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そういうわけで、冒険者ギルドでさくっと転職してもらった。
昭二が選んだのは、≪農夫≫だった。
そのまんまだな。
転職条件は、一定期間畑のお世話をすることらしい。
俺も職業レベルが上限になっていたからついでに転職出来ないかと思ったが、無理だった。
どうやら三次職までしか解放されていないらしい。
これから先は、実装されるのを待つしかないな。
転職を終えた俺達は、再び輝きの城の跡地へと戻ってきた。
これからダンジョンでレベル上げをするわけだけど、準備が必要だ。
「昭二さん、武器は何が一番使いやすいですか?」
「武器か、そうじゃなぁ。儂はそもそも、槍くらいしかまともに扱ったことがないんじゃよ」
「分かりました」
槍か。そういえば、初めて会った時も槍で武装してたっけ。
少し太くて、節がある。先端は斜めにカットしたような、鋭い形。
あれは竹槍っていう名前だったかな。
何となく思い出しながら、ストレージから素材を取り出す。
おろし金からもらった、羽の一部だ。
≪クリエイトウエポン≫を起動して、槍を作る。
サブ素材は、イカの皮が余ってるからこれにしよう。
柄に捲けば掴みやすくなる筈だ。
こうして、一本の槍が出来上がった。
長さは二メートル程で、その内の先端五十センチくらいが刃になっている。
両刃で、すごく鋭い。
何故武器を造ったのかと言うと、昭二に貸す為だ。
昭二のレベル上げをする為には、昭二自身でここのモンスターを倒してもらわないといけない。
仕様変更で、レベル差が十以上あると経験値の分配が設定出来なくなったからだ。
今の昭二の攻撃力じゃ、ここのモンスターは倒せない。
だからこの≪滅魔神槍≫と支援の力で、ごり押しする。
今回は戦闘力を鍛えるのが目的ではないから、これでいい筈だ。
「どうぞ、これを使ってください」
「むぅ、すまんのう」
「これも俺の我儘みたいなものですから、気にしないでください」
槍を手渡すと、申し訳なさそうにされてしまった。
慌てて、気を遣わなくてもいいと伝えておく。
今の昭二でも扱えるような、それなりの農具を作って渡すことは難しくない。
それでも、元々使っていたボロボロのものよりはマシだろう。
だけどそれじゃ、なんとなく納得出来なかった。
せっかくプレゼントするなら、最高の物が良い。
扱えないなら、扱えるようにしてでも、そうしたいと思ってしまった。
だからこのレベル上げも、俺の我儘でしかない。
すまなそうにされる理由なんて、全く無い。
「それじゃあこの球を調べたら移動出来るので、俺達の後に来てくださいね」
「うむ、了解じゃ」
「ではお先に行きます」
「突撃モジャ!」
いつかのタマみたいな、光る玉を調べると、一瞬で景色が切り替わった。
辺りは薄暗くて、空気まで暗い。
城の中ではあるが廃墟のようにボロボロで、所々欠けた壁の向こうには、真っ暗な虚無が広がっている。
「モジャっとさんじょう!」
「おお、ここはどこじゃ?」
「たごごごご」
タマと昭二も、ワンテンポ遅れてやって来た。
田吾作も昭二の頭の上にしっかりと止まっている。
各種支援と、≪誓いの献身≫を掛けておく。
これで昭二はStr、Dexが+100されていて、物理ダメージと魔法ダメージへの耐性も付与された。
つまり、装備のペナルティも発生しないし、与えるダメージも高く、ダメージは1しか食らわない上にそのダメージは俺が受ける。
この状態になってしまえばレベルがいくら低くても、ほぼ無敵だと思う。
「ここが、話していた狩場です」
「おお、着いたんか。陰鬱な場所じゃなぁ」
「俺が先行するので、出会ったモンスターは可能な限り、昭二さんが倒しちゃってください」
「わしゃあそんなに強くないぞ?」
作戦を説明するも、昭二はどことなく不安そうだ。
場の雰囲気が高難易度っぽいから、弱気になったんだろうか。
しかし、心配はいらない。
今の昭二はスーパー無敵昭二だ。
ちょっとやそっとではHPバーに変動は無い。
「支援を掛けてるので、大丈夫です。俺を信じてください」
「よし分かった、わしゃナガマサさんを信じる。やるぞ田吾作!」
「たご!」
「ではついてきてください。タマは後ろの警戒を頼む」
「あいあいさー!」
こうして、昭二レベルアップ大作戦が始まった。
モンスターに出会ったら、まずは≪ディフェンスコロージョン≫をぶっかける。
これはガスのようなものを相手にぶつけるスキルで、相手の防御力を下げる効果がある。
効果が100倍されてるから、当然のように一発で0になる。
その後は昭二に任せる。
いくらレベルが低くても、Strが100もあって武器が伝説級となれば、特に苦戦することなく倒せる。
低レベルで来るような場所じゃないからか、昭二のレベルの上がり方がすごい。
数匹倒すごとにモリモリレベルが上がっていく。
花火も女神もどんどん打ち上がる。
三十分もしない内に、職業レベルが最大の20になってしまった。
これは、一度転職をしてしまうべきだろうか。
いや、それ以前の話だな。
「ナガマサさんや、すまんが少し休ませてもらえんかのう?」
「たご」
「あ、すみません。少し休憩しましょうか」
「休憩だー!」
「たごごー!」
この世界では、肉体的な疲労はあまり感じない。
沢山動くと脳が疲れてきて、そのせいで身体全体が重たくなることはあるが、肉体的な疲労とは少し違う。
だけど、昭二は封印スキルのせいで身体の節々や筋肉が痛むんだそうだ。
しかも、ステータスが十分の一にされるせいで、俺の支援も+100しか効果を発揮していない。
これだけでは≪滅魔神槍≫の要求ステータスに少し足りないらしく、かなり重たく感じるそうだ。
その状態で三十分も狩りをしてれば、疲れるのは当たり前だ。
「モジャ千切り隊、出動ー!」
「たご!」
タマと田吾作が俺の頭に襲い掛かって来た。
名前が物騒すぎる。
「モジャは天然記念物だからモンスターを千切って来なさい」
「はーい!」
「たご!」
タマと田吾作が通路の奥へと消えていく。
田吾作にも支援を掛けてるから、かなり強いんだよな。
逆に切れるとここのモンスターには敵わないだろうけど、タマがいるから大丈夫だろう。
「若いもんは元気じゃなぁ。儂には中々、しんどいわい」
「レベルを上げてればその内スキルも進化して、楽になります。頑張りましょう」
「だとええんじゃが」
聞いたところ、昭二の封印スキルのレベルは3。
まだまだ先は長いように思える。
どうにか、早くレベルアップさせる手段はないだろうか。




