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240 お見送りとエスコート

本日二回目の更新です


「お腹いっぱい!」

「私も……」

「二人とも、あんなに食べるからですよ」


 タマと葵は笑顔のままぐったりしている。

 脱力してるだけか?

 とても幸せそうだ。

 そんな二人をミルキーが小脇に抱えて立ち上がった。


 ミゼル主催の食事会はお開き。

 そろそろ帰ることにした。


 ミゼルの家での食事は、とても楽しかった。

 料理も美味しかった。

 それだけじゃない。

 皆笑顔で、本当に楽しかった。

 招いてくれたミゼルには感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 俺も立ち上がって、玄関でミルキーを待つ。

 両脇にタマと葵を抱えていても重たそうに見えない。

 ミルキーのStrも数万越えてる筈だしな。

 全く苦じゃないようだ。


 玄関から外へ。

 開け放した扉の前で、入口に向き直る。

 玄関の内側にはミゼルが立っている。


 背後に出汁巻とノーチェが控えているが、威圧感はない。

 護衛というよりは、総出でお見送りをしているような感じがする。 

 

「お招きいただき、ありがとうございました。とても楽しかったです」

「お料理もとても美味しかったです」

「美味しかった!」

「また食べたいです」


 ミゼルにお礼を言う。

 皆も続いた。

 

 ご飯の感想ばかりだな。

 って、そうか。

 食事に呼ばれて手料理を振る舞ってくれたんだから、そこに触れるべきなのか。


 失敗したか。

 かといって今から付け足すのも不自然だ。

 幸い、ミゼルは笑顔を浮かべてくれている。


「こちらこそ、とても楽しかったですわ。またお誘いしますので、いらしてくださいね」

「はい」

「是非行かせていただきます」

「タマもモジャを引きちぎってでも行くー!」

「引き千切る意味はあるのか?」

「ないよ!」

「何て奴だ」


 タマめ、俺の髪の毛への扱いが段々雑になってる気がする。

 この世界でも髪は引っ張ったら抜けるんだろうか。

 気にはなるけど試したくない。


 いつかPK相手にでも実験してみるか?

 タマのストロングパワーで引っ張っても抜けなければ、そういう仕様だと判別できる。


「ミルキー様」

「はい、どうされました?」

「少し、ナガマサ様をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「私は構いませんよ」

「ありがとうございます」


 ミゼルがミルキーに断りを入れた。

 何だろう、何か手伝うことがあるんだろうか。

 男手だったら出汁巻がいるしなぁ。

 何か、討伐依頼とかだろうか。


「気にしないでください。ナガマサさん、私は先に帰ってますね」

「分かった、気を付けてね」

「ふふっ、すぐ隣ですから大丈夫ですよ。それではミゼル様、失礼します」

「ミゼル、出汁巻、ノーチェ、ばいばーい!」

「ごきげんよう」

「ドナドナドオオオオオォォォォオオォォナァァアァァァドオォォォナアアアァァァァァァアアアァァァ……」


 挨拶を終えたミルキーが先に帰宅した。

 タマと葵を抱えたままだ。

 ステータスを知ってるからおかしく見えないけど、傍目から見るとすごい絵面だ。

 装備が魔法系だから非力に見えるのに、中学生くらいの女の子を片手ずつで運んでるからな。


 非力そうなのに力持ち。

 ギャップですごい目立ちそう。

 家はすぐ隣だから、こういう時楽でいいね。


 ≪クレイジーフラワー≫はまた一瞬だけ音を出すのを許されたようだ。

 妙に耳に残る歌と共に葵ごと運ばれて、≪モジャの家≫へ吸い込まれていった。


「ナガマサ様」

「はい」

「少し、歩きませんか?」

「はい」


 ミゼルが歩き出す。

 慌てて続こうとして、足を止める。

 なんとなく振り返ってみると、いい笑顔の出汁巻がいた。


「護衛はいいんですか?」

「ナガマサさんがいれば平気っすよ」

「そういう問題なんですか?」

「そういう問題っす。ほらほら、ミゼル様がお待ちかねっすよ」


 出汁巻に言われて前に視線を戻すと、ミゼルがこっちを見ていた。

 立ち止まって、じっと見つめている。

 早く来いと言われているように感じる。


 釈然としないが、出汁巻に構ってる場合じゃなさそうだ。


「すみません、お待たせしました」

「大丈夫ですわ。丁度、思ったよりも暗かったので立ち止まったところですの。エスコートしていただけますか?」


 頭を下げると、ミゼルは気にしなくていいと言ってくれた。

 確かに暗い。


 今はもう21時を回っている。

 この村は年寄が多く、活発なのは朝早くから夕方くらいにかけてだ。

 夜は寝るのが早いからこの時間にはもうひっそりとした雰囲気になってしまう。


 以前は夜遅くまで露店を出していたプレイヤーもいたそうだ。

 今は住人達に気を遣って、遅くまで露店を出したり騒いだりしないよう、暗黙のルールになっているらしい。


 ここはストーレと違って街灯なんかもない。

 月と星、家から漏れる僅かな灯りだけでも俺は問題ないが、王女であるミゼルに何かあったら大変だ。


「はい」


 差し出された手を取った。

 白くて華奢な手だ。

 けど、エスコートってどうしたらいいんだろう?

 手を引いて歩くことなのか?

 そもそもどこへ行ったらいいんだ?


 経験が無ければ知識も無い。

 どうすればいいのかも分からない。

 仕方ない。

 恥を捨てるしかない。


「どちらへ参りましょう?」

「村の中をぐるっと一周、案内していただけますか?」

「分かりました」


 ミゼルの手を引いて歩く。

 早くなりすぎないよう、歩幅とペースを合わせる。


 最初はどうなることかと緊張したが、段々慣れてきた。

 ミゼルと他愛のない話をする内にリラックス出来たようだ。


「――ナガマサ様」

「はい」


 商店のおじさんの話題で盛り上がったところで、突然ミゼルが立ち止まった。

 名前を呼ばれたので、短く答える。


 身体ごとこっちへ向き直ったので手を離した。

 何か決心したような表情に見える。


「私との結婚のお話、考えて頂けたでしょうか?」

 


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