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畑の様子を見た後は、今日は学校へ向かうことにする。
学校は俺が作った。
沢山のお金と資材をつぎ込んだ立派なものだ。
目的としては、イベントに備えてβNPC達を鍛える為のものだった。
知り合い等に声をかけて三十人くらいの生徒達が学び、イベント開始直後に旅立って行った。
だから役目は終えたと思ったが、そうはならなかった。
生徒として通っていたのは俺の知り合いの知り合いくらいまでの範囲だけだ。
当然、この辺りを拠点にしてた人がほとんどということになる。
だから俺は、各地に散ったタマや、βNPC達にお願いしておいた。
一般プレイヤーから逃げ回っていたり狩られそうになっているβNPCがいたら、逃げ込める場所があると伝えてあげて欲しいと。
もし学校へ通う事を希望すれば、タマによって運ばれてくる。
既にイベントが始まっているということで、今回は一人二日程経ったらもう放流することにした。
その分それなりにハードなスケジュールだ。
一日三人のノルマをこなしながらになるから、どうしてもきつめになってしまう。が、それはまぁご愛嬌だろう。
戦闘職じゃなかったりして戦闘力のほぼないβNPC達は街から出ずに生き残っていた。
そんな状態で今回のイベントが始まったものだから、それは大変だっただろう。
タマの救援が間に合わず死んでしまった人も多くいる筈だ。
出来る限りのことはしてるつもりだけど、そのことを考えると悔しくなる。
……いや、出来る限りのことはしてるんだ。それなら、深く考えたって押しつぶされるだけだ。
精一杯楽しく生きて行く。それが大事だ。
「おおナガマサさん。おはよう」
「おはようございます、昭二さん」
門を通り抜けて校舎の前までやってきた。
そこでは昭二が、庭を掃いていた。
ゲームの世界だというのに葉っぱがそこら中に舞っていたりする。
昭二は、用務員さんとしてお手伝いをお願いした。
色々とお世話になっている。
昭二のところで暮らしている紅葉も、食堂+教員として引き続き働いてもらっているから、とても有難い。
お礼はお給料と素材がメインだ。
最初の何日かは昭二の一般プレイヤー狩りを手伝っていたが、すっかり成長した今では手伝いなんて必要ない。
ついに封印スキルが進化した昭二の槍捌きは凄まじいことになっている。
攻撃力だけなら俺達よりも高くなる可能性があるからな。
封印スキルは恐ろしい。
昭二と別れて、校舎内を歩く。
生徒達は校舎内に用意された寮で生活しているが、まだ朝7時になったばかりだ。
きっと寝ているか部屋で大人しくしているようで人気はない。
石華の様子でも見に行こうと地下ダンジョンの入り口へと向かうことにした。
梯子を降りたところで、予想外の人物に出会った。
「誰かと思えばナガマサか。見回りか? ご苦労なことだな」
「おはようございます。伊達さんは……朝からトレーニングですか?」
「ああ、そうだ」
そこにいたのは、伊達正宗。
大手ギルド≪三日月≫のギルドマスターだ。
このギルドとは少し前にゴタゴタがあったが、俺達の完全勝利で終わっている。
こっちに被害は何も無かったし、賞金という形でお金ももらったわけだしもう気にしていない。
今はお金も腐る程あるが、当時はそのお金があったお陰で自由に出来た。
「流石大手ギルドのマスターですね」
「俺なんかよりもよっぽどすごい奴がいるがな」
「へー、それはすごいですね」
「……はぁ」
伊達は何故か大きなため息をついた。
そんなに変なことを言った覚えはないんだけど。
そんな伊達だが、イベントが始まってから連絡があった。
ギルドメンバーを鍛えて欲しいという話で、俺はとある条件で了承した。
その内の一つに、イベント期間中伊達ともう一人か二人程、教員としてここで働くという条件があった。
学校で受け入れるにしても指導者がいなかったからな。
伊達も条件をあっさりと受け入れてくれたから、学校を再開してイベント中もβNPC達の育成が出来ている。
そう考えると、伊達からの連絡は俺にとっても有難い話だったな。
ミルキーなんかは過去の件で伊達達を嫌っていて、あまり関わろうとはしないが。
それも仕方ない。
あれは明らかに俺達を馬鹿にしていたし、許す許せないは個人の自由だ。
タマは見かける度に伊達にじゃれついてから去って行く。
手加減術を使っているから伊達が死ぬことはない。
「しかしあれだな。ここはすごいところだ」
「学校ですか?」
「そうだ。メンバーの戦闘が苦手な奴らもメキメキ強くなっていく。ま、お陰で俺もそいつら以上に頑張らねーと、ギルマスの面目丸つぶれなわけだが」
「なるほど」
≪三日月≫はこの世界でもトップクラスのギルドだ。
そのメンバーの数も多い。
以前のままだったら危険だったかもしれないが、俺達との決闘の後はかなり大人しくなったとモグラから聞いた。
今の彼らなら、間違った力の使い方はしないだろう。
どんどん強くなって、他のβNPC達を助けるのを頑張ってほしい。
そんな下心も、あったりなかったりする。




