28 お見送りと襲撃者
無事にテイムを終えたし、一度街へと帰還する。
適当な酒場に入って夕食だ。
ご飯を食べないと脳が働かなくなってしまうからな。脳だけになっても食事は大切だ。
せっかくなのでミルキーも誘ってみた。
慣れてきたのか、快く了承してくれた。
タマも懐いてるしな。
この世界の食べ物はそんなに近代的な味付けではないらしい。
世界観が中世みたいなところがあるから、それに合わせてだろう。
今頼んだのも兎肉とトカゲ肉の塩焼き。
っていうかこれ白耳兎とオオカナヘビの肉だろ。
俺的には美味しいからいいけど。
ミルキーは女の子だし苦手かと思ったら、平気そうに食べていた。
他のVRゲームでこういう食事に慣れたらしい。
なるほど。
「それに、しっかり食べないと生きていけませんから」
と、ミルキーは力強く微笑んだ。
そういえば彼女は初めて会った時から強かった。
大の男にも、相手が間違ってると思ったらちゃんとそう言えてたわけで。
今度からは俺もそうしよう。
ユニークスキルとタマのお蔭でこの辺りではかなり強いはず。
少しくらい強気で行こう。
食事を終えて街を歩く。
俺はスキルの確認を兼ねて街の南へ。
ミルキーは今日は宿へ帰って休むそうだ。
きっと疲れたことだろう。
武者クワガタの件は心臓に悪かった。
タマが倒してたのは予想外だったけど。
そんな訳で宿まで送ってるわけだ。
「モジャモジャ、なんか付いてきてるよ。3人くらい」
「えっ?」
後ろを振り返ってみる。
大きな通りだしそれなりに人の通りがある。
露店も出てるし賑やかだ。
誰かがついてきてても分からない。
とりあえずは、前を向いて歩き出す。
「ミルキーさんの宿はこの通りですか?」
「はい」
「じゃあ先に送っちゃいますね。タマ、付いてきてる連中のことしっかり把握しておいてな。俺じゃ分からないから」
「あいあいさー!」
タマはいつも通り元気よく返事してくれる。
タマが万能過ぎてやばい。
もはや正体とか分からなくてもいいや。
何故かレベルがもりもり上がってるからな。頼もしすぎる。
「あの、大丈夫ですか?」
ミルキーが心配そうな顔をしてた。
なんて優しい人なんだ。
でもきっと大丈夫。
なんとかなるさ。
「大丈夫ですよ。俺にはタマがついてますからね」
「モジャマサはタマが守るー!」
「モジャマサじゃないってのこの!」
「うわー!」
うちのタマは最強ですから。
モジャモジャうるさいタマの頭を撫でまわすと、タマは嬉しそうな悲鳴をあげる。
なんで楽しそうなんだお前は。
「そうですね。でも気を付けてくださいよ、ナガマサさんは普通なんですから」
「はい」
俺も結構なアレなんだけど、まぁタマに比べれば普通だしな。
忠告は素直に受け取って気を付けよう。
「それではお疲れ様でした。また狩りに行きましょう。気軽に誘ってもらって構いませんから」
「はい、また声かけますね! それではおつでした」
「ばいばいミルキー!」
「タマちゃんもまたね」
無事に宿までミルキーを送り届けた。
ひとまずミッションコンプリートだ。
「タマ、まだ付いてきてるか?」
「うん、いるよー」
「よし。引き続き頼むぞ」
「らじゃー!」
タマに警戒を頼んだまま街の外へ向かう。
最初の目的通りだ。
仕掛けてくるなら迎え撃つし、何も無いならそれで良い。
人目がなくなれば分かることだ。
すんなりと街の外へとやってきた。
道中露店を覗いたりしていたからか、時間は20時を過ぎている。
夜であまり相手にしたくない部類のモンスターに配置が換わって、プレイヤーの数はかなり少ない。
大半の新規プレイヤーが昼にプルンや白耳兎を狙ってるってことだな。
夜は巨大ゴキブリが徘徊する地獄絵図だ。
強さ自体はオオカナヘビより強くないが、ビジュアルが強すぎる。
精神的ダメージがやばいからな。苦手な人は卒倒してもおかしくない。
昼に比べれば少ないけどここで狩りをしているプレイヤーは精神的にタフか、苦手意識を持ってないかだな。
俺は苦手だけどまぁゲームだしと、なんとか我慢出来る。
囲まれる事態はご免だけど。
近くにモンスターはいない。
歩き回ろう。
しばらく歩くと、いた。
みんな大嫌い盗油蟲だ。
剣を抜いた。
だが後ろにもいる。
今は夜でここは街の外。
人で賑わってるわけでもない。
こんなところで後を付いてくる奴がいれば、俺でも分かる。
舐められてるんだろうか?
きっとそうだろう。
なんたってまだ初めて3日目……えっ、まだ3日しか経ってないの?
ちょっと内容が濃すぎないか。
「何か用ですか?」
振り返って声をかけてみる。
このままモンスターに攻撃したところを襲われそうで嫌だからな。
「いやいや別に、何でもありませんよっ!!」
言い終わるかどうかの時点で鎌を投げてきた。
けどそんなに速くない。
持っていた剣で横から叩いて弾いた。
「何のつもりか知らないけど、喧嘩なら買いますよ」
攻撃してきたってことは俺の敵だよな?
敵は容赦しない。全て蹴散らすのみだ!
驚いてるような顔は見たような気がする。
そうだ、ゲームを開始したその日に俺を殺そうとした、ミーガンだ。
あの日よりも少しぼろっちい装備に身を包んでいる。
懲りてなかったのか。
「あの日お前を仕留め損なって、あのクソ野郎に酷い目に遭わされたからな! お前で憂さ晴らしだ。生きててくれて、ありがとうよぉ!」
どこかへ飛んで行ったはずの鎌が後ろから飛んできてミーガンの手に収まった。
もしかして自動で手元に戻るのか。便利そうだ。
「そっちこそ、わざわざ俺の前に来てくれてありがとう。あの時の仕返しをたっぷりしてやるから、楽しみにしとけこの野郎!」
こんな殺人鬼に敬語も気遣いもいらない。
ぼっこぼこにしてやる!
「タマはあとの二人を頼む。このミーガンって奴は俺自身でケリをつける」
「わかった! タマにまかしとけー!」
「あれから激しい狩りで鍛えたんだ。初心者如きに負けるかよ!」
ははは、あの時の俺達と同じだと思ってたら酷い目に遭うぞ。
というか俺が遭わせてやる。
さぁ、戦闘開始だ。




