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祝☆真☆400部突破!!
長くて白い髪に、白い瞳。
服装もシンプルな白いワンピース。
ついでに肌も透き通るように白い。
そんなにじっと見られても、マスターになった覚えはない。
よく分からない存在に、どうしていいか分からない。
ミルキーも困惑している。
「いえーい!」
「いえーい」
タマだけは何故か仲良さげにハイタッチしている。
様子を見るに、テンションは控え目だけどノリは良さそうだ。
「この子は、この世界の管理AIだよ。だから警戒しなくても大丈夫」
「わたしの名前は自律型管理用AIバージョンなな」
「通称≪ナナコ≫ね」
「好きによんで。でもナナコは正直ダサい」
「はははー、相変わらず厳しー」
突然現れたこの少女は、ナナコという名前らしい。
こんな女の子がこの世界の管理をしているのか。
モグラが言うには、この世界でのクエストや装備品、スキルなんかはこのナナコが作り出しているらしい。
あらかじめ用意されているスキルもあるにはある。
しかし、それだけだと自由度が追いつかない。
そこで取られたのが、今の方式。
行動や素質、色んな要素によって新しく生み出す。
それはスキルだけではなく、アイテムやクエスト、この世界を構成する全て。
スケールが大きい。
タマと同じくらい小さいのに、すごいんだな。
ウチのタマもすごいけど。
「でもタマちゃん、どうしてそんなにナナコと仲が良さそうなの?」
「さっきモグラのお願いを聞いた時に、手伝ってもらった!」
「管理者権限の所有者はマスター。タマはマスター。貴方と貴女もマスター」
「なるほどね。それじゃあオレは?」
「貴方は一般人」
「ですよねー」
さっきのお願いというのは、制限解除がどうのってやつだろう。
管理者権限を持っているとナナコから見たらマスターになる。
つまり、ナナコにお願いすれば色々やってくれるということだな。
納得したモグラが、ついでのようにナナコへ問いかける。
ナナコの返事はあっさりしたものだった。
特にショックを受けたりはしていないようで、笑っている。
「会ったことはある。でもわたしは管理AI。管理者権限を持たない人に対しては第三者の立場でないといけない決まり」
「ああ、そういうことね。相変わらず堅いなぁ」
「あーあー、一般人の台詞は聞こえない」
モグラとナナコは仲が良さそうに見える。
だけど管理者権限を持たないモグラに対して、ナナコは何も言うつもりは無いようだ。
「モグラさん、その、このスキルって譲ったり出来ないんですか?」
「ん? あー、気を遣ってくれてありがとね。ちゃんと備えてあるから大丈夫だよ」
モグラはニッと笑う。
そして、耳を塞ぐフリをしているナナコと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「裏コード入力。エマージェンシーモグラ」
「裏コード、受付完了。モグラ、何処行ってたの?」
「ごめんごめん、色々あってさ。っていうかオレの記憶全部読んだ方が早いと思うよ」
「分かった」
明らかにナナコの雰囲気が変わった。
モグラの素性がはっきりしたらしく、とても嬉しそうに見える。
詳しい事情は分からないが、きっと色々あったんだろう。
だけどあまり放っておかれても困る。
モグラをせっついてみることにした。
「モグラさん」
「ああ、ごめんね皆。つい嬉しくなっちゃって。これからのことだよね?」
「はい」
「さっき少し話したんだけど、この実験はくそったれだ。だからオレは、この世界ごと、奴らの手の届かないところへ逃げたい。ナナコにお願いすれば、すぐに実行出来ると思う」
「任せて」
「なるほど……」
正直なところ、逃げ出すのに賛成だ。
理不尽なステータスに加えて管理者権限まである今の状態なら、無敵に思える。
でも結局、俺達の本体は現実側にある。
物理的な排除の可能性は十分考えられるだろう。
「ナナコ、色々聞いてもいい?」
「何でも聞いて」
モグラはナナコから情報を集めるようだ。
その間に、俺達はじっくり考えないといけない。
「ミルキー、どう思う? オレは、ちょっかい出されないように出来るならそれがいいと思う」
「そうですね。私も、そう思います。運営が積極的に殺そうとしてくる世界なんて、話が違います」
「本当にね」
ミルキーも俺と同じ意見で安心した。
逆に、運営の手が届く範囲に居たいなんていう人はいるんだろうか。
俺の頭だと、どう考えても逃げた方が良いように感じる。
……あれ?
何か引っかかる。
一応、確認しておこうかな。
「意見は固まった?」
「はい。ただ一つ聞いても良いですか?」
「いいよ。何?」
「俺達は脳が現実側に保管されてる筈ですよね。そっちはどうなるんですか?」
聞いた瞬間、モグラの顔が固まった。
しばらくそのままだったが数秒後、盛大な溜息を吐いた。
「――はああぁ……。ばれちゃったかー」
「ばれちゃったって、どういう……」
「脳と繋がってる以上、そこはどうしようもないよ。世界ごと逃げたとしても、脳が破壊されたり、ケーブルを切断されたら終わりだね」
「そんな……!?」
モグラは、あっさりと言った。
ミルキーは驚いているが、なんとなくそんな気はした。
「でも待って。騙そうとしてたわけじゃないんだ」
「それじゃあ、逃げる場合はどうするんですか?」
「この世界の時間を加速させるんだ。3600倍まで加速すれば、向こうの一秒で一時間経過する。一日経てば十年で、十日なら百年になる」
「逃げたらすぐにばれますよね?」
「まぁ、ばれるね。今のこの状況すらばれててもおかしくないくらいだよ。システム上の影響は与えられないけど」
なるほど。ゲーム内の時間を加速させるのか。
確かにそれなら、人生としては充分な時間を過ごせるだろう。
寿命だと思えば丁度良いのかもしれない。
けど不安は残る。
「逃げた俺達を十日も放っておいてくれますか?」
「今聞いたんだけど、建物の管理もナナコに任せてるらしい。ナガマサさんがお願いすれば、そのくらいの時間は稼げるってさ」
「任せて」
モグラの口調はいつもと変わらないが、その眼は真剣だ。
どうしてもこの世界を逃がしたいんだろう。
自分達で作り上げた、夢の世界を。
モグラの取り戻した管理者権限はあくまでも緊急用で、しかも仕様が少し変わってるとかで俺達の方がレベルが高い。
だから、決定を俺達に託すしか出来ないそうだ。
だからこそ真剣に話し合って、俺達の懸念を潰していく。
確かに上手くいくかもしれないけど、なんとなく釈然としない。
ナナコが掌握出来るのは、建物のシステムだけ。
強引に突破出来ないとも限らない。
そうなるのは嫌だ。
どうする。どうする。
何かもっといい方法は――。
「あ、やばい」
必死に考えていると、ナナコの呟きが聞こえた。
明らかにヤバそうな呟きに、思考を中断する。
「どうしたナナコ?」
「さっきから必死にアタックして来てた研究員が遂にキレた。今脳を破壊しに全力ダッシュしてる」




