333
「モグラさんと一緒にイベントダンジョンの攻略、ですか」
「ダメかな?」
「全然ダメじゃないんですけど、どうして俺に?」
頼ってもらえるのは嬉しい。
モグラは俺がこの世界に来てすぐの頃にPKから助けてくれて、その後も色々教えてくれた恩人だ。
沢山のことを教わったし、未だに助けられている。
恩を返したいと思っていてもどんどん貯まっていくばかりだったから、いい機会でもある。
だけど、疑問もある。
モグラは俺よりもこの世界に詳しい実力者だ。
ステータスやレベルも、学校のお陰でかなり伸びている。
普通のダンジョンならよっぽどのことが無い限り問題ない筈だ。
「どうしてもクリアしたいんだけど、万が一があったら嫌じゃない? だから、考え得る限りの最高戦力にお願いしようかと思って」
「最高戦力……」
そう言われるとなんだかむず痒いが、確かにその言葉は間違っていない。
俺自身のステータスもぶっ飛んではいるが、一番やばいのは俺の相棒だ。
タマはレベルも含めて全ての数値がおかしなことになっている。
ほぼ間違いなくこの世界で最強だろう。
もしタマより強い存在が普通にいるとすれば、このゲームのバランスはおかしい。
βNPCはチートじみたユニークスキルを持つ人もいるから、絶対とは言い切れないんだけど。
それでも多分いない。
それくらいにタマは強い。
「何かお願いがあったら言って欲しいって言ってくれたでしょ? ダメかな?」
「モグラさんにはお世話になってますから、喜んでお付き合いしますよ。な、タマ」
「おー! タマにお任せ!」
「良かった。それじゃあもう少し近くなったら詳細も分かる筈だから、情報が入り次第連絡するよ」
「はい。お願いします」
「ああ、あとミルキーさんも誘って置いて欲しいな。念には念を入れて」
「そうですね、分かりました」
ミルキーまで指名なんて、ホントに念が入ってる。
言われなくても俺の方から声を掛けてみるつもりではあったけど。
その方が絶対確実だからな。
話終わる頃に頼んだものが来て、朝食となった。
久しぶりに出会ったから、のんびり色んなことを話した。
モグラは今、MVPボスのコインを狙って狩りをしているらしい。
うちの生徒達でも同じ目的で動いてる人が結構いるらしく、ボスの沸く時間になると激しい争奪戦になるそうだ。
皆強くなったからな。
満喫してるようで何よりだ。
タケダやゴロウの近況も聞いた。
二人とも、元気でやっているようだ。
朝食を終えると、モグラは笑顔で去って行った。
イベントに備えて今から準備をするらしい。
アイテムとかは常に数を用意しているから、とりあえずは待機だな。
連絡があるまでのんびり過ごせばいいや。
モグラにイベントへの同行をお願いされてから、四日が経った。
俺が今いるのは、自分の部屋。
各地を周って集めた素材で、新しい武器の制作に挑んでいたところだ。
次の素材を取り出そうとウインドウを開くと、モグラからメッセージが届いていた。
「お、ついに来たかな」
メッセージを開く。
内容は思った通り、イベントの詳細が送られてきていた。
簡単にまとめるとこうだ。
大量のモンスターがひしめく塔を頂点まで上り詰めろ!
そんなに広くない各フロアには多くのモンスターがひしめいている。
雑多に配置してあるわけじゃなく、階層ごとにテーマが設定してあってそれに沿ったモンスターだ。
五階毎にボスモンスターがいる。
一度入ると、三時間以内にクリアしないと外に弾き出される。
一度入ると、次に入れるのは二十四時間後。
二十五階到達毎に、特殊なアイテムがもらえる。入場時にそれを使えば、ショートカットが出来る。
頂上には、超レアなアイテムが報酬として用意されている。
この報酬の中でも一番レアなアイテムは数が限られていて、しかも早い者勝ち。
今回は本当に、純粋な対モンスターのイベントのようだ。
前回は殺るか殺られるかだったからな。
殺りまくったとはいえ、ああいうβNPCへの殺意マシマシのイベントは止めて欲しい。
で、モグラは塔の頂上でもらえるアイテムがどうしても欲しいらしい。
なんでも特殊なスキルを習得出来るんだとか。
それは確かに欲しくなる。
系統の違うスキルを複数持つっていうことは、選択肢がその分増えるということ。
それは間違いなく、生き残る道を増やしてくれる。
モグラと一緒に一周した後は、俺の分も付き合ってくれるだろうか。
百階をまともにクリアしようと思うと、制限時間内に達成するのは難しそうだ。
ということは。
二日目、入場制限が解除されてすぐに突入すれば、まだ報酬は残ってるだろう。多分。
だけど、伊達みたいなチートギルドが出張ってくると、どうなるか分からないな。
塔の中はインスタントダンジョンで、内部で他のプレイヤーと出会うことはない。
これは、挑むパーティー毎にダンジョン内部の空間が解放されている為だ。
分かりやすくいうと、同じ構造のダンジョンが、挑むパーティーごとに精製されるイメージだ。
だからパーティーメンバー以外が中に影響を与えることはない。
ゲームだからこそ出来る処理だ。
PKとかもまだ生き残ってるかもしれないし、他のプレイヤーとすれ違わないのは有難い。
それでも報酬は早い者勝ちなのは、如何に早く攻略するかを競わせたいのかもしれないな。
なんとなく、前回のイベントに比べたら随分と優しく感じた。
これからもずっとこの調子でいって欲しい。
なんだかんだ言いながら、俺もこのイベントが楽しみになってきた。




