254 付き添いと至急
「付き添いって、それは俺必要ですか?」
「必要なければ態々頼まん」
そうだろうけども。
具体的にどう必要なのか、さっぱり想像出来ない。
護衛はミゼル親衛隊の皆さんがいるし。
あの団体は、ミゼルがいなくなっても名前はそのままなんだろうか。
「必要な理由が思い浮かばないんですが」
「正直な話、私は今までミゼル以外に興味を持たなかった」
「そうでしょうね」
「故に、婚約者を決める為の面談など、どうしていいか分からんのだ」
「でしょうね」
「褒めるな褒めるな、照れるだろうが」
「むしろ呆れてるんですけど」
何故そこで照れるんだ。
そんなにミゼルのことを考えられるなんてすごいですね、なんて聞こえたんだろうか。
ポジティブすぎる。
脳味噌だけじゃなくて耳のフィルターにまでミゼルへの妄執が詰まってるんじゃないか。
「とにかくだ、心細いから付き添ってくれ。こんなことを頼めるのは、我が義弟であるナガマサしかおらぬのだ」
「ええー……一体いつなんですか?」
「これからだ」
「はい?」
「20時から顔合わせが開始される」
時計を見る。
20時まで、あと10分程だ。
……はあ!?
「もう時間無いじゃないですか!」
「だからこうして焦っておるのだろうが」
「優雅にお茶してるようにしか見えませんけど?」
「今回の件ついては真に至急でな、心の準備すら整わなかったのだ。そして最後の望みを掛けて会いに来たと、そういうわけだ」
「それにしても急すぎませんか?」
「ミゼルの為にこうなったのだ。仕方あるまい」
パシオンはきっぱりと断言した。
ミゼルの為なら自分がどうなっても構わないという、覚悟が伝わってくる。
それなら最後まで自分でなんとかして欲しい。
ミゼルの為と言われたら、協力しない訳にはいかない。
俺がミゼルと結婚出来るのも、パシオンのお陰らしいからな。
「分かりました。もう時間もないので急ぎましょう。どうやって行きますか?」
「表にノーチェを待機させている。城へは直通だ」
「はい。タマ、お出掛けするぞ」
「はーい!」
俺が立ち上がったのを見てパシオンも立ち上がる。
タマに呼びかけると、即座に隣に移動してきた。
いつの間にか装備も着替えて準備万端だ。
まだタマが葵の前にいるように見えるのは、きっとスキルで増えてるだけだ。
愛用の鎧は一つしかないから、まだ見た目でどっちが本体側か分かる。
システム上は多分区別ないんだろうけど。
分身みたいな、偽物を出すスキルではないからな。
「ちょっと行ってくるよ。ミルキーには説明をお願いしていい?」
「はい、安心していってらっしゃいませ」
「ミゼル、またすぐに来るからな!」
「はい、またいつでもいらしてください」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい……!」
「へいらっしゃぁぁぁあああああああぁぁあああああああああいいいい!!!」
パシオンはミゼルへの挨拶を済ますと、さっさと玄関へ向かって行った。
いつまでも愚図りそうなのに、立派になったな。
俺ものんびりはしていられない。
ミルキーへの伝言をお願いしておく。
後で俺からもメッセージを送っておこう。
ミゼルと葵に見送られて家を出る。
クレイジーフラワーの叫び声も聞こえてくる。
それはあまり嬉しくない。
表に出ると、パシオンの言った通りノーチェがいた。
もしかしてずっとここで待っていたんだろうか。
パシオンも、中まで連れて来ればいいのに。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。パシオン様の依頼を引き受けて下さりありがとうございます」
「モジャモジャは優しいから!」
「そのようですね」
なんとなく申し訳なくなって謝ると、真面目そうな笑顔を返してくれた。
出来た人だ。
パシオンの騎士なんてこのくらい精神的に出来た人じゃないと勤まらないだろうな。
少なくとも俺には無理だ。
仕事中なんだとしたら、俺が口を挟むようなことではない。
王族と仕える騎士なんだから色々あるだろう。
詳しくは無いけど、王制ってだけで下手に逆らえないようなイメージがあるし。
パシオンはなんか気安いけど。
「準備はいいか?」
「大丈夫です」
「それでは、顔合わせの会場の前へお送りします」
「良いぞ」
「≪ワープゲート≫」
ノーチェがスキルを発動した。
何度か見たことのある光る円が現れて、内側から光を吐きだしている。
パシオンが間髪入れずに入って行った。
続いてタマも飛び込んだ。
俺も足を踏み入れる。
次の瞬間には、すっかり夜になった農耕の村から、豪華な通路へと景色が変わっていた。
「ご苦労だったな。下がって良いぞ」
「失礼します」
ノーチェが一礼してから去って行く。
移動スキルは便利だな。
パシオンもノーチェにはよくお世話になってるんじゃないだろうか。
「この部屋だ。付いてこい」
「あ、まだ心の準備が……あれ?」
パシオンが目の前の豪華そうな扉を開いた。
ここが会場なんだよな。
一体どういう態度でいたらいいんだ。
と思ったら、結構広い室内には誰もいなかった。
静かに蝋燭の炎が揺れている。
「慌てずとも良い。時間が決められていても私の方が立場が上なのだ。許可があって初めて入室が許可される。それまでは何時間過ぎようとも待機しなくてはならん」
「パシオン様、そんなことしてるんですか」
「性格わるーい」
「例え話だ。私はそんな無駄な嫌がらせに時間を割くくらいならば、ナガマサの家に押しかけるぞ」
「すみませんでした」
「でした!」
「分かればいい。とりあえず中へ入れ」
促されて中へ。豪華な部屋だ。
うちの大きくなったリビングよりもまだ大きい。
部屋に入ったところで、扉を閉めたパシオンが向き直った。
「ここは物理的にも魔術的にも防音が施してある。外に会話が洩れることも無い」
「どういうことですか?」
「内緒の話というやつだ。よいか、今から話すことは他言無用だ」
「いえっさー!」
「一体何の話をしようとしてるんですか」
「貴様をこの場に呼んだ、本当の理由だ」




