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271 プレゼントと訪問者


 しまった、つい嫌がってしまった。

 プレゼントに文句を言うつもりは無いんだが、即答だったのは俺もびっくりした。

 でも冷静になっても、やっぱり欲しくない。

 なんかミゼルに対する怨念とかこもってそうなんだよなぁ。


「何故だ!? 私の像など、ミゼルだってきっと欲しがって」

「いりませんわ」

「ぐぶふぁ!?」

「むしろなんで欲しがると思ったんですか、この人は」


 俺に拒絶されたパシオンは、助けを求めるようにミゼルに顔を向けた。

 そして食い気味に拒否された。


 哀れな……。


 ミルキーも追い打ちを掛けるのはやめよう。

 自業自得とはいえちょっと可哀想だ。


「はいはい、面白い自爆芸をありがとね王子様」

「ぬ、私は自爆など」

「ほらほら、三人は主役なんだからもっとこっち来て。葵を預かってくれたお礼もちゃんと用意してあるよ」

「私からも、お礼を渡したい」


 納得のいっていないパシオンを余所に、モグラに引っ張られて輪の中に引きずり込まれる。

 皆もお祝いを用意してくれていたようだ。

 口々にお祝いの言葉を言いながら、色々渡してくれる。

 

「ちっ、この空気に水を差す程私もクズではない。パシオン像はリビングに飾っておくから、好きに使うがいい」


 パシオンは不満げな顔をしながらも、どこか満足そうに見えた。

 そしてテーブルの一角を占拠して、何故かケーキを切り分け始めた。

 見事なナイフ捌きだ。

 いつかのバーベキューといい、王子の割には給仕スキルが高い。


 パシオンには、後でお礼を言っておこう。

 黄金のパシオン像は有難く、何かの材料にさせてもらうつもりだ。

 金は初めての素材だから、使ってみるのが楽しみだ。


 で、今はもっと気になることがある。

 モグラが俺にお礼を用意するのは分かるが、葵まで?

 そもそも、どちらからもお礼をもらうつもりはない。


 むしろ、一緒に暮らしてくれてお礼を言いたい程だ。

 楽しかったし、色々学ばせてもらった。

 タマとも仲良くしてもらったし、やっぱり俺がお礼をする側だと思う。


「はい。これはナガマサに……!」

「ありがとう」


 それでも、受け取らないという選択肢は俺の中に無かった。

 だって、あの葵が、笑顔で小包を差し出してくれている。

 遠慮なんか出来る訳がない。


 お礼をする側?

 そんなの、お礼を拒否する理由にはならない。

 お礼をされて、俺もお礼をすればいい。

 ただそれだけのことだ。

 ちゃんと受け取ってちゃんと大事にする。

 一生大事にする。


「こっちはタマに……!」

「わーい! ありがと葵!」

「お礼だから。仲良くしてくれてありがとう」


 プレゼントを受け取ったタマが葵に飛びついた。

 葵も、笑顔で受け入れている。

 ああ、微笑ましい。

 素晴らしい光景だ。


 その後も葵はミルキー、ミゼルにもお礼を渡していた。

 開けてみてくれと言われたので、早速開けてみる。

 何故か皆興味津々だ。

 盛り上がっていた雑談を中断してまでこっちを見ている。

 恥ずかしいから止めてほしいが、仕方ない。


 中身は、剣の鞘だった。

 このザラザラした感触は、間違いない。

 オオカナヘビの皮で出来ているようだ。


「ありがとう葵ちゃん、大事にするよ」

「どういたしまして。でも、私からの感謝の気持ちだからお礼はいいよ……!」


 それでも嬉しいものは嬉しいし、お礼も言いたい。

 他の皆も葵にお礼を言っている。

 全員女の子だから、アクセサリーだったようだ。

 石華やおろし金にも、可愛いリボンがつけられた。

 ……おろし金って女の子だったのか。


 俺も、葵への餞別を渡すか。

 ある程度時間が経ってからのつもりだったけどいいや。

 純白猫がまだ来てないけど、俺が持ってる分だけでも先に渡しておこう。


 純白猫が持っているのは葵が注文した分だ。

 今この場にないといけないという訳でもない。

 連絡が未だに無いのは気になるが、持ち逃げするような人じゃない。と思う。


「葵ちゃん、立派に成長した君に、俺達から餞別があるんだ」

「え?」


 微笑んでみせると、葵は呆けたような顔をした。

 びっくりしたのかな?

 でも、俺達一人一人にプレゼントを用意してくれた葵へお返しをしたい。


「取引で渡すね」

「あ、うん」


 取引の申請を送る。

 混乱しながらも許可を押してくれた。

 開いた取引用のウインドウに、葵用に仕立てた装備をストレージから放り込む。

 ≪火燕≫に≪裂梟≫、そして魔導機械の≪裂断≫。


 完了、っと。

 これで全部渡せた筈だ。


「なに、これ……すごい……!」

「せっかくだからさ、装備してみてよ」

「う、うん」


 葵がウインドウを操作する。

 数秒後には、葵は全く新しい装備に身を包まれた。


 右半分しかない黒っぽいけど赤いジャケットを、ベルトで止めている。

 左側は同じような作りの茶色っぽいけど白い、左半分のコートだ。

 コートを止めるベルトはジャケットの上から固定している。


 右半分が火燕、左半分が裂梟だ。

 背中には愛用の魔導機械。

 それと交差するようにかけられているのは、今贈った裂断だな。


 すごく、良い。

 葵の少し悲しげな無表情にすごくマッチしている。

 周りの皆も大興奮だ。


「葵ちゃん、よく似合ってるよ」

「かっこいいー!」

「ありがとう……!」


 そこからはもう大宴会だ。

 誰が主役とか関係ない。

 みんな主役だ。


 途中タケダが堅そうなパンを食べさせてくれた。

 噛み切るのに少し苦労したけど、モチモチしていて美味しい。


「美味しいです。これ、どこで買ったんですか?」

「実はな、そいつは俺の手作りだ」

「ええ? 武器だけじゃなくてパンまで作れるんですか、凄いですね」

「以前、ナガマサさんが≪筋肉の欠片≫っていう素材を譲ってくれただろ?」

「ありましたね」


 確か、筋肉の島(フルーツアイランド)で手に入れたドロップアイテムだった筈だ。

 あそこは筋肉ムキムキのフルーツが闊歩する地獄だった。


「まず、その筋肉の欠片を炒って粉末にする」

「筋肉の欠片を粉末に」

「色々配合して出来たのが≪剛力粉≫だ」

「剛力粉」

「それを練れば、剛力無双パンの出来上がりだ」

「剛力無双パン」


 なるほど、意味不明過ぎる。

 よくあの素材を使ってパンにしようと思ったな。

 しかもこのパン、10分間Strが10増加するらしい。

 バフとしても普通に有用そうだ。


 そんな感じで、各自大いに盛り上がった。

 途中タマと、昭二の相棒である田吾作が空中戦を繰り広げたりしていたが、楽しい時間を過ごしていた。


 ――コンコン。


 不意に、ノックの音が響いた。

 誰だろう。

 純白猫からは相変わらず返事がない。

 彼女ではないような気がする。


 不思議に思うも、放っておく訳にもいかない。

 様子を窺う皆に気にせず楽しんでおいてくれと告げて、玄関に向かう。


「ど、どうも」


 ドアを開けると、†紅の牙†がしかめっ面で立っていた。

 


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