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277 日課と雑談


 三人を見送った後、畑へと出掛けた。

 皆はまだ寝ているようで、珍しく俺一人での行動だ。

 タマすら側に居ないことはそうそうないからな。


 村の中はあまり変わっていなかった。

 増えた筈の一般プレイヤー達も、全員が同時にログインしてるわけでもない。

 居るにしても、多分ストーレなんかの街周辺に偏ってるんじゃないだろうか。


 この村の近くからスタートしても、すぐ移動してしまう人が多いと思う。

 せっかくのオンラインゲームなら、人が集まるところへ行くものだ。


 勿論、この村を拠点にゲームを満喫してる人もいるだろう。

 何人かの一般プレイヤーが村を歩いているのを、道中見かけた。


 畑エリアの方に近づくにつれて、その姿も見えなくなった。

 農作業に興味がある人はまだ近くに居ないようだ。


 十分も歩かない内に、畑に到着した。


「さーて、今日も頑張るか」


 畑での作業はいつもと同じ。

 雑晶の処理と、土の管理だ。

 収穫物は、昨日収穫したから今日は無い。


 タマが名付けた≪モジャ畑≫に足を踏み入れると、中央の樹から宝石みたいな巨大なオレンジが落ちて、こっちへ転がって来た。

 そして、俺の数m手前で軽く跳ねた。

 細く、かつ逞しい四肢が生えて、見事な着地を決めて見せた。


「おはようムッキー。今日はこっちにいたんだな」


 挨拶すると、筋肉を見せつけるポースで返してくれた。

 これは確か、サイドチェストだったかな。


「手伝ってくれるのか?」


 聞いてみると、身体全体で大きく頷いてくれる。

 合っていたようだ。

 二頭身だから頷く動きがダイナミックでやばい。


 ムッキーマッスルは、この畑の筋肉果実(マッスルフルーツ)達のボスだ。

 大きな柏手を一つ打つと、樹上からPKを抱えたフルーツ達が降ってきた。


 ムッキーの意思が筋肉を介して伝わっているのか、会話も無く細マッチョ達は動き出す。

 PK達も大人しく作業を開始した。

 葵を狙って襲ってきた奴とその仲間達だが、すっかり覇気が無くなっている。


 そういえばそろそろ解放する日だったっけ。

 様子を見て、今日か明日にでも野に放とう。


 って、ぼーっとしてる場合じゃなかった。

 畑では、細マッチョやPK達が畑仕事を開始している。

 俺の仕事が無くなってしまった。


 ムッキーが俺に向けてポーズを決めている。

 きっと気を遣ってくれたんだな、ありがとう。


 しょうがない。

 フルーツを収穫して一旦帰ろう。


 畑の中央、樹の下に立つ。

 この樹は、正確にはイカだ。

 いや、タコか。けど今は省こう。


 この樹は、≪ピンポン玉≫と名付けた巨大なイカ型モンスターの背中から生えている。

 まず最初に、大昔に住んでいたというアンモナイトのように、パーティー帽みたいな貝を頭に装着した巨大なイカを植えていた。


 そこに、筋肉ムキムキな果実をつける≪始まりの筋肉大樹ビギニングマッスルツリー≫のコインを与えたら、進化して貝を突き破るように樹が生えた。

 その樹には、各フルーツの細マッチョが成る。


「たのもー」


 樹の下に立ち、挑戦の意思を伝える。

 すると、一番()熟し(たかまっ)た細マッチョが降りてくる。

 倒すことが出来れば、対応したフルーツを落とす。

 フルーツは、充分に実が引き締まっており、腹筋も薄らと割れている。

 これが、フルーツの収穫だ。


 自分で言ってて、意味が分からない。

 初めて聞いた時はフルーツの話だと思えなかったからな。

 なんだフルーツの腹筋って。


 それでも、これで美味しい果物が手に入るのは事実だ。

 降りてくる細マッチョ達を、千切っては投げ千切っては投げ。

 あっという間に、数十個のフルーツが集まった。


 畑仕事はムッキー達に任せて、俺は家へと戻った。


「ただいまー」

「おかえりなさい」

「あれ?」


 まだ誰も起きていないと思ったら、返事があってちょっとびっくりした。

 玄関を通ってリビングへ向かうと、隣接するキッチンにミゼルがいた。

 丁度作業を終わらせたようで、笑顔で振りむくところだった。


「もう起きてたんだね」

「はい、おはようございます。少し、起きるのが遅くなってしまいましたわ」

「そうかな、充分早いと思うんだけど……朝ご飯を作ってくれたの?」

「ええ、妻としての務めをしっかりと果たそうかと思いまして」


 そう、この子は俺の婚約者だ。

 色々あって、結婚することにした。

 状況が落ち着いたら結婚式も挙げないといけない。


「嬉しいよ。皆はまだ寝てるかな?」

「そうですね。皆様よく眠ってらっしゃるので、少しだけそっとしておこうかと」


 ミゼルが楽しげに笑う。

 タマのように派手ではないが、柔らかく、温かい笑みだ。

 綺麗な金髪と相まって、見ているとタンポポのイメージが頭に咲いてくる。


「何か手伝おうか?」

「料理の仕込みは終わったので、よろしければ食器を並べていただけますか?」

「任せて」


 俺のSTRは700万を軽く超えている。

 皿やナイフだって、何枚何本持っても余裕だ。

 器用さを表すDEXも同じくらいあるから、重ねて持っても全く不安定にならない。


 ステータスってすごいな!

 食器の用意も数分も経たず終わってしまう。

 

「準備終わったよ」

「ありがとうございます」

「皆を起こしてこようか?」

「せっかくなので、もう少しだけ、二人の時間をいただけませんか?」

「そうだね、それじゃあお話でもして皆を待とうか」

「はい!」



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