265 滅魔の代行者
大部屋の四隅から伸びる通路の一つを進んでみた。
少し進むと、大きな腕が這って来ているのが見えた。
マップの隅の部屋の壁に埋まってたやつだな。
一際大きい右腕は、複数の右腕を従えている。
手の平を床に叩きつけて、肘を曲げて肩の部分を引き寄せる。
そのまま肩でしっかりと踏ん張って手を先へと伸ばす。
その繰り返しでどんどんこっちへ迫ってくる。
俺を狙っているというよりは、中央を目指しているだけだろう。
名前は≪破壊の嘆き≫。
なんとなく予想はしてたが、模倣の字がついていない。
このマップに出現する腕や脚はあれを元にして作られたんだな。
「タマ、蹴散らしていいぞ」
「らじゃー!」
タマが元気よく飛び込んでいく。
次の瞬間には右腕達は砕け散った。
模倣品も本物も、こうなればまったく関係ない。
全部ただのドロップアイテムだ。
アイテムを回収して、そのまま奥に進んでみる。
しばらく進むと、行き止まりになっていた。
小部屋に通じてた筈だが、あの声の言う通り塞がれているようだ。
ギミックの一環だろうから、慌てなくても大丈夫ろう。
もしもあのロボットを倒しても開かなければ、その時慌てればいい。
次へ向かう。
他の通路も同じように大きな腕や脚が中央を目指していた。
そして同じように、タマに瞬殺された。
相変わらずデタラメな強さだ。
……よくよく考えたら、俺もタマも攻撃に偏り過ぎだよな。
バフやデバフ系のスキルなんかはかなり少ない。
そっち方面のスキルを揃えようと思ってた筈なのに、ついつい攻撃に寄っちゃったんだな。
揉め事の種も増えそうだし、防御を重点的に高めていこう。
そう考えると今の狩りも、盾の強化を考えると重要だ。
来て正解だった。
大きな左脚とその取り巻きを殲滅した。
これで四肢は全滅だ。
特にアナウンスは無いらしい。
残り時間のカウントも止まってしまったが、それだけだ。
何かが起こる感じもない。
大部屋に戻ったら何か起きるかな?
『よくも、よくも私の四肢を!!!』
大部屋に入ると、天井のスピーカーから怒りが噴出してきた。
背後も含めて、四隅の通路に壁が降りてきて出口を塞いでしまった。
決戦の前振りだな。
中央の円柱状のショーケースに浮いていたロボットが、こちらを向いた。
声とは違って、その顔はどこまでも涼しげだ。
だけど赤っぽいオーラが出てる気がする。
あんまり怒ると肌によくないらしいぞ。
『私にかけられたロックも解除した! 例え全力ではなくとも、貴様如きこれで充分だ!』
――ビシッ!! ビシビシビシビシッ!!
ロボットを封じていたらしいガラスに大きなヒビが入った。
そのヒビは少しずつ少しずつ、小規模ながらも連続で広がっていった。
やばい音がしている。
ドパーン!!
「うおっ!?」
「わっしょい! わっしょい!」
まるで内側の空気が爆発でもしたかのように、ガラスが弾け飛んだ。
細かい破片がキラキラ光るのはいいけど、びっくりする。
大したダメージにならないとは思っても、つい咄嗟に顔を庇って目を閉じてしまった。
ガラスから解き放たれたロボットは、そのまま宙に浮いていた。
そしてどこからともなく現れた四肢が合体していく。
あれはサイズ的に、模倣のようだ。
なるほど、這い寄る四肢を倒しておくと、代わりに対応した四肢の模倣を装着するのか。
逆に中央に来るまで撃退出来なかったら、あいつと合体して強くなるってことだな。
両腕両脚の揃ったロボットが、重量感のある音と振動を響かせて床に降り立った。
身長4mくらいありそうだ。
名前は≪滅魔の代行者≫。
もしかしてこのロボット、≪魔の者≫に対抗する為に作られたとか、そういう設定かな?
暴走してるしそんなこと考えても仕方ないけど。
『さあ、死ぬが良い!!』
代行者は叫びながら殴りかかってきた。
意外と速い。
だけど余裕で躱せる速さだ。
「タマ、合わせてくれ」
「あいあい!」
敢えて前に踏み込む。
その一歩は空間を越えて、代行者の背後の空中を踏みしめる。
そこから軽くジャンプして、俺とタマを見失った代行者の頭目掛けて落下する。
剣を腰の鞘に納めて、ストレージからギガントマッスルを取り出す。
チョップする時の腕を模した、狂ったデザインの大剣だ。
スキルの関係で、多分これが一番強い。
今使えるバフを自分に掛ける。
発声する必要がないしディレイもほぼないから、連続でかけられる。
締めに≪真・六道踏破≫を発動。
六色の球体が現れ、巨大な手刀に吸い込まれていく。
『そこか!』
ようやく気付いた代行者が振り返った。
もう遅い。
既に俺はギガントマッスルを振り上げている。
後は振り下ろすだけだ。
「滅魔刃竜剣!」
「めつまモジャ竜剣!」
上から下に、真っ直ぐ縦に。
代行者の背後に現れたタマが、右から左、真っ直ぐ横に。
それぞれの武器を振り切った。
強力な攻撃スキルの光は、代行者を綺麗に四つに分断した。
HPなんてバーごと砕け散ったように見えたな。
軽やかな音楽と、MVPという文字が俺の頭上で躍る。
珍しくMVPがとれた。
ギガントマッスルのお陰だろうか。
もうこれ以上攻撃力はいらないな。
ギガントマッスルをストレージに戻しておく。
それにしても、モジャ竜ってなんだ。
発声する必要はないんだから、スキル名と違ってても問題ない。
だけど気になってしまう。
モジャモジャした竜なんだろうけど、どこがモジャモジャしてるんだ。
やっぱり頭か。
それともヒゲ? 鬣?
いけないいけない。
変な思考に捕らわれてしまっていた。
ドロップアイテムは……おお、≪ゴーレム結晶≫あった!
後はコインと、≪滅魔の意志≫? これは素材なんだろうか。
一応残しておこうかな。
MVP報酬は≪古いコインケース≫と、≪歴史装甲板≫という名前の板。
ミルキーにプレゼントする盾の素材にしてみるか。
『システム復旧。隔壁解放。自己修復プログラム作動。実験機の生成を開始します』
無機質な機械音声が響く。
どうやら復活したようだ。
降りていた壁が持ち上がって通路が解放された。
さっき砕け散ったはずの円柱も、一瞬で再生されて元通りだ。
すごい技術だな。
滅魔の代行者はすぐには復活しないようだ。
一日空けたら戦えるだろうか。
次は四肢を倒さずに、フルパワー状態のあいつと戦ってみたい。
ドロップアイテムも良くなるかもしれないし。




