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教室では、いくつかのグループが出来上がっている。
チーム分けは大体終わったようだ。
ここへ来た時はほとんどが知らない同士だったけど、今では皆それなりに仲が良い。
不安そうにしていたゴロウも、純白猫とあともう一人と、三人チームを組んでいた。
タイミングを見て口を開く。
何度やっても、話を切り出すのは緊張するなぁ。
「注目してください」
檀上の俺に、再び視線が集まる。
思わず教室の後ろに固まってる教師陣に目線をやりそうになるが、ぐっとこらえる。
「チームが出来上がったようなので、最後に少しだけ言わせてください」
今日はあと十二時間しかないから、あまりのんびりは出来ない。
だけど、ここにいるのは俺が作った学校に来てくれた生徒達だ。
このまま何も言わずに放り出すなんて、したくない。
少しくらいなら許してもらえるだろう。
「俺は、この世界はゲームじゃなく、第二の人生を送る場所だと思っています。それは皆さんにとっても、そうだと思います」
緊張で早口になりそうなのを、我慢しながらゆっくり話す。
「俺は思い切り楽しもうと思っています。だから皆さんも、周りに迷惑をかけない範囲で楽しんで、生きて行って欲しいです。だからその、えっと……」
言葉に詰まってしまった。
焦りが沸いてきて、何故か視線がミルキーの方に向く。
真っ直ぐに見つめられている。
「生きてください。イベントが終わったら、ここで打ち上げをしましょう。俺達は準備をして、この学校で待っています」
言いたいことは言えた。
最後に一礼する。
皆が、拍手をしてくれる。
やり切った。
だけどもうダメ。精神的に限界だ。
俺が教壇を降りると、モグラがやってきた。
「ナガマサさん、良かったよ」
「はは、ありがとうございます」
褒めてくれるが、疲れてしまって渇いた笑いしか出てこない。
モグラは俺の肩を軽くたたいて、すれ違うように壇上へと上がった。
「お疲れモジャモジャ」
「挨拶お疲れ様でした」
「ありがとう」
後ろで立ってるミルキー達の隣に並ぶ。
タマとミルキーに、小声でお礼を返す。
すごく緊張してたから、なんだかちょっと照れくさい。
モグラは生徒達へ指示を出す。
全員準備をして、グラウンドへ集合。
時間は、購買の利用も考えて一時間後。
メンバーが揃ったチームから出発する。
こんな感じだ。
「それじゃあ一旦解散!」
「葵ちゃんにタマちゃん、ちょっと購買が込みそうだから手伝ってくれないか?」
「分かった……!」
「おっけー!」
購買を開ける為に、タケダが真っ先に教室を出る。
生徒達はタケダの後に続くように教室から移動を開始した。
商人系の生徒達は最後の露店を出すらしく、楽しそうに話し合っている。
教師陣も、ほとんどが準備の為に教室を出て行く。
教室に残ったのは俺、ミルキー、あと女子が一人。
俯き加減かつ不安そうな顔で席に座ったままの彼女は、キャロラだ。
さっき殺されかけたことが、まだ吹っ切れないんだろうか。
「ナガマサさん、キャロラさんが……」
「うん、俺も気になってたところ。事情を聞いてみようか」
「はい」
二人でキャロラへと近寄って行く。
怖がらせるといけないから、ミルキーが前。俺は少し離れた後ろだ。
「キャロラさん」
「あっ、ミルキー先生。校長先生も……」
ミルキーが声をかけると、キャロラははっとしたように顔を上げた。
そしてすぐに不安そうな顔に戻る。
「どうかしましたか?」
「えっと、その……」
「言いにくいことですか?」
「あの……」
「不安があるなら話してみてください。私達で良ければ、いくらでも力を貸しますよ」
交渉をミルキーに任せると、思ったよりもグイグイ行く。
それくらい、キャロラのことを心配してるんだろうな。
「実は、さっきバブロンさんからメッセージが届いて……」
「メッセージ?」
バブロンからのメッセージには、簡単に言えばこう書かれていたそうだ。
さっきのことをきちんと謝ってお詫びもしたいから会って欲しい。
指定された場所は、校舎裏。
校舎と村の境界である柵の間に出来た、何もない場所だ。
学校と言えば不良のたまり場ということで、わざと作っておいた。
それにしても、このタイミングで会いたいか。
場所をそこに指定した理由は人目があると照れ臭いかららしいけど、怪しい気がする。
本当に謝りたいなら、どこでも出来る筈だ。
照れ臭いっていう気持ちは分かるんだけどね。
「ナガマサさん、これって……」
「うーん、どうだろうね」
「私は怪しいと思います」
正直な事を言うと、俺もそう思う。
だけど確証は無い。
憶測だけで決めつけたくはない。
「でも、本当に謝ってくれようとしてるかもしれないし、って思うと悪い気がして……」
「私は信用出来ません」
「だけど……」
そうなんだよなぁ。
キャロラが言うように、本当に謝ってる可能性もある。
ミルキーのように思うのも、全然おかしくない。自然なことだ。
ならもう、確かめるしかない。
「それじゃあ俺が付いて行きますよ」
「ナガマサさんが?」
「校長先生が?」
「うん。メッセージには、不安なら付き添いがいてもいいって書いてあったんですよね?」
「は、はい」
確認すると、慌てながらもしっかりと頷いてくれた。
なら問題ない。
「それなら私が行きますよ」
「いや、ミルキーじゃ警戒されてしまって、もし罠だったとしても何もしてこないかもしれない。さっき一瞬で倒したんだよね?」
「そうですけど……」
もしバブロンが、キャロラをもう一度襲おうとしていた場合。
ミルキーが付き添ったら何もせず、謝って終わりにする可能性が高い。
そうなったら、危険な考えのバブロンをそのまま放置することになる。
一応監視はするからそうなっても大丈夫だとは思う。
だけど、出来る事ならこの機会でバブロンの本心を確認しておきたい。
俺なら、少しは油断してくれると思うし。
以上の理由を説明すると、ミルキーは納得してくれたようだ。
「分かりました。この件はお願いします」
「任せといて」
バブロン……ちゃんと反省してくれてるといいんだけど。
「ということでキャロラさん、俺が付き添います」
「校長先生……大丈夫ですか?」
何故かキャロラは不安げなままだった。




