4 初心者と経験者
なんとか街へ着いた。
俺のHPは2割を切っている。
夢中になり過ぎた。あの兎が地味にすばしっこいのが悪いんだ。
それでも数をこなす毎に慣れたおかげで、最後の方は攻撃も上手く当てられて、苦もなく倒せるようになった。
相変わらず攻撃は何回か食らったけどな!
タマも奮闘してたけどあまり役には立っていなかった。
同種のものが何か判別出来ないと、そうそう強化のしようもないしなぁ。
大丈夫、そのうち活躍出来るさ。
だからそんなに落ち込むなって。
いつもより暗いからそう思っただけだけど。
この街はストーレというらしい。
そこそこに大きな街みたいだ。
MAPを確認してみると、俺みたいな冒険者が利用できそうな施設がマークされている。
定番の冒険者ギルドに行ってみるのがいいだろうか。
さっきのチュートリアルの場所も冒険者ギルドかもしれないしな。
とりあえず大きな道を歩く。
人でいっぱいだ。
道行く人の中には頭の上に緑のアイコンが表示されている人がいる。
どうやら俺以外のプレイヤーがちらほらいるらしい。
俺の頭上にも表示されてるんだろうな。
のんびりと辺りを見回しながら、冒険者ギルドへとやって来た。
さて、どうしようかな。
「すみません、ちょっといいですか?」
中へ入って内装を眺めていたところで声を掛けられた。
「あ、すみません」
「ああいや、貴方にお話があるんですよ」
邪魔だったのかと思ってどこうとしたら違ったらしい。
何か話があるようだ。
謎の男に促されて席に着いた。
アニメとかでよく見たように一階部分には酒場が併設されているようだ。
この男はミーガンというらしい。
名乗ったし、頭上の緑アイコンを注視したら表示されていた。
ミーガンは短髪でガタイがいい。
初心者装備の俺と違って、軽装ながらちゃんとした装備に見える。
防御よりも回避重視なのかもしれない。
こういう装備ってどのくらいお金を貯めたら買えるんだろう。
作ったりするのはもっと大変だろうか。
「ナガマサさんはプレイヤーで、しかもこの街に来たばかり。このゲーム自体も、始めたばかりではないですか?」
「あ、はい」
何故ばれたのか。
「そんなに驚かなくても、見てれば分かりますよ。1か月前の僕もそんな感じでしたから」
「なるほど」
ミーガンが言うには、明らかに初心者な俺を見て放っておけなかったんだそうだ。
このミーガンも、この世界に来てすぐに同じように先輩に助けられたのもあったらしい。
それで色々助けてくれるつもりで声をかけてくれたんだとか。
街の案内もしてくれるらしいから、有難く甘えることにした。
ミーガンの先導で早速街中へと繰り出した。
露店を見ながら色々教えてもらう。
まず目に入るのは、大通りにずらっと並んだ露店の列。
道の両側にプレイヤーとNPCが商品を並べている。
それらを眺めつつ歩く。
ミーガンは俺が興味を示した物の解説を要所要所で挟んでくれる。
アイテムなら用途や相場、建物ならどんなお店か、等。
雑談も交えながらそんな話をしていく。
人と話すのは得意じゃないけど、昔からゲームは一人でやるよりも人とやる方が楽しかった。
出来ればこの世界も仲間と過ごせたらいいなと思う。
相棒のこともお互いに話した。
どうやら他の人の相棒も最初はステータスがまっ平らしい。
相棒も見せてもらったが、ミーガンの相棒は鎌だった。
最初から明らかな武器でちょっとうらやましい。
俺のなんか謎の光る球体だからな。
タマの光が微妙に暗くなった気がした。
ああごめんごめん落ち込まないでくれ。
ほんとに落ち込んでるかは謎だけど。
そうこうしてる内に、路地裏の更に奥の微妙に開けた場所へとやってきた。
最初に済ませておくと効率の良いクエストがあるとのことだったんだが、そこでミーガンは豹変した。
「ほんっとにお人よしばっかだよな! お蔭でこんなに簡単に殺せるんだから感謝してもしたりねぇぜ! お前も僕に親切にしてくれたあいつみたいにバラバラにしてあげるよぉ!」
まさかの殺人鬼だった!
えっ嘘ホントに!?
第二の人生が始まったばっかりだっていうのに殺されるとかほんと勘弁。
なら戦うしかない? いやいやいや、でも勝てるわけない。
かと言って逃げようにも、しっかり逃げ道は塞がれている。
壁を登ろうと背を向けたところでばっさりだろう。
詰んだ。
だけどそのまま殺されるのも癪だ。
抵抗の意思くらいは見せてやる。
タマは俺を守るように俺の前に出る。いいから下がってなさい。
あの兎の攻撃を何回か受けてHP減ってるんだから。
俺もだけど。
うおおおおおおお!! やるだけやってやる!
――ダメだ、やっぱり強い。
鎌を必死に避けながら反撃を試みてみたけどろくに当たらない。
辛うじて死んでないのも、ミーガンが遊んでるだけっぽい。
奴が本気になれば、俺なんてすぐゲームオーバー間違いなしだ。
「そらっ!」
「うわっ!?」
「隙だらけだぜ!!」
「うぐっ!」
ミーガンの横薙ぎをしゃがんで回避したところで思い切り蹴飛ばされた。
無様に地面を転がるも追撃はない。
見下して笑ってるらしい。
むかつくけど有難い。距離が空いた今の内になんとかしたいところだ。
「じゃあそろそろとどめにしとくか!」
ミーガンが嬉々として鎌を構える。
あ、これギャグとかじゃないからね。
そんなこと考えてる余裕ないよ。
「――ぐっ!?」
そのまま突撃してくるかと思ったのに、ミーガンは変な声を出して動きを止めた。
よく見ると背後に男が立っていて、ミーガンの腹から剣みたいなものが突き出していた。後ろから刺されて貫通してるっぽい。
血は出ないにしても痛そうだ。
背後の男の頭上にも緑のアイコン。
そしてその横にはモグラの文字。シンプルな名前だ。
「おまっ、邪魔すんなよぉ!?」
「お前こそ邪魔なんだよ。牢屋で反省してね」
「うっ……」
興奮して暴れるミーガンに対してモグラが頭部を殴ると、ミーガンがぐったりとして大人しくなった。
気絶とかするんだな、ここ。
「困惑してるだろうし聞きたいこともあるかもだけど、とりあえず場所を変えようか。こいつを兵士に引き渡さないと」
「いや、出来れば関わりたくないというか……」
助けてくれたのは間違いないしすごく有難かったんだけど、さっきの今で知らないプレイヤーを信用出来る訳がない。
「悪いようにはしないから信じてくれない?」
とはいえ、俺に害を成すつもりならわざわざそんな回りくどい事をする理由もないわけで。
ミーガンが俺を襲おうとしたように人気の無い場所で、そのミーガンよりも強いみたいだし。
俺なんて瞬殺出来るだろう。
白耳兎のダメージはある程度自然回復していたとはいっても、ミーガンが弄んでくれたおかげでHPはもはや1割もない。
多分殴られるだけでも一撃で死ぬ。
俺は大人しくモグラの後についていくことにした。