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「モジャー、今日はモジャ王様のところに旅立ちの挨拶をしに行く日モジャよー」
「うぅん……朝か……」
まだ意識がぼんやりとしたまま身体を起こす。
とりあえずタマを撫でてやって、それからぐっと伸びをする。
イベントが始まって一週間が過ぎた。
幸いなことに、俺の家族は一人も脱落していない。
それどころか、生徒達も全員生き残っているようだ。
皆が小まめに連絡をくれるお陰で把握出来ている。
近況報告のメッセージがスクリーンショット付きで送られてくることも多い。
その全てにタマの分身が写っていることから、関係も良好らしい。
どのタマも可愛かったりかっこいい装備を着せてもらって、ドヤ顔をしていた。
ここまでは順調だ。特に問題も起きていない。
残り一週間、何事も無く過ごせたらいいんだけど。
まぁ、大丈夫だろう。
いざとなったら街中でもどこでも狩ることは出来る。
「おはよう」
「おはようございます。もう準備出来ますよ」
「うん、ありがとう」
「ナガマサ様、おはようございます」
「ミゼルもおはよう」
階段を下りると、まずミルキーに声をかけられた。
その後はミゼルにも挨拶を返す。
葵は朝に弱いからまだ起きていないし、石華は学校の地下ダンジョンを根城にしている。
おろし金は窓辺から差し込む光を浴びて目を細めている。気持ちよさそうだ。
大体いつも通りの光景だ。
イベントが始まった直後は様子のおかしかったミゼルも、謎のやりとりの後はいつも通りになった。
一応タマが取り囲んで威圧したことで、大人しく従っているということらしい。
よく分からない。
丁度その日の、生徒達を見送った後で自宅にパシオンが突撃してきたが、これまたタマがミゼルを人質にしたことで、大人しく要求に従うようになった。
今では以前のように普通に遊びに来る。
ちょっとよく分からない。
あのやり取りは必要だったんだろうか。
美味しい朝食を食べた後は、日課の畑仕事だ。
畑には立派な果物をつける大樹が生えたイカが生えている。意味がわからないと思うがこう言うしか表現のしようがない。
この果物というのがまた特殊なやつで、一メートルの大きさがある上に、逞しい腕と脚が生えている。
普段は畑仕事を手伝ってくれているし、倒すと美味しい果物をドロップする。
しかも驚くことに、何日か前にこの果物達が進化してしまった。
まるで宝石のように透き通り、キラキラと輝く肉体を手に入れた。
ドロップする果物も宝石のようで、味も更に美味しくなっていたが、原因は不明。
イカ部分の宝石要素が馴染んだんじゃないかと、俺は思っている。
「今日のノルマがほぼ終わっちゃったな」
「あと一人……!」
葵と一緒に畑に向かう途中で、一般プレイヤーを五人程倒した。
課金アイテムを使われたようだが、何も問題はない。
ゼノに教えてもらった情報では、今回のイベント限定の課金アイテムは二種類。
効果は、ステータスを10にするものと、アクティブスキルを使用不能にするスキルだ。
これらのアイテムは、俺達にはほぼ意味がない。
スキル制限やステータス変動に対する耐性スキルを取得したからな。
ここはゲームの世界。数字で出来ている空間だ。
プレイヤースキルで覆せる差は、そこまで大きくない。
そしてステータスとスキルの大きな差は、そのまま戦力の差に繋がる。
葵も学校での特訓で同系統のスキルを取得していたから、よっぽどのことが無ければ大丈夫だろう。
勿論、保護者として目を光らせるのは忘れていない。
今の戦闘中も、自律型の盾であるシーソーを葵の周囲に待機させていた。
安全第一、命を大事に。
念には念を入れて、慎重にいこうぜ。
そして一般プレイヤーは全力で狩る。
命を繋ぐ為に狩る相手ということで、俺達にとってはモンスターと変わらない。
彼らは実際に死ぬわけではないし、遠慮なく攻撃させてもらっている。
畑に到着した。
ここでやることは、マッスルジュエルフルーツ達が収穫したものを受け取ることだ。
手入れや管理はほぼやってくれるからそんなにすることはない。
新しく植えるものがあれば、それを植えるくらいだろうか。
フルーツ達が収穫してくれた色々なアイテムが、隅の収穫箱に仕舞ってある。
そこに入っているアイテムをストレージへ移す。
畑に植えてある薬草や、イカの足から採れるドロップアイテムなんかがこれでもかと詰め込まれている。
NPCやプレイヤーは買い取ってくれないが、色々と使い道がある。
数があればあるほど嬉しい。
ちなみに、果物はこの箱には入っていない。
フルーツが欲しければ自分で収穫するしかない。
何故なら、熟したフルーツ達は挑戦者を待っていて、死闘を制した者にだけ送られるのがフルーツだからだ。
……ここのことを考えると、自分でも何を言ってるのかよく分からなくなってくるな。
葵がムッキーと修行を始めたのを眺めながら、俺も果物を収穫することにする。
見た目は腹筋と宝石と果物を足して二で割ったような見た目だけど、味は美味しい。
デザートに常に確保しておかないといけないからな。
「たのもー!」
俺が合言葉を告げると、筋肉ムキムキの宝石フルーツ達が樹上から落ちてきた。
複数来てくれると手間が省けて有難いな。




