表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

403/407

339

大変遅くなりました。

地味ですがクライマックスです


 目が覚めると、そこは我が家だった。

 二階にある俺の部屋だ。タマも一緒に居る。


 意識していなかったが、自動的にセーブポイントが更新されていたらしい。

 セーブ地点に飛ばされるようなことが無かったから知らなかった。

 でも、モグラは知ってる感じだったな。

 拠点は自動的に登録される仕様なのかもしれない。


「帰ってきましたね」

「ただいま、ミルキー」


 ドアが開いて、ミルキーが入って来た。

 感慨深そうに微笑んでいる。

 なんだか、さっきまでの出来事が夢か何かに思えてくる。


 でもきっと、夢じゃない。

 最速で頂上に到達して、タマがスキルを取得して、管理AIのナナコに出会った。

 そして――俺達は脳との繋がりを断った。


 でも何も変わっていない。

 こうやって思い出すことも出来るし、考える事も出来る。

 何一つ変わらない。

 俺は俺のままだし、目の前にいる大事な人も、ミルキーのままだ。


「モグラを迎えに行ってくる!」


 タマは窓越しに瞬間移動をして、消えていった。

 いつも通りの騒がしさに、つい笑顔が零れる。


「とりあえず降りようか」

「はい」


 なんとなく手を繋いで、一階へ降りる。

 リビングには困惑した様子の葵がいて、ミゼルがお茶を淹れていた。


「葵も帰ってたのか」

「ナガマサ、ミルキー……! 塔に上ってたのに、気付いたらここにいた……!」

「ああ、葵も上ってたんだな」

「人ごみ嫌いだから、人が減ってから上ってたの……!」


 ≪無限の塔≫の中でログアウトすると、再度ログインした時はセーブ位置に戻される仕様らしい。

 俺達が行った時は気付かなかったけど、その後にでも入ったんだろう。


「ナガマサ様、いつの間に戻っていらっしゃったんですか? 今、お茶を淹れますわね」

「うん、ありがとう」

「あ、手伝います」

「丁度淹れていたところなので大丈夫ですよ。ミルキーさんもどうぞお座りくださいな」

「ありがとうございます」


 ミゼルにお礼を言いつつ席に着いた。

 俺とミルキーの前に、ミゼルがお茶の入ったカップを置いてくれた。

 微かな良い香りが漂ってくる。


「ふぅ」


 やぱり我が家は落ち着く。

 PKに襲われて、モグラに助けられて。

 タケダやミルキーと出会って、タマが急成長して。

 その後も色々あったけど、満喫してきた気がする。


 我が家もこうやって買ったし、畑で色々育てたし、学校まで作った。

 世界ごと逃げるっていうのがよく分からないけど、この生活を続けていけたらいいな。


「たっだいまー! 連れて来た!」

「やっほー。お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

「ああ、いらっしゃい」


 懐かしい気持ちに浸りながらぼーっとしていると、タマが元気よく入って来た。

 その後にはモグラとナナコが続く。

 どこにいたのかは分からないが、タマが無事に連れて来てくれたようだ。


「ようこそモグラさん。どうぞお座りください」

「ありがとー。これ、お土産ね。葵、元気にしてる?」

「ありがとうございます。今お出ししますわね」

「元気……!」


 モグラは何度も我が家に遊びに来ていて、慣れたものだ。

 いつも通り手土産をミゼルに渡して葵に声を掛ける。

 いつも通りの光景に、モグラも安心したような微笑みを浮かべている気がする。

 本当に、さっきの出来事が嘘みたいだ。


「よいしょ、っと」

「んしょ」

「どうぞ」

「ん、ありがと」

「ありがと」


 モグラとナナコが俺達の対面に座った。

 ミゼルが二人にお茶を出してくれて、二人がお礼を言う。

 ナナコは初めてだけど、ミゼルは特に気にせずに持て成してくれている。


 葵とタマはナナコを気にしつつ、モグラの真面目な雰囲気を察したミルキーに誘導されてカーペットの上で転がることにしたようだ。

 おろし金も混ざって川の字が荒れ狂っている。 


 離れていく時に、ミルキーがチラリとこっちを見た。

 まるで、全部任せると言わんばかりの信頼を感じる。


「さて、とりあえず物理的な邪魔は防げたけど、実はあまり時間がないんだ」

「時間がない?」

「被験者達の脳との接続が断たれたのがばれた。それでサーバーの電源を落とされた。今は非常用電源で動いてるけど、そっちも対応されたみたいで後一時間ももたない」

「一時間……」


 確かに時間はないが、それでも全くないわけじゃない。

 その間に逃げ出せばいいだけ――だよな?


「それまでに逃げ出すことは?」

「出来る」

「そっか、良かった」

「それが、ちょっと条件があってね」

「条件?」


 条件って、なんだろう。

 モグラの微妙な顔を見るに、あんまり良い話ではない気がする。

 だけど聞かない訳にもいかない。

 覚悟を決める。

 それを察してくれたように、モグラも話を切り出した。


「データ容量を減らす為に……皆の記憶とステータスを、実験前の状態にリセットする」


 モグラが語ってくれたのは、こういうことだった。

 逃げる先は決まっている。

 が、残された時間と電気量では、全てのデータを移動するのは不可能。

 それに、データが大きい程に逃亡の痕跡は辿られやすく、発見されやすい。


 だから、必要最小限のデータだけを残す。

 マップやモンスターのデータも、最低限だけにする。

 この≪CPO≫を移動した後、ナナコの手で世界を再び広げる事で、再構築する。

 だから支障はないそうだ。


 理屈は分かった。

 だけど、記憶が消える?

 

 それは、ミルキーやミゼルと出会った事は勿論、おろし金やモグラやタケダ、葵に石華。

 ゴロウに純白猫にゴロウとゼノ。

 ついでにパシオンなんかとの思い出も、全部無くなってしまうってことだ。


「どうにもならないんですか? そうだ、さっき言ってた加速をすれば――」

「それも電気が足りない。十人程で良ければいけると思う。その場合でもマスター達のスキルとステータスは初期化しないとだけど。そこが一番容量を食べる」

「そう、なんだ」


 どうにもならないらしい。

 

 モグラがじっと見つめてくる。

 これはさっきも見た。

 これは、俺に選択を迫ってる眼だ。


 何もしないで、残り一時間を過ごして死ぬか。

 全員で、記憶とステータスがリセットされた状態で新しい生活を始めるか。

 僅かな人数で、記憶が完全な状態で、今までに近い生活を続けるか。


 そんなの、考えるまでもない。

 決まってる。

 俺は、第二の人生を楽しむ為にここに来た。

 なら選ぶ道は一つしかない。


「新しい世界には、全員で行こう」

「ナガマサさんならそう言うと思ったよ」

「了解」


 記憶を失うのは、やっぱり悲しい気持ちになる。

 だけど、大丈夫。

 きっと無くなったりはしない。


 ここからまた、俺の――俺達の、第二の人生が始まるんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めましたので、こちらもよろしくお願いします!
友人に騙されたお陰でラスボスを魅了しちゃいました!~友人に裏切られた後、ラスボス系褐色美少女のお嫁さんとして幸せな日々を過ごす私が【真のラスボス】と呼ばれるまで~
面白いと感じたら、以下のバナーをクリックして頂けるととても有難いです。 その一クリックが書籍化へと繋がります! ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] ここで終わりかな? ごちそうさまでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ