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 時間になり、出汁巻が教室に入ってくる。

 生徒達は皆席についている。

 俺達も生徒に混じって、ちゃんと座っている。


 俺を含めて教師陣も、自分の授業以外では生徒になっても良いからな。

 俺とミルキーが生徒として教室にいるのは、多分今日くらいだけど。


「それじゃあ早速っすが、校庭に出ましょう」


 午後の二時間目は、外での授業だった。

 元々決めていたわけではなく、休憩中に思い付いたらしい。

 授業の内容も全部各教師に任せてあるから、よっぽど危険だったりしない限りは自由だ。


 出汁巻を先頭にして、校舎の外へと移動する。

 やって来たのは屋外訓練場こと、グラウンドだ。

 全員で集まってもまだ充分な広さがある。


 ここで何をするんだろうか。

 気になるのは、少し離れた場所にタマとおろし金がいることだ。


「さっきの授業のおさらいをします。あそこにいる二人はお手伝いさんなんすけど、モンスターだと思っちゃってください」

「あれってオオカナヘビ?」

「それよりも少し大きくない?」

「じゃあもっと上位のモンスターか?」

「あの子可愛いなー」


 出汁巻の示す先には、タマとおろし金がいる。

 お互い少し離れた位置で、時折動いては止まっている。

 タマは満面の笑顔で、すごく楽しそうだ。


 ここにいるのは偶然じゃなくて、お手伝いなのか。一体何が始まるんだ。


 生徒達も気になるようで、囁き合っている。


「それじゃあ近づいてみるっすよ」


 出汁巻の指示で、生徒達がぞろぞろと動き出す。

 タマが、こっちに気付いた。

 ……遮蔽物も無くて丸見えだから、もっと前から気付いてはいただろう。あくまでもそういうフリだ。


「敵だー! やっつけろー!」

「とまあこんな感じで、こっちを発見すると襲い掛かってくるモンスターを、何て呼んだっすかね?」


 タマが可愛い台詞を言いながら、出汁巻に向かって走って来た。

 そのまま出汁巻の腰の辺りをぽかぽかと叩いている。

 手加減はしっかり出来ているようで、出汁巻が吹き飛んで行ったりすることもない。


 なるほど。言葉でだけじゃなくて、実際に体験させるってことなんだな。


「はい」

「アンナさん、どうぞ」


 生徒の一人が手を上げて、出汁巻がその子を指名した。

 剣士っぽい装備に身を包んだ、ポニーテールの女の子だ。

 

「アクティブモンスターです」

「正解っす。タマちゃん、サンキューっす」

「えっへへー」


 出汁巻にお礼を言われたタマが嬉しそうに笑っている。

 そして役目が終わったのか、俺の方へ飛び掛かって来た。


「モンスターだぞー」

「よしよし、しっかりモンスターだったな」

「わーい!」


 受け止めて頭を撫でてやると、嬉しそうに暴れている。

 可愛い奴め。


「それじゃあ次はあっちに近づいてみるっすよ」


 次はおろし金の方だ。

 ノンアクティブモンスターの役らしく、のんびりと歩いていてこっちに向かって来る様子はない。


 出汁巻はさっきと同じように生徒に問いかけている。

 こっちも問題なく正解した。

 かなり基本的なことだし、元々知っていたかもしれないしな。


 だけど、基本だからこそ大事なことだ。

 知らない人がいる可能性を考えたら、やっておいた方が良いと出汁巻は判断したんだろう。


「さて、それじゃあせっかく外に出たんで、模擬戦でもしときますか」

「模擬戦? ってなんだ?」

「そんなことも知らないのかよ。練習試合みたいなものだよ」

「なるほど」


 模擬戦かー。

 二人でペアを組んで、決闘システムで戦ったりするんだろうか。

 俺とミルキーは見てた方がいい気がするな。


「えー、オレの授業は対モンスター戦闘らしいんで、生徒同士ではやらないっす」

「え?」

「じゃあ誰と模擬戦するんだ?」

「モンスターってことは……」

「何人か察しが良い生徒がいますね。そう、こちらのおろし金と戦ってもらいますんで、準備してください」


 おろし金と模擬戦? 大丈夫なのか?

 でも本人はやる気満々に見える。

 タマもノリノリで声援を飛ばしてるし、もう本人と飼い主のタマには話が通してあるんだろう。


「ナガマサさん、少しお願いがあるんすけど、いいすか?」

「はい、なんでしょう」


 皆がざわついてる内に、出汁巻がやって来た。

 お願いというのは、地形を弄って欲しいらしい。


 この平地で戦うのは、訓練とは言っても雰囲気が出ないからな。

 あ、そうじゃない?

 どうやら、真っ平らなこの場所で戦っても工夫する余地もなく瞬殺されるから、という理由だった。


 それもそうだ。

 おろし金は色々パワーアップしてる上に、ユニークスキル≪極・魔物を従える者≫の効果で更に強化されてる。

 さっきレベルが上がってステータスが数千上がったくらいじゃ、勝てる相手じゃない。


 地形を弄るようなスキルが無いか、ツリーを確認してみる。

 さっき生徒達のレベルが一気に上がったから、俺もスキルポイントを入手している。

 これだけあれば新しいスキルも問題なく取れる筈だ。


 うん、丁度良いスキルがあった。

 まず≪アーススパイク≫、≪アースシェイク≫のスキルを取得。

 両方とも、地面を使って攻撃するスキルだ。

 ちょっと離れた位置に目掛けてスキルを何回か発動して、レベルを上げる。


 すると、スキルツリーに一つのスキルが現れた。

 そのスキルの名前は、≪大地創造(アースクリエイト)≫。

 出汁巻のリクエスト通りの、地形を弄れるスキルだ。

 

 一定の範囲の地面を隆起させたり陥没させたり、結構自由に出来る。

 その代わり、元の地形から大きく変える程にSPを消費するし、維持してる間はSPを消費し続ける。

 俺のSP回復力ならあってないようなものだ。


 スキルを何度か使用して、地形をそれっぽくする。

 地面を灰色の岩が覆っていく。凸凹で足場は余り良くない。

 更に、その岩が突き出させて太い三角錐を何本も生やしておく。

 やっぱりドラゴン戦なら、岩山とか谷っぽい感じが良いよね。


「こんな感じでいいですか?」

「はい、充分っす。あざす。あ、ナガマサさんとタマちゃんとミルキーさんは見学でおなしゃす」

「わかりました」

「はーい」


 生徒達は混乱しているが、舞台は整った。

 タマが決闘の申請を許可して、模擬戦が始まる。

 

 予想通り、おろし金の圧勝だった。

 オオカナヘビがドラゴンになった瞬間のあの生徒達の表情の変わり様は、意地悪かもしれないけど面白かった。



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