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まず必要なのは情報だ。
メニューからメッセージの項目を開く。
同時送信でいいか。
相手はモグラ、出汁巻玉子、伊達正宗。
俺が思いつく情報通三人衆だ。
必要な情報は、資材が手に入る場所について。
採集することでも手に入る資材だが、木や石が落ちてればどこでも拾える訳じゃない。
斧を入れたりピッケルで突くことが出来る場所が指定されていて、そこからしか採れないようになっている。
そこは、採集ポイントと呼ばれている。
とにかくその場所の情報が欲しかった。
メッセージには、知る限りの位置情報を教えて欲しいことと、お礼はなるべく要望に応えるから、そちらから指定して欲しいと書いた。
「よし、こんなものかな」
「どうぞ、お茶です」
「ありがとう」
「メッセージ、ですか?」
メッセージを送るとちょっと疲れる。
ちゃんとした文章を考えて書くのが苦手なのかもしれない。
送信して一息ついたところで、ミルキーが俺の前にお茶を差し出してくれた。
窺うように俺の手元を覗き込んでいる。
「うん、思い付いた方法を試すのに採集ポイントの場所が知りたくてさ。情報提供をお願いしてみたんだ」
「なるほど。……≪三日月≫のマスターもいるんですね」
「情報は沢山知ってそうだからね」
「そうなんでしょうけど、気は乗りませんね。どんなお礼を吹っ掛けて来るか分かりません」
俺がメッセージを送った相手の中に伊達がいるのを見つけたミルキーは、やや不満げだ。
気持ちは分からないでもない。
伊達正宗は、βNPCの中でもトッププレイヤー達が集まった、大手ギルドのマスターを務める人物だ。
以前俺達の家と畑に興味を示して、それらを賭けた決闘にまで発展した。
その時の印象が、ミルキーの中であまり良い物ではないようだ。
俺としては勝ったご褒美にお金をもらったし、最後に一騎打ちしたからもうなんとも思ってないんだけどなぁ。
ちなみに、三日月は正式サービス開始時に実装されたギルドフラッグを手に入れて、数日前に正式なギルドになったらしい。
「出来る限りとは書いてるし、あんまり無茶を言われたら取引が成立しなかった、で終わりだから大丈夫だよ」
「それもそうですね」
そんなに難しく考えることでもないような気はする。
そう伝えると、納得してくれたようだ。
そういえば、ミルキーも前に伊達をフルーツアイランドの調査に付き合わせてなかったっけ?
「あれは、無償でどうしても付き合いたい、手伝わせてくれ、とお願いされたので」
ミルキーは笑顔でそう言った。
絶対嘘だ。
でもなんか怖いから触れないでおこう。
返事を待ってる間に、ミゼル、葵、金剛は出掛けて行った。
いつものように畑で修行とその付き添いだ。
話し合いも終わったし、情報が集まって動くのは俺とタマとミルキー、そしておろし金くらいだからな。
ミルキーとタマとのんびりしながらやりとりをして、話がまとまった。
三人とも、快く情報提供を了承してくれた。
お礼として決まったのは、モグラには同じ剣を二振り。
出汁巻がポーション詰め合わせ。
伊達には1Mcだ。
このくらいのお礼で済んでむしろ有難い。
皆もっと欲張ってもいいのに。
念の為全員にそう伝えてみたけど、特に変更は無かった。
モグラと出汁巻なんて俺の作ったアイテムだ。
そんなもので本当にいいんだろうかって、不安になるレベルだ。
これ以上押し売りしても仕方ないから、言わないけど。
そして情報が集まった。
被っている場所もあるけど、合わせるとかなり広範囲までチェックしてある。
特に伊達のものは、一番範囲が広く、数も多い。
流石はトップギルド。
トッププレイヤーが集まってるっていうのは伊達じゃないな。
未知の場所の攻略へ率先して乗り出して、情報を集めてるらしいから、こういう情報も沢山持ってると期待してたんだ。
「ちょっと出かけて来るから、二人にはお留守番をお願いしても良い?」
「えー?」
「タマには後でしっかり活躍してもらうから」
「わかった!」
「ミルキーも、お願いね」
「分かりました。いってらっしゃい」
「行ってきます」
俺は一人で家を出た。
大した用事じゃないからな。
もらった情報の中で、一番近い採集ポイントへ向かう。
≪テレポート≫で≪ストーレ鉱山≫入口まで移動して、そこから少し歩いた場所に一つあった。
岩山の中で、微かに光って見える。
これが採集ポイントか。
採集するのに、道具が必要なものもある。
鉱石系の場所ならピッケル、木材なんかは斧、という感じだ。
ピッケルは無いけど、槍じゃ代用出来ないだろうか。
以前昭二に貸すように作った≪滅魔神槍≫を取り出して装備してみる。
頭上で構えて、採掘ポイントに叩きつける。
『石を1個手に入れた』
出来た。
代用可能らしい。
スキルツリーを開いてみる。
そこにはたった今出現したであろう、≪採集決戦≫と≪採集奥義≫というスキルがあった。
効果は採集ポイントでの採集回数が三回増えるのと、採集した物に二個追加するというものだ。
どちらも、品質とレア度を高める効果もついている。
ポイントは余らせてあったから迷わず取得した。
これで準備は整った。
≪テレポート≫でさくっと帰宅。
中へ入るとミルキーが出迎えてくれた。
タマは、期待に満ちた眼差しでこっちを見ている。
「タマ、出番だぞ」
「はいはい! 何すればいいの?」
「この採集ポイントを周って、資材を集めて来て欲しいんだ」
「モジャも集める?」
「モジャは生えてないと思うぞ、多分」
「残念モジャー」
がっくりとうなだれるタマ。
時折見せるこのモジャへの拘りはなんだろう。
尚、冗談だったからかすぐにいつも通りのニコニコ顔に戻った。
そんなタマを連れて、放牧スペースへ三人で出た。
タマを見送る為だ。
「それじゃあいってらっしゃい。全力で頼む」
「あいあいさー!」
タマは空中へと駆け出しながら一歩ごとにどんどん増えて、すぐに見えなくなった。
 




