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タマに経験値結晶をもりもり作ってもらった。
というか、ユニークスキルだったから俺も使える。
一緒になってもりもり作って、昭二の封印スキルのレベルをもりもり上げた。
そのまま基本レベルを上げる手もあったけど、流石にそれは味気ない。
封印スキルはそのままだと不便過ぎるから、特別だ。
今後経験値結晶を作るにしても、使い所は考えないといけない。
まあそれはそれとして、昭二の封印スキルのレベルが最大になった。
これで進化出来る筈だ。
「どうですか?」
「なんか点滅しとるな」
「それで進化出来る筈なので、試してみて下さい」
「どらどら……おお?」
眼に見えて変化があった。
昭二がスキルを進化させてすぐに、昭二の背が伸びた。
驚いたような、それでいて嬉しそうな声もセットで零れる。
「どうですか?」
「体のだるさや痛みが嘘のように無くなった! 今なら何でも出来そうじゃ!」
「それは良かった」
「やったー!」
封印スキルが進化したことで、そのデメリットが消えたようだ。
ゲームの中でも老化するとか、ひどい効果だった。
せっかくなので、進化したスキルの効果を見せてもらった。
≪解放の肉体≫
ユニーク/パッシブ
レベルアップの際、StrとVitに+スキルレベル
純粋なステータスの数値をスキルレベル倍にする
基本レベルが上がった時に、もらえるポイントとは関係なくStrとVitが上昇するらしい。
しかも、ステータスをスキルレベル倍。
最大で、10倍だ。
これはまた、分かってはいたけど強力そうだ。
かなりのマイナス効果を背負わないといけない分、そういうデザインになってるんだろう。
「身体が軽いわい! 見てごしなれナガマサさん、あんなに重かった槍がほれ、この通りじゃ!」
「すごーい!」
≪老化≫から解放されてテンションの上がった昭二が、槍を振り回している。
さっきまであんなに重そうだったのに、まるで木の枝のように軽そうだ。
高速回転してビュオンビュオン鳴っている。
ステータスはまだ等倍だけど、十分の一になるデメリットが消えたのが大きい。
俺の支援がそのまま効果を発揮するからな。
つまり、今の昭二にはStrが+1000されている。
あの槍だって軽くなるだろう。
「昭二さん、その調子でどんどん狩っちゃいましょうか!」
「よしきた! 鎧なんぞに負けはせんぞ!」
「わーい!」
狩りの再開を促してみると、昭二はノリノリで走り出した。
その後ろをタマが追いかけていく。
走り回るだけでも楽しいらしい。
うん、可愛いな。
その後の狩りも順調だった。
昭二の動きはかなり良くなったし、それは精神面にも影響が強かったようだ。
まったく疲れることなく、延々と狩り続けている。
そんなに激しいペースじゃないとはいえ、さっきまでとは大違いだ。
見てるこっちも楽しくなってくる。
「ふん! どりゃ! ほいさ!」
「動きがすごいですね」
「こう見えて儂も、昔はヤンチャじゃったからな。まるで若返った気分じゃわい」
昭二の槍捌きはすごい気がする。
詳しくはないから分からないけど。
ただの力任せじゃないというか、ムッキーや葵に似たものを感じる。
俺やタマの、ただ叩きつけてる攻撃とは絶対に違うだろう。
「それにしても、スキルは使わないんですね?」
「ん? おお、色々取ってみたんじゃがな、武器に指定があって使えんのじゃよ」
「指定?」
「農夫じゃからな。農具を装備しておらんといけんようじゃ」
「なるほど」
一部の職業のスキルは、武器の指定があるようだ。
確かに、剣で斬撃を放つスキルとかを拳で使えたら、違和感しか無い。
余り意識したことが無かったから、知らなかった。
そうなると、槍だと大農夫のスキルを活かせない訳か。
詳しく聞いてみたら、バフスキルとかも槍じゃ使えないらしいからな。
せっかく色々試してもらえる機会だ。
出来る事は全部してもらった方がいいだろう。
とはいえ、全ては無理だから一部だけしかないが。
「それって、手斧でも使えますか?」
「どうじゃろう……うむ、いくつかは使えそうじゃ」
「分かりました」
おろし金の素材はまだある。
≪クリエイトウエポン≫を発動して、素材と種別を指定する。
手斧が農具扱いされていて良かった。
俺のスキルで作れる中だと、手斧だけだからな。
出来上がったのは、黒い金色の鉈だ。
相変わらず性能が高い。
「これを使ってみて下さい」
「おお、すまんのう。それじゃこの槍は返しとくけんな」
「はい、確かに」
鉈を渡して、槍を受け取る。
そのままあげても良かったが、タケダに依頼している農具が出来れば使うこともないだろうし、素直に受け取った。
誰か槍を使いたい人がいればあげよう。
「あ! それタマが使う!」
「そうか、はい」
「やった!」
と思ったらタマが欲しがった。
昭二が振り回すのを見て、自分もやりたくなったようだ。
手渡すと、大喜びで振り回している。
すごい勢いだ。
その後もしばらく狩りをして、終了となった。
村に戻って、精算をする。
昭二にはいらないと言われたが、そもそもこれは俺が付き合ってもらってる方だ。
いっそ全部渡したい。
だけど、それは断固拒否されるだろうから、最終的に半分で話がまとまった。
アイテムを種類ごとに半分こして、端数は昭二に。
それで、分配は終了だ。
レアドロップらしい装備品もいくつかは出ていたが、それも全部昭二に押し付けた。
その上で、≪宝石の心臓≫は買い取らせてもらった。
宝石に撒く肥料として必要だからな。
「今日は俺の我儘に付き合ってもらって、ありがとうございました」
「いやいや、実際助かったのは儂の方じゃよ、ありがとうな」
「お礼を言われるようなことはしてませんよ?」
「ははは、まあ、そういうことにしとこうかな」
何故か昭二に笑われてしまった。
事の発端は、俺が恩返しに渡す装備のクオリティを下げたくなかっただけだ。
ただの拘りでしかなくて、つまりは我儘だ。
お礼を言われるのは、何か違う気がする。
「そいじゃ、儂はそろそろ帰るとしようかの。留守番しとる二人に、たっぷりお土産を買って帰らんといけん」
「はい、ありがとうございました」
でも、あんまりそこを突きつめても良いことはないだろう。
だから俺は俺の感謝を伝えるだけでいい。
「昭二、またね!」
「またのう。ルインや紅葉と遊んでやってくれな」
「うん!」
昭二を見送って、俺とタマも家路につく。
今日も楽しかった。
明日はタケダから装備を受け取って、昭二に渡す。
ミルキーとミゼルが選別してくれたであろう、作物も一緒にだ。
そうしたら、恩返しは完了する。
それから、どうしようかな。
色々思いつくことはある。
時間や他の人の都合と合わせてまた考えてみよう。
楽しい時間が続けばいいな。
だけど、俺のそんな願いは、すぐにぶち壊されることになる。
この時の俺はまだ、想像すらしていなかった。




