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本日二回目の更新になります!
コインの描写を一部修正しました。
俺の目の前には、相変わらず殺風景な光景が広がっている。
サービス開始まで、あと一時間以上ある。
ああ、ゲーム内は現実の二倍の早さで時間が進むんだっけ。
それじゃあ実質三時間くらいか。
地味に長いな。
それまでずっとここで待機する必要はない。
一度ログアウトして、情報をもう少し漁っておくのもいいだろう。
けど、それは一旦後回しだ。
せっかく喋れる相棒なんだから、少しコミュニケーションをとっておきたい。
「で、名前は?」
「私は……名前なんて、無いわ。あんたの好きに決めて」
「そうなのか」
目の前に再びウインドウが現れる。
ここに、このコインの名前を入力するわけか。
「コインとかどう?」
「はあ? センス無さ過ぎじゃない?」
「だってどう見たってコインだろ」
「それにしたって、もっとあるでしょ。これでも私はしんめ――ん、んんっ」
俺の掌の上のコインは、何かを言おうとして止めた。
わざとらしい咳払いで強引に誤魔化したように見える。
「何?」
「なんでもないわ。とにかく、もっといい名前をつけてよね」
「ええー……。俺、こういうのセンス無いんだよ」
名前を付けるのは難しい。
俺が愛用してるこの名前、≪ゼノガルド≫だって、昔よく友達にからかわれたものだ。
笑わなかったのは一人だけだった。
「それじゃあ、ルインなんてどう?」
「お、可愛いな」
「でしょ? じゃあそれでお願い」
「はいはい。ルイン、っと」
入力欄に文字を打ちこんで、完了。
確認の選択肢もはいを押して終わりだ。
これで、このコインの名前はルインになった。
「それじゃあこれからよろしくな、ルイン」
「ええ、よろしくね。それで、あんたの名前は?」
「そういえば言ってなかったっけ。俺はゼノガルド。ゼノとでも呼んでくれ」
「わかったわ。よろしくね、ゼノ」
「ああ、よろしく」
自己紹介も済んだことだし、もう少し話してみるか。
「ルインは、ここで相棒に選ばれるのを待ってたのか?」
「え? ……まぁ、そうね。そうなるのかしら」
「なんか曖昧だな」
「仕方ないでしょ、私だってよく分かってないんだから」
「そっか。なんか最初と態度違うくないか?」
「そりゃあまあ、選ばれたらこっちのもの、みたいな?」
「なるほどね」
ルインは、すっかり怯えた様子はなくなっていた。
一番最初のような、少し生意気な感じが前面に出てきている。
元々そういう性格なんだろうな。
それにしても、NPCの筈なのに感情表現が豊かだ。
ただの一枚のコインなのに、イノウエよりもよっぽど人間らしい。
「じっくり見てみてもいいか?」
「いいわよ」
ルインに許可を得てから、コインを摘まみ上げて眺める。
大きさは、親指と人差し指で作った輪っかくらい。
色は金色で、精巧な絵が彫ってある。
これは多分、ドラゴンか何かだ。
多分滅茶苦茶強そうで、滅茶苦茶カッコイイ。
だけど、なんというか、かなり薄い。
何度も角度を変えて、じっくり目を凝らして、初めてそうであると理解出来た程だ。
反対の面にはMVPという文字が彫ってある。
どういう意味だろうか?
「これって何のコインなんだ?」
「ふふん、教えてあげたいところだけど、ゲームを始めれば自ずと理解出来る筈よ」
「そうかい」
ルインの奴、何故かゲームのことに詳しそうだな。
相棒っていうのは皆こうなんだろうか。
まだ時間もあるし、そろそろ情報収集でもしてみるか。
「一度ログアウトしてくる。十二時前には戻ってくるよ」
「分かったわ、またね」
「ああ、また後で」
メニューを開いて、ログアウトを選択する。
一瞬で不思議空間が消えた。
真っ暗だ。
瞼をゆっくりと開ける。
見慣れた、俺の部屋だ。
「現実世界ではまだ二十分くらいしか経ってないのか。相変わらずすごい技術だな」
VRゲームの中では、現実世界と時間の流れ方が違う。
CPOは二倍速だ、これも一律というわけではない。
等倍もあれば、四倍、六倍、八倍なんてのもある。
数字的には大したことないように思えるが、そもそも初めてこの加速機能を開発したのはCPOのスタッフだと言われている。
かなり前のこのゲームのクオリティが今でも充分に最前線なのは、伊達じゃない。
「とりあえず掲示板でも見てみるか」
サクッとパソコンを立ち上げて、匿名掲示板を開く。
期待が高まってるのは俺だけじゃないようで、昨日覗いた時点でいくつかスレが建っていた。
「まだサービス開始してないから、昨日とあまり変わらないな」
相棒を晒すスレ、相棒情報交換スレ、βテスト情報交換スレ、今盛り上がってるのはこのくらいだな。
相棒は今まさにみんなが悩んでるところだし、ある意味今が一番ホットになるんじゃないか。
ルインと似たような相棒の人もいるかもしれないし、覗いてみよう。
「ごぼう、うなぎパイ、サボテンに……トイレットペーパー?」
スレッドの中は、各自の相棒晒し大会だった。
なんでそんなの選んだんだと、そう言わざるを得ないようなのも沢山ある。
そう考えると俺の喋るコインはまだマシな方なのでは?
相棒を晒すスレは、その名の通りどの相棒を選んだかを晒すだけのスレッドだった。
データはサービス開始してからじゃないと見られないようだったし、それも仕方ないか。
ざっと覗いた限りでは、喋るコインは見当たらなかった。
それどころか、喋る相棒もいなかった。
近いと言えるのはせいぜい、猫や犬なんかの動物の鳴き声くらいだった。
次に、相棒情報交換スレを開いてみる。
こっちは、相棒に関する様々な情報を交換する場所のようだ。
自分が選んだ相棒だけじゃなく、どんなものがあったかが次々に書き込まれている。
リアルタイムで増えていくのは、検証好きな奴がある程度把握してはメモ代わりに書き込んでいるんだろう。
さっきよりも大量の、そして様々な種類の相棒があげられている。
俺が実際に見たものもチラホラある。
ある程度は被るんだな。
だけど、こっちにも会話が出来る相棒の情報は無かった。
コインはあったけど、ルインとはまたデザインが違うようだ。
うーん、イノウエはバグって言ってたし、もしかしたら相当イレギュラーなのかもしれないな。
少し話して知り合いにはなったわけだし、修正されないといいんだけど。
それから俺は、時間が許す限りネットを漁った。
 




