80 練習と前進
ミルキーの姿が消えたと思ったら、離れた場所に居た。
そこから更に別の場所に。
次は空中だ。
と思ったら、そのまま落下して地面に落ちた。
「うっ……痛、くない」
「ステータスが高くなってるから、そのくらいの高さならダメージは無いみたいだね」
「ありがとうございます」
ミルキーは差し出した手を握って起き上がる。
空中に移動したはいいものの、慣れない視界に戸惑ってしまったみたいだな。
パニックになると上手く移動出来なくなるからな。
「これ、すごく変な感じですね」
「確かにそうだよね。見てる光景が一瞬で切り替わるし」
今は≪解放の左脚≫の効果である瞬間移動の練習中だ。
まさか全てのユニークスキルが共有化されるとは思わなかったけど、使えるようになったんなら使いこなせた方が絶対にいい。
しつこいかもしれないけど、本当にそう思う。
≪解放の左脚≫の効果は、見える範囲なら距離を跳び越えて次の一歩を届かせること。
簡単に言って瞬間移動だ。
しかも、空中も蹴れるようになるから空中へ移動することも、空中から移動することも可能だ。
このスキルをフル活用して、全方位から高速で蹴りを放ち続ける嫌がらせをしたこともある。
そのくらい便利なスキルだ。
だけど、ミルキーの言う通りすごく変な感じだ。
俺はなんとなくですぐに使えたけど、慣れるまで大変だと思う。
広くて平たい場所で真っ直ぐに向けて使うなら特に問題はないだろう。
だけど方向転換しながらとか、空中に向けてとか、風景がガラッと変わるような位置で使うとどうしてもびっくりしてしまうというか、混乱するらしい。
ミルキーもそれで空中に跳んで、空を見上げてる状態から地面を見下ろす視点になって、思考が追いつかずに次の一歩が踏み出せなかったんだそうだ。
理屈で説明出来ないし、慣れるまでやるしかないな。
「どんどんやろう。きっとすぐに慣れるから」
「はい!」
続けて練習してる内に、ミルキーはすぐにコツを掴んだらしい。
連続で跳んでも動きはおかしくないし、空中を織り交ぜても問題なさそうだった。
呑み込み早いな。
「すごいね、もう完璧だよ!」
「ありがとうございます。なんとか分かってきました」
「ただいまモジャー!」
「うわっ!」
「タマちゃん!?」
ミルキーを褒めていると突然タマが現れた。
背中に乗っているらしく姿は見えないが、俺の頭をわさわさする感触と声で分かった。
どこかへ遊びに行っていた筈なのに、いつの間に来たんだ。
「一体どこから現れたんだ?」
「なんか新しいスキル増えたからそれでしゅばっと!」
「おおぅ」
「あはは……」
言いながら、タマの姿が縦横無尽に現れては消える。
もう完璧に使いこなしてるな。
流石タマ、うちの最強担当だ。
「それじゃあスキルもある程度使えるようになったし、先に行こうか。このまま北でいい?」
「はい、真っ直ぐ行きましょう」
「おー! 前進だー!」
タマの姿が消える。
かなり先に現れた。
まさか≪解放の左脚≫で行く気か!?
このまま放っておくとどこまでも真っ直ぐ突っ込んで行きそうだ。
追いかけないと。
「俺達も行こう!」
「は、はい!」
常に一番遠くを意識して足を踏み出す。
しっかり見える距離までじゃないと受け付けてもらえないみたいけど、それでも一歩で数十mは進む。
その速度で走ったら時速何キロに相当するんだろうか?
1分もかからずに隣のエリアの手前まで来てしまった。
「いっちばーん!」
「すごいなー、タマは速いなー!」
「へへー!」
タマには追いつけなかったが、ちゃんと待っててくれた。
頭を撫でておこう。
心配し過ぎだったな。
タマの一歩は多分俺達の数倍はあったから、あんなのに追いつける訳がない。
相棒は眼が良いのか?
次のMAPへ移動した。
そこは木がまばらに生えた山だった。
草もそれなりに生えている。
まっすぐ北に向かうにはどんどん登って行かないといけないみたいだ。
このMAPもアクティブのモンスターはほとんどいないんだろうか。
キノコのモンスターや、おなじみのプルンなんかが平和そうにピョコピョコ跳ねている。
キノコの名前は≪マシュー≫。
人名みたいだな。
遠くに見えるのは放っておいて、通り道にいるのはミルキーが急上昇したステータスに慣れるための実験台になってもらう。
が、攻撃力も何もかも上がり過ぎて、なんの参考にもならなかった。
俺もほったらかしてたスキルのレベルを上げる為に皆に≪速度上昇≫を掛けたり、≪マジカルスラッシュ≫を放ったりしている。
≪我らが道を行く≫の効果は1倍だけど≪解放の右腕≫の方の効果で10倍されるから≪速度上昇≫でAgiが60上がる。
これだけでも十分すごいと思う。
なんかすごく少なく感じるのは異常なんだろうな。
まずい気がする。
「おめでとう」
「おめでとー!」
「ありです」
ミルキーのレベルが上がった。
やっぱり経験値が20倍されてると早いな。
俺の方はすごく遅く感じるんだけど、レベルの差だろうか。
「すぐステータス振っちゃいます。――ほんとにポイント増えてますね!」
「そうだね。これからもっと増えると思うけど」
「ほんとにとんでもないとしか言えないですね……」
「大丈夫、これからはミルキーさんも一緒にとんでもなくなれるから!」
「確かに安全なのは間違いないんですけど、喜んでいいのか複雑です」
ミルキーは微妙な顔をしていた。
あまり嬉しくなかったようだ。
残念。




