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皆は、ある程度落ち着きを取り戻していた。
グラウンドで、それぞれ囁き合っている。
返り討ち宣言をしたものの、深く考えてた訳ではない。
だけど、レベルアップした今の皆なら一般プレイヤーに負けることはない筈だ。
一日三人のノルマくらいなんとかなるだろう。
勢い任せの言葉でも、皆を落ち着かせられたなら上出来だ。
「それでナガマサさん、何かアイディアがあるの?」
「ないですよ」
「そうなんだ。あんなに自信たっぷりだったから、何かナイスなアイディアがあるのかと思ったよ」
モグラは笑っている。
口調的に、呆れられてはいないようだ。
そんなに自信満々だったかな。
「でも、皆はかなり強くなってると思うので、負けないと思いますよ」
「そうだね。後は、目先の欲でβNPCを襲わないかどうかだけかな」
モグラの目線が転がされている三人に向けられる。
そうなんだよね。
一般プレイヤーも簡単に狩れるっていうのが分かればそんなことしないとは思うんだけど、確証は無い。
俺の独断で縄を解いたり、起こしたりはしない。
近づいて、しゃがみ込む。
「今の皆の力なら、一般プレイヤーなんて怖くないですよ。皆で、一般プレイヤーを狩りませんか?」
「分かった。分かったから、離してくれ」
「俺もだ。もう皆を襲ったりはしない!」
「殺さないでくれ殺さないでくれ殺さないでくれ」
バブロンともう一人は、反省してるらしい。
残った一人は結構やばそうだ。
錯乱してる。
まずは、責任をはっきりさせないといけない。
「バブロンさんに聞きますけど、この二人を許せますか?」
「それは……」
バブロンが、二人を見る。
すぐに答えは出てこない。
悩んでいるようだ。
殺されかけたんだから、分からないでもない。
バブロンがきっかけじゃなかったらの話だけど。
待っていると、微妙な顔で口を開いた。
「勿論、許す。全部水に流す! だから、許してくれ!」
「分かりました。ただ、バブロンさんを許すかどうかを決めるのは、俺じゃないと思います」
同じように、キャロラさんにも聞いてみることにする。
ミルキーのお陰でさっきよりも落ち着いてきていたから、大丈夫だろう。
「キャロラさん、バブロンさんのこと許せますか?」
「頼む……もうこんなことはしない……!」
キャロラは、バブロンの姿をじっと見つめる。
やはり少し考えたようだけど、静かに頷いた。
バブロンは明らかにホッとしている。
とりあえずこの場は丸く収まりそうだけど、最後にちゃんと言っておかないといけない。
「キャロラさんの優しさに感謝してくださいね。次は無いですよ」
「わ、分かってるよ」
縄を解くと、バブロンは立ち上がった。
もう一人も立ち上がり、バブロンに謝っている。
残った一人は、ちょっとまだ怖い。
出汁巻玉子に預けておいた。
うまく落ち着かせてくれるだろう。
「それじゃあ皆、とりあえずお昼ご飯でも食べましょう。その後は、13時に教室に集合してください」
まずはご飯だ。
お腹が空いてると、考えもまとまらないし元気も出ない。
俺の号令で、生徒達は食堂へと移動を開始する。
俺も移動を開始する直前に、バブロンがキャロラに歩み寄るのを見かけた。
何度も頭を下げている。
ちゃんと反省出来たのなら、良かった。
昼食を終えて、13時になった。
教室には皆が集まっている。
生徒だけじゃなく、ミルキーやモグラ等の、教師陣も全員揃っている。
関係者でここにいないのは、ミゼルだけだ。
緊張を押しとどめて、檀上に立つ。
人前は苦手なんだけど、校長として必要なことだ。
特に、打倒一般プレイヤーを掲げてしまったんだから責任は持たないといけない。
「それじゃあ、これからのことについて話します」
大体の案は食事中に皆で話し合った。
実力的には負けてないだろうし、簡単なことしか決めてないけどね。
大まかには、こうだ。
生徒達には、バランスを考えながら二人から四人のチームを作ってもらう。
彼らは非戦闘職ですら、ステータスだけで見たら有り得ないくらい高い。
学校に来る前はレベルが10もなかった生徒でも、スキルの効果でステータスポイントが四十万くらい増えてる。
だけど一応何が起こるか分からないから、二人以上にした。
そして、そのグループ毎に、ばらけるように各国に派遣する。
この世界は三つの国が存在していて、プレイヤー達はある程度散らばっているらしい。
だから、俺達もばらける。
全部で一万人の一般プレイヤーの内、何人がストーレ周辺にいるかも分からないからな。
生徒全員がこの辺りにいると、獲物がいなくなってしまうかもしれない。
移動は、タマに運んでもらう。
タマなら分身でも二人くらい抱えられるし、そのまま空を走ることも出来る。
あっという間に届けられる筈だ。
神殿でのワープは、何故か使えなくなっていた。
俺もすぐには気付かなかったけど、これはサービス開始直後からそうなっていたらしい。
神父さんの反応も微妙だったからな。
俺達はサービス開始直後でもミゼルのコネで使わせてもらえてたらしい。
「それじゃあ、グループを作ってください」
「うっ」
「ゴロウさん、どうかしました?」
「いや、ちょっとトラウマが」
 




