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62 招かれざる客とへっぽこダンス

初投稿から一ヶ月が経ちました。

皆様の応援のお陰で結構なハイペースで更新が維持出来ております。ありがとうございます!

これからも応援よろしくお願いします!


「うおー! ミゼルー!」


 びっくりした。

 パーティーが始まり、偉そうなおじさんがミゼルを紹介すると同時にパシオンが叫びだした。

 周りの人達は、なんと平然としている。

 招待客ばかりだからパシオンのこともみんな知ってるんだな。


 謎2階からミゼルが降りてきた。

 階段を一歩ずつ歩く姿は立派な王女。

 ミルキーにも負けないくらいの美人だ。

 明日で16歳になるからまだ幼さも残ってるけど、将来は間違いなく超美人になる。


 奥の方で微笑んでるのは王とその奥さんか。

 大きく育ってくれてきっと嬉しいに違いない。

 それはパシオンも一緒なんだと思う。


「ミゼルウウウウウウゥウウゥウゥウゥゥゥゥウゥゥウ!!」


 けどこれは本当にうるさい。

 お前はもっと心が小さく育って欲しかった。

 さすがに迷惑じゃないのかこれは。


「えいっ」

「げぶふぉ!?」

「タマ!?」


 タマが突然拳をパシオンの鳩尾に叩き込んだ。

 息を吐ききったところを狙われたせいか、地面に倒れて悶えている。

 なんてことするんだ。

 ちょっとスッキリしたけど。


 でも貴族の集まる中で王子をぶん殴って済むとは……あれ、誰も反応しない。

 騎士や兵士すら素知らぬ顔をしている。

 離れた位置にいるミゼルに、親指を立てられたような気までした。


「タマ、うるさいからって突然殴ったらだめだぞ」

「はーい」

「ごほっ、まず私に言うことがあるのではないか? まあ、良い。私もはしゃぎ過ぎた自覚はある」

「自覚があるならもっと自重したらいいんじゃ」

「私のミゼルへのこの、愛は!! 誰にも!!抑えることなど」

「タマ」

「なぐってもいーい?」

「ぬ、出来ぬぐぶふっ!!」


 突然殴ったらダメだと言われたタマの質問にも屈せずに、また悶絶していた。

 ほんとに王子らしくない王子だ。

 偶に敬語を忘れるくらいには親しみやすいんだけどな。


「パシオン様! 大丈夫ですか!? 貴様、殿下に向かってなんということを!」

「よい、下がれジャルージ」

「しかし」

「下がれと言っている」


 パシオンに駆け寄ってきて、俺達を睨みつけたのはジャルージ。

 しかしパシオンは露骨に不快そうな顔をしている。

 殴られたことに腹を立てていないなんて、意外と器はでかいのかもしれない。

 女子には優しいみたいなことも聞いた気がするし。


「おやおや、このようなめでたい日に何の騒ぎかと思えば、パシオン殿下ではございませぬか。本日は真に、おめでとうございます」


 そこに一人の男が現れた。

 パシオンの知り合いの貴族かな。

 年代もそんなに変わらないように見える。

 しかし、なんだか周囲の様子がおかしい。

 さっきまでパシオンが殴られてても一切動じてなかったのに、何かあったんだろうか。


「貴様は……! 貴様を招待した覚えはないぞ、ヴェルス」

「いえいえ、私はきちんと招待状をいただいておりますよ」

「何……!?」


 パシオンも様子がおかしい。

 愉快な感じは消えてジャルージにも向けていた不快そうな顔を、更に不愉快で煮詰めたような顔をしている。

 ヴェルスと呼ばれた男が懐から取り出したものを見て、パシオンの顔は驚きと困惑でいっぱいになっていた。


 招待してない?

 じゃああれは何だ?

 仲が悪い相手に招待状が届く手違いでもあったのか?


「招待状の手配は貴様に任せた筈だな、ジャルージ」

「はっ。しかと送り届けてございます」

「では何故、こいつが招待状を持っている。納得のいく答えを寄越せ」

「ソラックス家は名門であり、子息であるヴェルス様はパシオン様にとっての御友人。招かぬ理由がございません」

「ほう――こいつが友人、だと?」


 パシオンの顔は笑っている。

 が、鈍い俺でも分かる。

 これは間違いなく怒ってる!

 ヴェルスは二人のやりとりをにやにやしながら眺めている。

 なんか嫌なやつだな。


「もう良い。お前はしばらく謹慎だ。連れていけ」

「ぱ、パシオン様!? 何故です! 何故私にこのような仕打ちを! パシオン様!!」


 ジャルージはパシオンの号令で出汁巻とタマに両脇を抱えられて退場していった。

 待て、なんでタマが手伝ってるんだ。

 まぁいいか。

 せっかくのドレスなんだから汚すんじゃないぞ。


「お祝いに来ただけなのですからそう邪険にしないでくださいよぉ。明日の儀式でのミゼル様のお姿を拝見出来ることを、光栄に思っておりますよ。それでは、失礼いたします」

「ちっ、貴様なんぞに見せてやるミゼルはおらぬわ」


 俺の思い描く貴族っぽさを全開にした挨拶をして、ヴェルスは去って行った。

 パシオンはよく分からない捨て台詞を吐いている。

 儀式やパレードはお披露目の場じゃないのか。


「で、あれは誰なんですか?」

「あいつは敵だ」

「えぇ……」


 微妙に答えになっていない。

 呆れていると、詳しく教えてくれた。


 なんでもとある大貴族の息子で、パシオンとは同い年らしい。

 事ある毎に絡んできてはミゼルにちょっかいをかけるから、パシオンがヴェルスを嫌っていることは有名なんだそうだ。

 だからこの場にいることに皆が驚いていたのか。

 ジャルージは本当に何がしたいんだろう。

 

「お兄様、なんの騒ぎですか!?」

「おおミゼル! あの忌まわしいヴェルスが来ていたのだ。ジャルージの奴が招待状を送っていたらしい」

「まあ、ヴェルス様が?」


 主役のミゼルがやって来てしまった。

 ただ見てただけで申し訳ない。

 ヴェルスのことはミゼルも苦手なのか、浮かない顔をしている。

 可愛いし、王女なら変なやつに狙われてもおかしくはないだろうな。

 兄がダントツで変な奴だと俺は思ってるけど。


 だけどミゼルが来たことでパシオンの機嫌はすっかり直っていた。

 むしろ最高潮だ。

 ミルキーが不安がってたし助かった。

 頼りにならなくてほんと申し訳ない。


「そういえば、儀式って何をやるんですか?」

「何だナガマサよ、この国に伝わる王族の成人の儀式である≪滅魔の儀≫を知らないのか?」

「すみません、無知なもので」


 パシオンは得意げに教えてくれた。

 この国は遙か昔に≪魔の者≫と呼ばれる一族と戦っていた。


 悪魔のような姿と力を持つ、アニメとかではよく魔族なんて呼ばれるような存在らしい。


 その戦いは、とある強力な竜達の力を借りてようやく終わらせることが出来た。

 その竜の内一体が守護竜となり、今もこの国の平和を見守っているという。


 そういう言い伝えがあり、王族は16歳の誕生日である成人の日に、守護竜に対して≪魔の者≫と戦い続ける誓いを捧げるんだそうだ。

 だから参列者は全員、鎧等の戦装束に身を包むのが習わしだという。

 それでパシオンはタマの鎧を欲しがったんだな。

 ミゼルに相応しい衣装として。


 そういえば、鎧はもう出来たのかな。

 でもこの場にはミゼルもいるし、今聞くのはやめとこう。

 後でまたこっそりと、だな。


「む、そろそろ出番か」

「あまり得意ではないのですけれど」


 音楽の感じが変わった。

 何事かと思ってたら、ホールの中央から人が避けていく。

 そしてパシオンがミゼルを引っ張って行った。

 ダンスの時間が始まったらしい。


「ナガマサさん、その、せっかくですし私達もどう、ですか?」

「あっ、はい。是非」


 ミルキーに誘われてしどろもどろになってしまった。

 こういうのは俺から切り出すものだったかもしれない。

 情けない。

 だって女の人とこういうシチュエーションになることなんてなかったし。

 人生経験の少なさが響いてくる。


 だが、俺は第二の人生を踏み出した。

 精一杯楽しむんだ。

 ダンスくらい超ノリノリで踊ってやるさ!


 ミルキーの手を引いてダンスの輪へと飛び込んでいく。

 その後どうなったかは、うん、レベル上げだけじゃなくダンスの練習もしようと心に誓った。



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