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If 悲しみの断片

突然ですが、今を逃すとタイミングを失ってしまいそうなのでボツルートを供養せさせていただきます

重たい感じなので、苦手な方はスルーしていただくようお願いします



「イベントが始まるまであと一分か」

「ドキドキしますね」


 運営の指定した時間まで、あと少し。

 俺達は裏庭でその時を待っていた。


「きっと何があっても大丈夫だよ」

「だいじょーぶ!」

「そうですね、きっと大丈夫です」

「大丈夫……!」


 ここにいるのは、俺とタマ、ミルキーに、葵。

 タマは俺の最強の相棒。

 ミルキーはつい先日結婚式を挙げたばかりの、俺の妻だ。

 葵は娘のようなもので、絶対に無くしはしない。


 家の中にはもう一人、ミルキーと同時に結婚した妻がいる。

 名前はミゼル。

 元姫で、NPCでありながら結婚することになった。

 一般プレイヤーから見た俺達もNPCみたいなものだし、深く気にしなくても大丈夫だろう。


 そして時間となった。


 その内容は信じられないものだった。

 俺達は敵に操られた存在として、一般プレイヤー達から狙われることになるだろう。

 詳しくは、同時に届いた運営からのメッセージに書いてあった。


 性格が悪いのは、俺達の方からも一般プレイヤーに襲い掛かる必要があるということだろう。

 一日につき三人。

 これが達成出来なければ、日付が変わった瞬間に死んでしまう。


「まずは家に入ろう」

「わ、分かりました」


 まだ混乱している様子のミルキーの手を引いて、我が家に戻る。

 生き残る為には落ち着いて行動しないといけない。

 一般プレイヤーを狩ること自体は、問題ない。

 俺達のステータスはおかしなことになってるからな。


 裏口から家の中へ入る。

 そこには、いつも笑顔のミゼルがいるはずだった。


「ミゼル?」

「あれ、どうしたんですか?」


 ミゼルは、顔面を蒼白にしたままこっちを見つめている。

 名前を呼んでみても変化がない。

 不思議な雰囲気を感じ取ったのか、後ろからミルキーが様子を窺う。


「わ、私は……」

「ミゼル?」


 明らかに様子がおかしい。

 もう一度名前を呼ぶ。

 やはり反応はない。


 ――バーン!!


 近づいてゆっくり話をしようとしたその時、玄関の扉が勢いよく開いた。


「ミゼル!! 無事か!!」

「お兄様……!」

「パシオン?」


 やって来たのはパシオンだった。いつも通りすごい勢いだが、こっちも何か様子がおかしい。

 とても慌てたようにミゼルに駆け寄り、その安全を確かめている。

 名前を呼ぶと、しばらく見たことのないような顔で睨まれた。

 

「気安く名前を呼ぶな! ミゼルを任すに足る男だと信頼していたというのに、魔の者に洗脳されてしまうとは……!」

「え?」

「撤退するぞミゼル!」


 パシオンの言ってる意味がよく分からない。

 洗脳?

 確かさっき、イベントが始まった時にそんな言葉を聞いたような……。


 あっ……運営からのメッセージだ。

 そこに、NPCから敵対されてる扱いになるとか書いてあった。


 ミゼルはすっかり怯えてしまっているし、パシオンも憎しみと怒りで怖い顔をしている。

 ……ここまで敵意をむき出しにされるのか。


「――――お兄様、申し訳ありません」

「ミゼル? どうしたというのだ?」


 仕方ないとはいえ知り合いに突然嫌われるのはショックが大きい。

 落ち込んでいると、ミゼルがパシオンから距離を取った。

 その顔に怯えはもうない。まるで何かを覚悟したかのようだ。


 突然の変わり様に、パシオンも困惑している。


「やはり私は、私の感情に嘘はつけません」

「何を言っている……? まさか!? 駄目だ、それだけは駄目だミゼル!」

「ナガマサ様」

「な、なに?」


 必死に止めようとするパシオンだが、ミゼルは完全に無視している。

 真剣な眼差しに、俺もミルキーも、タマですら口を挟めない。


「私は、貴方と結婚出来て幸せでした。貴方のことを愛しています」

「え、えっと、その……ありがとう」


 あまりにも突然の告白に、まともに返せなかった。

 なんとか言えたのはお礼の言葉だけだ。

 情けないけど、仕方がない。経験も免疫も無さ過ぎる。


 そんな俺に対して、ミゼルはいつものように優しく微笑んでくれた。

 だけど、幸せな時間が流れていたのはそこまでだった。


「ミゼル!?」

「ミゼル様!?」

「ミゼルゥゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウウ!!」


 突然ミゼルが倒れた。

 全身の力が抜けたかのように、ぐったりとしている。


 駆け寄って抱えるように上体を起こす。


「ミゼル!? 大丈夫か!?」


 ≪応急手当≫を使用するが、効果は無い。

 ポーションを取り出そうとしたところで、弱々しい動きでミゼルに遮られた。


 パシオンが、力の無い言葉を呟く。


「ミゼル……どうしてそんな真似を……」

「素敵な時間をくれたナガマサ様を裏切るくらいなら、死んだ方がマシです、から」

「ミゼル……」

「いつか、またどこか、で……」


 最後にミゼルは、満開の花のような笑顔を見せると、脱力した。

 そして、光になって溶けるように散ってしまった。


「ミゼル……?」


 誰も返事をしてくれない。

 あの声も、笑顔も、もうどこにも無い。

 馬鹿なことをしても笑って許してくれる優しいミゼルはもう、どこにもいない。


「――ぐっ」


 パシオンのあげたうめき声に、視線を向けてしまった。

 何故ミゼルは消えてしまったのか。

 パシオンなら知ってるのかもしれない。


「教えてくれパシオン。ミゼルは、どうなったんだ?」

「ミゼルは、死んだ」

「どうしてだ? 一体どうして、ミゼルは死んだ!?」


 立ち上がってパシオンに掴みかかる。

 原動力は怒りじゃない。

 ただただ、悲しい。誰かにぶつけないと、悲しみでどうにかなってしまいそうだ。


「この世界の神に、従わなかったからだ。だから死んだ」

「神? 神ってなんだ?」

「言えん。我には口にすることは出来ないのだ」


 言えないってなんだ。

 喋れるんだから、ちゃんと伝えられる筈だ。

 ミゼルが死んだ理由をそんな風にしか話せないのか?


「――だが、私も覚悟を決めた。貴様は我が最愛の妹が認めた男であり、我の心の友だ。例え神であろうとも、我の愛は邪魔出来ん!! ――ぐふっ」

「パシオン!?」


 パシオンが叫び終わると同時に、崩れ落ちた。

 これはまるでさっきの、ミゼルと同じ……!


「ふふふ、どうやら我もここで終わりのようだ。貴様と敵対するよう、指示されていたからな。友等と言えば、まぁこうなるか」

「どういうことなんだ。どうしてそんなことで死なないといけないんだ。それくらい、二人が死なないで済むなら俺のことなんて嫌ってくれたって――」

「はぁ!!」

「っ!?」


 感情のままに喋っていたら、瀕死の筈のパシオンに殴られた。

 ダメージはない。

 しかし、俺の心に何かがのしかかってくる。


 更にパシオンは、呆然としている俺の胸倉を掴んだ。

 もしもさっきのミゼルと同じ状態だとすれば、もう力もほとんど入らない筈だ。

 それなのに、目の前のパシオンからは言い表すことの出来ない迫力を感じる。


「すまんな。だがこれは、我の、そしてミゼルの愛と覚悟の形なのだ。せめて貴様くらいは、誇っていればいい。出来んと言うのなら、ミゼルへの愛はその程度ということだ」

「そんなこと……!」

「ふっ、すまぬが、泣き言を聞いている暇は我には、ない。ミゼルのところへ、、行かねば……ならんから、な。……さらばだ、我が友」


 そうして、パシオンも消えていった。


 何が起きたのか、理解が追いつかない。

 混乱してしまっている。


 気付けば、自分の部屋にいた。

 いつの間に来たのか、全く記憶がない。


 なんだろう。

 何もする気が起きない。

 とりあえずスキルリストを開いてみた。

 

 ふと、一つのスキルが目に入った。

 そういえば全く使ってなかったな。


 そのスキルを使用してみた。

 効果は、色々な匂いを発生させる。


 ふと、花のような良い香りが漂ってきた。

 なるほど、こういう効果か。


 ――ああ。

 

 少し遅れて、気付いた。

 これはミゼルの香りだ。

 そのことに気付いた瞬間、色々な場面が思い出された。


 俺は大切な人を失ったのだと、この時初めて実感した。



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新作始めましたので、こちらもよろしくお願いします!
友人に騙されたお陰でラスボスを魅了しちゃいました!~友人に裏切られた後、ラスボス系褐色美少女のお嫁さんとして幸せな日々を過ごす私が【真のラスボス】と呼ばれるまで~
面白いと感じたら、以下のバナーをクリックして頂けるととても有難いです。 その一クリックが書籍化へと繋がります! ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] まぁサイコパスが考えた物語だから仕方ないな
2020/01/06 15:54 退会済み
管理
[一言] ファッ!と思ったけどボツって書いてあったわ……安心したぁ。ifとも書いてあったし。バックアップから蘇生とか出来そうではあるけど。消去した履歴から復元みたいな
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