歩いてるだけだ。
どうやらこの魔法、クールタイムやディレイと言った、魔法を撃った後に発生する硬直時間みたいなものが極端に短いようだ。
詠唱時間に関しては、俺のステータスだと無詠唱で0秒になるらしく本来設定された時間は分からない。
だからひたすらに連打出来る。
その代わりに威力は低めのようだが、30倍されていれば充分な威力がある。
しかもレベルが上がれば威力が上がるんだが、単純に一発の威力が上がるわけじゃない。
レベル1で50%、2で50%が二発、3で70%が二発、4で70%が三発、といった具合に発射できる数が増えていく。
MAXの10になると120%を5発同時発射出来る。
最後だけ6発にならずに威力が上がるみたいだ。
≪我らが道を行く≫がMAXになれば1200%を5発。
しかも連打が利く。
かなり強い気がする。
元になるMatkも結構高いしな。
雑魚敵に対しては120%の方じゃなくて5発の方を10倍にしてほしいところなんだけどな。
威力は足りてるからそうすれば範囲攻撃になるのに。
でもその理屈だと他の単発スキルも威力じゃなくて数を10倍に出来てもおかしくないし、多分無理だろうな。
俺とタマが連打したお陰でレベルが3になってるから二発撃てるな。
ダメで元々って言うし、一応試してみるか。
「タマ、次に敵がいたら俺にやらせてくれ。試したいことがあるんだ」
「りょうかーい!」
「どうしたんですか?」
「ちょっとね。多分出来ないと思うけどやってみたいことがあって」
出来ないだろうなぁって思ってることを説明するのもなんだか気恥ずかしい。
ミルキーも察してくれたみたいでそれ以上聞かれなかった。
ありがたや。
丁度良くウルフが一匹、こっちに向かって来ている。
人差し指をウルフに突き付ける。
何かを設定するような場所は特にない。
思考で数を増やすと念じながらやってみよう。
数を増やす数を増やす数を増やす。
「無弾!」
魔法を使用すると、さっきまで撃ちまくっていたピンポン玉くらいの灰色の球体が八個現れた。
レベル3だと二発の筈が八個。
≪我らが道を行く≫のレベルが4になってるから、本来の4倍の数が出現したことになる。
なんと成功してしまった。
出来るのかよ!
ということは同じような効果を持つ≪解放の右腕≫の分も出来るのか?
とりあえず八個の無弾でウルフを爆砕しておく。
「マジカルスラッシュ!」
木に向かって魔法の斬撃を飛ばしてみた。
細切れになった。
正確な数は分からないが、明らかに一発では無かった。
推測が正しければ40発の斬撃が放たれたはずだ。
範囲攻撃習得しちゃったよ。
「突然どうしたんですか?」
「どうしたモジャモジャー」
「ええっと、新しい発見をしたから二人にも教えとく」
早速情報を共有する。
範囲攻撃が無いことを気にしてたのに、まさか数をスキルレベル倍に出来るなんて予想外だった。
確かに『威力をスキルレベル倍』してることには違いないんだろうけど。
でも範囲攻撃の手段が手に入ったのは良いことだ。
同時に何回も発動してる訳じゃないからスキルレベルを上げるのに影響は無いけど、とてつもなく便利だ。
これで攻撃手段に関してはほぼ完璧だと思うから、やっぱりサポート系のスキルを取るべきだな。
他の魔法も気にならないわけじゃないけど……正直扱いきれる気がしない。
≪弾属性魔法≫はユニークスキルで、俺だけの属性の魔法だから思わず取ってしまった。
それでこの発見があったんだから本当に取って良かった。
魔法自体も有用だし。
レベル3に上がったことで新しく≪火弾≫の魔法を習得した。
これは威力等に関しては≪無弾≫と一緒だ。
火属性が付いただけだな。
属性違いがどんどん使えるようになるんだろうか。
楽しみだ。
優先してレベルを上げて行こう。
そうこうしてる内に次のエリアの手前まで来てしまった。
今の時点で緑は少ないように見えるから、この向こうは多分ほとんどないだろう。
どんなモンスターがいるかな。




