233 のんびり狩りと大音量
疲れた。
城の床でべったりと仰向けに寝転がっている。
ああ、ヒンヤリしていて気持ちいい。
「はい、餌だよ!」
「キュル!」
休憩している俺の横にはタマと、ドラゴンモードのおろし金がいる。
近づいて来た≪ダイヤモンドナイト≫がタマに捕まれ、空中に放り投げられる。
ここのモンスターは宝石で出来た騎士がメインだ。
騎士甲冑を削り出したような見た目で、中身までぎっしり詰まっている。
かなり重そうだ。
それが、軽い調子で宙を行く。
描いた弧の先端にはおろし金の口。
ご機嫌に鳴いた後、≪ダイヤモンドナイト≫を口でキャッチした。
ダイヤの騎士はそのままゴリンゴリンと軽快な音を立てて砕かれて、呑み込まれていった。
平和だなぁ。
俺とタマの狩りには付いてこれなくて申し訳なく思ってたから、沢山食べるんだぞ。
俺はしばらく狩りをしていないことを思い出した。
お金を稼ぐため、慣れたこの狩場へやって来た。
テンションが上がり過ぎて、ハイペースで一時間ぶっ続けの狩りをしたら流石に疲れてしまった。
今はおろし金に見張りを頼むついでに、餌の時間だ。
ここのモンスターはおろし金だけでも余裕で狩れる。
しかし、甘えたいんだろう。
タマが投げた餌を食べては喜んでいる。
餌をあげているタマも楽しそうだ。
最初の一時間と今の全力の一時間。
計二時間の狩りだが、収穫は充分だ。
むしろ効率が良すぎてやばい。
一回目は少し感覚を忘れていた。
二回目はほぼ完ぺきだった。
今までの狩りの中でも間違いなく、最高効率だろう。
間違いない。
沸きの数がそんなに多くない分、全力の移動で稼いでる感じだ。
瞬間移動を繰り返しながら敵がいれば即殺だからな。
倒すのはタマが先行してやってくれるから、俺はついていきながら拾うことに集中すればいい。
ただ二人だと、ついつい手を出したくなってしまう。
効率は落ちないが、立ち回りが複雑化する。
おかげで神経を使い過ぎて疲れてしまった。
いつまでもこうして寝転んでいるわけにもいかない。
ここで狩りを続けるか帰るか、迷うところだ。
「タマ、まだ狩りしたいか?」
「まだやるー!」
「そうか、分かった」
タマがやりたいなら仕方ない。
もう一時間やってから帰るか。
次は全力とまではいかないくらいのペースで行こう。
「タマ、最後は少し軽めにな」
「あいあいさー!」
タマはいつも元気だ。
返事も元気いっぱいで、つい笑顔になる。
最後の一セットか。
せっかくだから新しい武器も使ってみるかな。
「おおー! かっこいー!」
受け取ってから仕舞いっぱなしだった武器をストレージから取り出す。
肘から先を巨大にして柄を肘側に突っ込んだような、ある意味男らしい武器。
その名も≪筋肉大手刀・ギガントマッスル≫。
名前の通り、チョップの形の手を模したこれは、大剣でありながら全ての攻撃が格闘属性になる変わった武器だ。
武器と言うより、筋肉そのもの、みたいな謎の熱意を感じる。
筋肉の楽園といい、開発チームの中に絶対筋肉好きがいるだろ。
このゲームを作った会社は潰れたみたいだけど、やっぱり悔しかったんだろうか。
筋肉の部分はちゃんと残ってるから安心してほしい。
むしろよく残ってたな。
今の運営が寛容なのか、修正するのが手間だったのか。
まぁいいか。
筋肉には何かとお世話になってるからな。
新しい武器を振り回しての狩りを一時間楽しんだ。
筋肉大手刀は両手で持つような大剣だ。
けど、俺のStrだと片手で問題なく扱える。
長くて大きいものを好きなように振り回すのは、案外楽しい。
威力的には完全に無駄だけど、いいんだ。
楽しむことが一番であって、無駄かどうかなんてよっぽど余裕がない時だけ考えればいい。
さぁ、たっぷり稼いだし帰ろう。
今日買った装備をミルキー達に自慢しないとな。
洞窟を出た後は、おろし金の背に乗って我が家へと向かった。
今は17時。
もう夕方か。
思ったよりも出掛けてたな。
朝が遅かったからそのせいだと思うことにしよう。
少しの時間で、家の上空へ到着した。
裏手側の放牧スペースに向かってゆっくりと下降していく。
放牧スペースの半分以上を占める結晶の城がキラキラと光って、綺麗だ。
「おろし金、いつもありがとうな」
「キュル」
今日ものんびり過ごせたな。
ミルキー達ももう戻ってるだろうか。
放牧スペースから、裏口を開けて家の中へ入る。
ミルキーと葵の姿が見える。
もう帰って来ていたようだ。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい」
「おかえり」
「ただいまー!」
「キュルル!」
ミルキーと葵が席を立って出迎えてくれた。
後からタマとおろし金も入ってきた。
それぞれが挨拶を交わしている中、ミルキーの様子がおかしいように感じた。
「ミルキー、どうかした?」
「実は……」
「おかえりぃぃぃぃだぜええええぇぇぇぇぇぃいい!!!」
「うわっ何!?」
ミルキーが何かを言おうとした直後、ハイテンションな声が聞こえた。
びっくりしたー……。
思わず慌てた声が出てしまった。
応えてくれたのは、意外な事に葵だった。
「私の相棒」
「よおおぉぉぉぉぉおおろしく!」
「よろしく! タマはタマだよ!」
葵の頭の上に乗っているのは、サングラスをかけた花。
音に反応して踊り出すおもちゃだ。
それが変なテンションで喋っている。
うるさくてうるさい。
なんだこれ。
普通に挨拶出来るタマはえらいな!
「これ、喋れたの?」
「特徴スキルの≪自我≫と≪会話≫を取ってみた」
「すごーい!」
「何かどこかで聞いた組み合わせだな……」
黄色い嫌なものを思い出しそうになった。
いや、あれと葵は違う。
あの変態がやったからあんなとち狂ったパンツが出来上がっただけで、その二つのスキルを組み合わせたら必ず変なものが出来上がると決まった訳じゃない。
「はっはー! 今日はいーい天気だぜええええぇぇぇぇぇぇ」
「名前も今日付けた。≪クレイジーフラワー≫」
「あああああぁぁぁぁ、音を聞くと踊りたっくなるるるるるるる」
クレイジーフラワーはくねくねと踊っている。
最早自分の声に反応してないか?
……ごめん、これは変かもしれない。




