275 信頼と勤め
第一部完!
キャラクター紹介を挟んで第二部へと移ります!
葵はこれからもウチで一緒に暮らすことに決めた。
葵が望んで、俺もそれを望んだ。
後はそれを皆に報告して、許可をもらうだけだ。
ダメだと言われたら、なんとか説得するしかない。
今は23時。
夜もすっかり更けた。
絶対大丈夫だと言って、葵はもう寝かせた。
お昼寝をした割には眠そうだったからな。
タマも一緒に付いて行った。
仲良しで微笑ましい。
モグラ達は意識もはっきりしていたが、今日はウチに泊まることにした。
外はまだプレイヤー達が沢山いるだろうからと、お願いされたから頷いた形だ。
三人は明日の早朝に帰宅する予定らしい。
だからもうお客さん用の部屋で寝る態勢に入ってる筈だ。
……そういえばもうリリースされたんだった。
サービス開始の12時の直前に家に戻って、それから一歩も外に出てないからあまり実感が無かったな。
よく考えたらみんなのアイコンが青になってるし、ミゼルも白になっていた。
紅に至ってはPKを意味する紫だったけど、何かあったんだろうか。
純白猫に意識が集中していて気にしてなかった。
機会があれば聞いてみようかな。
「俺もそろそろ寝るか……」
そろそろ覚悟を決めないといけない。
ミルキーやミゼルに相談もなしに、大歓迎だと断言してしまった。
ダメとか嫌だとは言わないだろうけど、やっぱり確認してからの方が良かっただろうか。
……いやいや、葵に自分で決めろと言っておいて、それはないだろ。
いやでも、確認するくらいは当たり前じゃないか?
夫婦でそれを怠るのもどうなんだ?
――考えても仕方がない。
葵にそう伝えた以上、なんとしてでも許可をもらう以外に道はない。
正直に話して、勝手に決めたことも謝って、でもそうしたいとお願いする。
それで駄目なら、条件をつけることで譲歩してもらうしかない。
行こう。
俺の部屋はリビング側の階段を上がってすぐの、外側の部屋。
そっちへは向かわずに、真っ直ぐ伸びる通路へ。
左側に並んだ二つの扉が、ミゼルとミルキーの部屋の入口だ。
コンコン。
「ミルキー、起きてる?」
手前の扉をノックする。
待つ。
ミルキーからの反応は無い。
もう寝ちゃったんだろうか。
奥の扉の前に移動する。
「ミゼル?」
ノックをしてみるも、こちらも反応なし。
二人とも朝早くから色々してくれていた。
その上夕方からは料理の準備も、ほとんど二人でしていた。
疲れてるだろうし、二人とも寝てしまったんだろう。
「仕方ない、明日にして俺も寝るか……」
こういうのは早い方がいい。
ただでさえ勝手に決めたのに、すぐに伝えないんじゃ二人を蔑ろにしているのと同じだ。
とはいえ、こっちの都合で起こす訳にもいかない。
「ん?」
自分の部屋に帰ろうと思ったら、微かに話し声が聞こえてきた。
多分、左側の大き目の部屋からだ。
ここは確か空き部屋だった筈。
二人とも、ここにいるんだろうか。
通路の中央にある扉の前に立つ。
軽く叩くと、乾いた音が二回響く。
「ミルキー?」
「あ、どうぞ」
返事があった。
どうやらここにいたようだ。
扉を開けて部屋に入る。
そこは、立派な部屋だった。
家具が一通り揃えてある。趣味も良い。
ここは使う人もいなくて、ただ広いだけの空間だった筈なのに。
「驚きました?」
思わずその場でキョロキョロしていると、部屋着に着替えたミルキーとミゼルが俺の方へ来てくれた。
ミルキーはどこか自慢げな顔をしている。
イタズラが成功した時のような、あの感じ。
なんか最近ちょっとタマに似てきたか?
「うん、びっくりした。これは二人で?」
「はい。午前中にストーレやイズハントで家具を選んできました。でも選ぶのも配置するのも、葵ちゃんが手伝ってくれました」
「そうですね、とても楽しかったですわ」
楽しそうに今日の出来事を教えてくれる。
二人とも、本当に楽しそうだ。
もっと聞いていたいけど、そういうわけにもいかない。
用があってここに来たんだ。
「ごめん、ちょっと話があるんだけど、いい?」
二人の話が一息ついたところで、切り出した。
ああ切り出しちゃった。
いや弱気になっちゃいけない。
まだこれからだ。
二人は顔を見合わせた後、笑った。
なんだか嫌な予感のする笑顔だ。
特にミゼル。
いつもと変わらない筈なのに、何かが違う。
楽しそうなのは間違いないし、変わらないんだけど。
「喜んでお聞きしますわ。いつまでも立っていても疲れてしまいますし、こちらでゆっくりとお聞きしますわね」
「えっ」
「ミゼル様――!?」
ミゼルは俺の腕と、何故かミルキーの腕をがっしりと掴んだ。
そして歩き出す。
向かう先には、ベッド。
「ふふっ、ミゼルで良いですわ、ミルキー様」
「そうじゃなくって――!?」
抵抗を試みたが、駄目だ。
NPCの補正なのかイベント補正なのか、振りほどけない。
ミゼルの行動はミルキーにも予想外だったらしく、慌てている。
対してミゼルは笑顔を崩さない。
心の底から楽しそうだ。
これはイタズラ真っ最中の顔だ。
「わっ」
「きゃあ!?」
そして俺達は成す術もなくベッドに放り込まれた。
ミルキー、俺、ミゼルの順に川の字だ。
俺を挟んでいてもしっかり腕を掴んでいるらしく、ミルキーは逃げられない。
勿論俺も逃げられない。
いくら力を込めても本当にびくともしない。
本当の最強ってNPCなんじゃないのか?
「さあ、お話をしてくださいな」
「いや、でもあの、顔が近――」
「してくださいな」
ミゼルに促されるが、正直それどころじゃない。
後ろはミルキーが密着状態で、なんとか逃げ出そうともぞもぞしている。
そうやって動く度に、ミルキーの柔らかい身体が俺を圧迫してくる。
そして正面にはミゼル。
こちらもほぼ密着状態。
お互い身体を向けているせいで顔が物凄く近い。
息遣いまで感じる程だ。
このゲーム作り込みすごくない!?
仰向けになればまだマシになるかもしれないが、ミルキーがくっついてるからそういう訳にもいかない。
俺もミルキーも、ミゼルが離してくれなければ向きすら変えられない。
微かな抵抗も食い気味にばっさりと切り捨てられた。
……もう諦めよう。
普通に考えたらすごく幸せな状況なんだし。
「実はさっきさ――」
葵とのことを二人に話した。
ミルキーもいつの間にか動くのを止めて、ジッと聞いてくれた。
「それで、俺はこのまま葵と暮らしたいと思った。だから葵には大歓迎だって、言った。勝手に決めてごめん。もし駄目だって言うなら、出来る限り何でも言う事を聞くからなんと――」
「いいに決まってるじゃないですか」
「そうですわね」
「え?」
言い終わらない内に、あっさりと了承を得た。
そんなことかと、呆れているような感じすらある。
「葵ちゃんとは私も仲良くさせてもらってますし、断る理由がないです。ナガマサさんがダメだって言ったら私がお願いする側にまわりますよ?」
「私も、大賛成ですわ。タマちゃんとも仲良しですし、お二人を眺めているだけで、とても楽しいんですもの」
「そっか、良かった」
二人とも、俺と同じ気持ちだったらしい。
本当に良かった。
「ナガマサ様、もっと自信を持ってください。私達のことをしっかりと考えて下さるナガマサ様なら、きっと大丈夫です。時には判断を間違えることも、あるかもしれません。その時は私も、ミルキー様も、きちんと意思を伝えます。その時は私達の考えを聞いた上で、また考えれば良いのですわ」
「そう、かな?」
「はい」
ミゼルは真っ直ぐに、俺を見つめてくれる。
信じてくれているということらしい。
不意に、ミルキーの身体が強く密着してきた。
ミゼルに捕まれている腕も、自由な腕も、両方が俺を抱きしめる。
「……私も、ナガマサさんのこと信じてますよ」
「――ありがとう」
……ああ、なんだか安心したら眠たくなってきた。
目が開けてられない。
目の前が、暗く…………。
「おやすみなさいませ、ナガマサ様」
「えっ、もしかして、このまま寝るんですか?」
「勿論。その為に、いつでも寝られる用意をしてたのではありませんか」
「でも私聞いてないんですけど」
「ナガマサ様の妻なのですから、一緒に寝て労うのは当然の務めではないのですか?」
「うう……ちなみに、いつまでですか?」
「勿論、朝までです」
第一部完!
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