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祝☆400部突破
(まだでした)
「えっ!?」
「モグラさん!?」
モグラのHPバーが砕け散った。
ミルキーの驚きの声が最上階に響く。
咄嗟に≪応急手当≫を使用するが、効果は無い。
「うっわー、そういうことね。時間が無いのに情報量が多すぎる」
何かに納得したように呟くモグラの姿は半透明だ。しかも点滅している。
HPバーも砕けたし、そのまま消滅してもおかしくない。
それなのに、やけに落ち着いている。
どうやらそんなに焦らなくても大丈夫そうだ。
「モグラさん、大丈夫なんですか?」
「ごめん今はちょっと説明してる暇が無い。タマちゃんにスキルを覚えてもらいたいんだけどいい?」
「それはいいですけど」
「冷静で助かるよ」
「その、冷静過ぎませんか……!?」
慌てた様子のミルキーからツッコミが入った。
さっき驚かないように言われてたしなぁ。
それでも最初はびっくりしたけど、モグラの様子を見ている内に落ち着いてしまった。
「タマちゃん、この箱を使ってスキルを取得してもらってもいい?」
「ちらっ」
「頼む」
「おっけー!」
俺の許可を確認してから、タマが元気よく頷いた。
身体が一瞬光ってすぐに収まる。
何かしらのスキルを取得したらしい。
「よし。それじゃあここにいる皆の行動制限を全部解除して、後は全てのペナルティを受けないようにして欲しいんだ。出来るかな?」
「出来るモジャ!」
モグラの質問に、タマは元気よく返事した。
そして俺の方を見た。
許可が欲しいんだろう。
いつも自由に行動してる筈だけど、今日はやけに許可をもらってから動くな。
第三者からのお願いだからだろうか。
謎だ。
「お、戻った。ふー……、ギリギリだったー」
そうこうしている内にモグラの身体が半透明じゃなくなった。
しっかりとした存在感を持ってそこに居る。
「今の半透明はなんだったんですか?」
「んーっと、無敵時間かな」
「無敵時間?」
「オレの予想が正しいとそんなに時間はないから、簡単に説明するね」
モグラはなんと、このゲームの開発者の一人だったらしい。
特殊な相棒を持っていて、その相棒に知られたらまずい記憶を封じてこのゲームの世界へとやって来た。
その相棒だけだと不十分で、今の運営側にいる協力者との合わせ技でなんとか入り込んだそうだ。
「被験者の記憶は全部記録されてるけど、相棒の方はノータッチだったらしいからね。手抜きで助かったよ」
さっきモグラのHPが砕け散ったのは、封印していた記憶を全て戻したかららしい。
それが運営のフィルターに引っかかって、排除されそうになった。
しかし、モグラの相棒が居る間は死を引き受けて身代りになってくれるらしい。
さっきの半透明は、それが発動した後の数秒間の猶予なんだとか。
そういえば昔のゲームでも攻撃を受けた後とか、復活した後はあんな感じになっていた。
モグラは相棒から少しずつ伝えられる情報に従って、俺達をここへ連れて来た。
その目的はあの宝箱。
モグラは逃亡する直前にあの箱に一つのスキルを仕込んでいた。
それが、≪管理者権限1≫というスキルだ。
効果の部分には、管理者権限レベル1を付与する、とだけある。
スキルの共有効果で俺のスキルリストにもある。
どう使うのかは謎だ。
「スキルレベルを上昇させるスキルがあったのは見せてもらったから、何かの足しにと仕込んでおいたレベル1でも使えるかなって。それに、タマちゃんならこのデジタルの世界に干渉しやすいと思ったし」
ということらしい。
それで驚いたのが、俺達はもうこの世界で死ぬことはなくなったらしい。
詳しくは分からないが、タマの力で設定を弄ったとモグラは教えてくれた。
だからこそ、記憶が戻ったのにモグラのHPバーがそこにあるし、全てを説明しても死んだりしない。
ってことは、俺達も?
だけどまだちょっと怖い。
特に支障もないし、今は試さなくてもいいだろう。
「ちょっと待ってください」
「ミルキー?」
ある程度説明してもらったところで、ミルキーが口を開いた。
さっきから渋い顔をしていたし、タイミングを計っていたようだ。
「どうしたのかな?」
「それを説明して、私達にどうして欲しいんですか?」
「それも今から説明するよ」
少しだけ威圧感のあるミルキーと、いつも通りのモグラ。
確かに、モグラの目的がよく分からない。
「オレは、この世界がこんな下らない、クソみたいな実験に使われるのが嫌で仕方ないんだ。それでも、この世界で死ねるならまだマシ……そう思ってたところで、ナガマサさんに出会った」
俺?
何かやったっけ。
「とんでもないことばかりするナガマサさんに、オレは期待してたんだ。何かやってくれるって。そしたら案の定、とんでもないスキルを手に入れた。そして高レベルの管理者権限を手に入れてくれた。そしたらもう、目指すのは一つしかないよ」
モグラは、いつになく真剣な顔をしている。
「それは一体、何ですか?」
「それはね、この世界を解放することだよ。管理者権限があればこの世界は好きに弄くれる。誰も管理していない場所にこの世界ごと逃げることも出来るんだ。そうしたら、理不尽な実験で殺されることもない」
モグラの言い分はとてもよく分かる。
運営は、俺達のことを本当にただの実験動物としか見ていなかった。
幸せな第二の人生が送れるなんて言ってたが、俺達をただ殺したいかのような行動ばかりだ。
大事な人を失った人も多いだろう。
しかもその実験に、自分が作り上げた世界を舞台にしてるなんて、酷すぎる。
もしもタマが人殺しの道具にされたりしたら。
正気でいられる自信がない。
ずれてるかもしれないが、大体はそういうことだろう。
「モグラさんの目的は分かりました。けど、そんなすごそうなこと、どうやってやれば……タマ、出来る?」
「よく分からない!」
「大丈夫。多分そろそろ――ほら来た」
『管理者権限スキルを確認。マスター、ご用件はなんでしょう?』
さっきまで何もいなかったモグラの視線の先に、小学生くらいの小さな女の子がいた。
その目線は俺達に向けられている。
マスターって、どういうこと?




