287 盾と剣
シーソーの材料と、装備品としての名前を変更しました。
次にやって来たのは、ゴロウの露店だった。
ここへ来た目的も、自作した武器を市場に流してもらう為だ。
さっき作った内の半分はタケダに売ったから、残った半分を持ってきた。
「マジでナガマサさんありがとう! めっちゃ買うしめっちゃ売るわ!」
「にゃーこさんモフモフー!」
「にゃあ」
ゴロウはいつも以上にハイテンションだった。
儲けもあるし、初心者シリーズを売った時に沢山人が来て、他の商品も纏めて売れたから大歓迎なんだそうだ。
話を聞くと、あまり売れ行きが良くなくてお金に困っていたようだ。
相変わらず商売は苦手らしい。
でも俺も多分上手く出来ないだろうから、実際に挑戦してるだけすごいと思う。
俺は作るところまでで止めておこう。
「あともう一つ用事があって来たんですけど、お願いしても良いですか?」
「おっけいおっけい、モチのロン! ナガマサさんの為なら、出来る範囲でマジ何でもしちゃいますぜ」
「ありがとうございます」
装備を売り捌くだけじゃない。
ゴロウにも、別に用事があってここへ来た。
俺の思いつきを試す為にはゴロウの協力が不可欠だ。
タマが、突然俺とゴロウの間に躍り出た。
「それじゃあその頭を、モジャの植民地として差し出してもらおーか!」
「な、なんだってー!?」
「領土拡大だー!」
「うわあああああ!」
わざとらしくゴロウに飛びかかろうとしたタマの背中を捕まえる。
危なかった。
あと一歩でモジャの勢力が拡大するところだった。
「領土はもう充分間に合ってますから」
「はーい」
「タマも、にゃーこと向こうで遊んでなさい」
「はーい! いこ、にゃーこさん!」
「にゃあ」
タマはにゃーこと共に路地の奥へと消えていく。
街の中だし、タマに何かあるとも思えないし大丈夫だろう。
ストレージから俺の盾ゴーレムと、二つのアイテムを取り出して見せる。
「この装備に、これと、これを合成して欲しいんです」
「ほあー、これまたとんでもない装備ですな。素材も、なんだこれ、マジやべーじゃないですかこれ!」
「そんなにですか」
「言っときますけど、MVPモンスターのコインなんて、ナガマサさん由来でしか存在知りませんからね。レア度だってせいぜいCランクくらいまでしか縁が無いっすわ。マジないっすわ! そんな素材をぽんぽこ投げてくるナガマサさんマジリスペクトするんでちょっと拝ませてください」
「はあ……」
「レアドロ率上がれレアドロ率上がれレアドロ率上がれ――!」
興奮したのか、ゴロウが早口で捲くし立ててくる。
相変わらず意味がちょっと分からない。
褒められてる……んだろうか?
しかも両手を合わせて何か呟きだした。
すごく置いて行かれてる感じがする。
テンションが暴走特急だな。
「ゴロウさん?」
「――あっ、すみません、ちょっとドロップ運をあやかろうかと思って」
「そんなに出ないものなんですか?」
「あー、俺は基本間と運が悪いことに定評があるんで」
「そういえばそうでしたね」
ゴロウは自称間の悪い男だ。
あまり付き合いがあるわけでもないが、一緒に狩りをした半日だけで三回死にかければ、説得力を感じざるを得ない。
「それじゃあやってみますか。……やっぱり全てがレア過ぎて成功率がクッソ低いんですけど、いいですか? 失敗するとゴミになるか、原型が残ってもかなり性能落ちるんですが」
「お願いします」
ゴロウが不安げに確認してきた。
素材はともかく、盾にはそれなりに愛着があるから失敗して使い物にならなくなるのはちょっと嫌だ。
でも、これは必要な事だ。
成功に賭ける。
「了解っす。それでは」
「モジャ!」
「ん?」
「出来ました! あー、成功して良かった! この緊張感がたまらねぇぜ!」
ゴロウがスキルを発動しようとした瞬間、一瞬タマの声が聞こえた。
というかゴロウの背後にいたような気がする。
でも、タマの姿は近くにない。
嬉しそうにはしゃいでいるゴロウがいるだけだ。
「しかしこれはまたすごい。思惑通りって感じですか?」
「ええ、バッチリですね。思いつきだったんですけど、まさかこんなに上手くいくとは」
俺とゴロウの間には、合成で生み出された新しい盾が置いてある。
形状は以前とほぼ変わらない、一般的な形の縦長の五角形だ。
山折りに少し湾曲していて、コガネムシの背中に似ている。
コガネムシで言う頭の位置には、まさに頭のような部分がある。
機械的な光る眼が二つあり、頭頂部には10cm程の、剣の切っ先のような突起も確認出来る。
極め付けは、金属で出来た六本の脚で、ノソノソと歩いている。
ベースが盾だから厚みは無いが、上からの見た目は完全にメカコガネムシだ。
盾ゴーレムに≪滅魔の代行者≫のコインと、おろし金にもらった素材から造った≪滅魔神剣≫を加えたら、こうなった。
コインをセットするんじゃなくて合成したらどうなるかと思ったら、どうやらモンスターっぽくなるらしい。
絶対的にそうなるのかは、分からないけどな。
奇跡的に相性が良かっただけの可能性も充分ある。
確かめるのは大変だし、気にしないでおこう。
しゃがみこんで、頭の部分を触ってみる。
盾はじっと動きを止めて、目線をこっちへ向けた。気がする。
『名前を入力してください』
俺の視界に、こんなメッセージが現れた。
名前は俺の方で付けられるのか。
どんなのがいいだろう。
うーん、ここは安直に、≪タテムシ≫とか?
でもそのまま過ぎて味気ない気もする。
メタルビートルで、≪メタビー≫?
いい感じだけど、何かでありそうだ。
全然思いつかない。
あー困った。
もう安直に行こう。
よし、お前の名前は≪シーソー≫だ!
名前の入力を完了させる。
詳しいデータを見てみるか。
シーソーは装備としてのデータとモンスターとしてのデータ、両方を持っているようだ。
こっちは装備の方だな。
≪閃剣機甲虫・滅魔≫
武器/盾/剣/モンスター レア度:S+ 品質:A
Def:437 Mdef:521 Atk:603 Matk:450
様々な素材を使用して作り上げたゴーレムが、モンスター化したもの。
恐るべき装甲と、全てを貫く程の剣を持つ、最高峰の矛盾を内包した兵器。
装備品として使用出来るが、自我を持ち、単独で行動することも可能。
単独行動時は、モンスターとしてのステータス、スキルリストを参照する。
装備者の魔力によって遠隔操作も行う事が出来る。
遠隔操作時、自律行動時の速度は装備者のIntとDexに依存する。
スキル:≪遠隔操作≫≪浮遊≫≪飛翔≫≪モードチェンジ≫
そこはかとなくパワーアップしている。
モンスターの方も覗いてみた。
派手なスキルは無いが、一つだけやばいのがあった。
≪一心同体≫というスキルで、登録した所有者の合計ステータスの半分の値、ステータスが上昇する。
俺のステータスは七百万は越えてたから、半分でも三百五十万になる。
やばい。
「おいで」
「ジジジ」
「おお、かっけー!」
シーソーを呼んでみると、ふわっと俺の左腕に飛びついた。
頭を下に向けて、がっしりと腕にしがみつく。
上腕の半分くらいから手の先までがすっぽりと覆われた。
試しに腕を軽く振ってみるが、びくともしない。
これが装備状態か。
激しく動いてもはがれそうにないな。
「ゴロウさん、ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそありがとうですよ。こんなレアな素材に触る機会なんて滅多にないですからね。お陰様でレベルが大森林ですわ」
「なら良かったです」




