221 お祝いと初料理
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葵が謎の筋肉免許皆伝を受けたから、夜はお祝いをすることになった。
理由としては弱いかもしれない。
しかし、イベントの後はお祝いをするものだと、昔教わった。
お別れの近い葵とタマを楽しませたいというのもある。
今は夕方。
16時を過ぎたところだ。
俺とミルキーは、丁度訪ねてきたミゼルと出汁巻玉子と一緒に、四人でお祝いの準備をしている。
免許皆伝とはいえ、修行が終わったわけでもない。
葵は畑で≪ムッキー≫と鍛錬に励んでいる。
俺から見た葵の印象は、大人しくて引っ込み思案だけど、芯は強くて頑張り屋。
でもそれは、あくまでも一面でしかないんだろう。
大事な家族が死んだら、性格に変化があるのは身を以て経験してる。
モグラも、葵は生意気で元気いっぱいだったって言ってたし。
今は、モグラが保護者のようなことをしているらしい。
そのモグラから預かったということは、俺が保護者といっても過言じゃない。
タマとも仲良くしてくれているし、目一杯この村での暮らしを満喫してもらうつもりだ。
「さて、やるか」
茶色くて丸い、でこぼこした芋を一つ手に取る。
右手には、宿屋のおばちゃんから餞別でもらった包丁。
人生初の料理に挑戦だ。
勿論、ミルキーにしっかり教えてもらう。
最初から一人で出来るとは思えない。
頼るべきところは頼る。
その分の恩は、後から少しずつでも返せばいいんだ。
「キュル」
「ん?」
いつのまにか這って来ていたおろし金が足に頭をこすり付けてくる。
視線は俺に。
そしてジャガイモに。
食べたいのか?
こっそり差し出してみると、パクリと食べた。
可愛いやつめ。
あたらしいジャガイモを手に取る。
今度こそ挑戦開始だ。
まずはしっかり教えてもらわないと。
「ミルキー、これってどうしたらいいの?」
「ジャガイモはこんな感じで皮を剥いて、この窪んでる部分はこうやって、全部とっちゃってください。この部分が残ってると、≪毒状態≫になっちゃいますからね」
「はーい」
ミルキーの手によって、ジャガイモは一瞬にして綺麗に皮を剥かれた。
ありふれた食材だと思ってたのに、毒があるとか危険な食べ物だったんだな。
毒状態になると、数秒ごとにHPに割合ダメージが入る。
かかる確率と自然に消滅するまでの時間は、Vitに依存する。
俺達は大丈夫だろうけど、ミゼルと葵は怪しい。
特にミゼルはNPCだ。
ステータスを持っていない可能性がある。
俺の作った料理で毒殺されるとか悪夢でしかない。
丁寧に処理をしよう。
ミルキーが見せてくれたお手本通りに真似すれば大丈夫だ。
包丁を歪な丸い物体にあてる。
右手に力を込める。
――ズパンッ!
ジャガイモの半分が消し飛んだ。
おかしいな。
力を入れ過ぎたんだろうか。
もう少し慎重にしないといけない。
さぁ、もう一度だ。
――ザクッ!
ジャガイモが真っ二つになった。
おかしいな。
≪無刀両断≫は使ってない筈なのに。
「多分力が入り過ぎてますね」
「やっぱりそう思う? 気を付けてみる」
「頑張ってください。いくらでも失敗していいですからね」
「ありがとう」
何個か剥く内に、なんとか『剥く』ことが出来るようになってきた。
それでもまだ出汁巻に追いつけない。
一番近くの目標が、俺と同じく料理をしたことのない出汁巻だ。
見てろよ、すぐに追い越してやる。
「ミルキー、形が残るようになったよ!」
「リンゴの芯みたいになるんすけど」
「ふふっ、二人とも器用ですね」
俺が剥いたものは原型がある。
だけど大きさはかなり小さくなってしまっている。
縦横共に三分の一くらい?
出汁巻のジャガイモは、ガタガタして縦に細長い。
だけど俺よりも多く残っている。
まだ勝てないか。
俺はちょっとずつ上達してる。
どんどんいくぞ。
「おろし金ちゃん、食べる?」
「キュルル!」
俺達が剥いた皮なのか実なのか分からないものは、おろし金が食べてくれた。
食材が無駄にならなくて何よりだ。
「ミルキー様、こうでよろしいですか?」
「ミゼル様上手ですね。もうこんなに綺麗に剥けるなんて」
「ありがとうございます。お料理なんて初めてで、とても楽しいですわ」
最初の時点で俺より上手かったミゼルは、かなり上手くなっていた。
ミルキーが剥いたものと比べてもそこまで違わない。
なんて上達の早さなんだ。
初めてでこれってすごいな。
俺も頑張らないと。
出汁巻と競いながら、ミルキーに教わりながら、ミゼルと話しながら。
どんどん皮を剥く。
それだけじゃなく、野菜の切り方も教わった。
現実世界では一人で出来る事なんかほとんど無かったから、自分の力で何か出来るのは楽しい。
料理もずっと興味はあったから、このお祝いはいい機会になった。
感謝の意味も込めて、葵を沢山労おう。
あとは野菜をお裾分けしてくれた昭二と、お肉を持って来てくれたミゼルにも感謝しないといけない。
二人にはいつもお世話になってるし、お礼を考えておかないと。
今度欲しいものが無いか聞いてみよう。
装備の類なら作ることも出来るし。
和やかな時間が過ぎていく。
そんな平和な生活に横槍が入ったのは、お祝いを終えた俺達がすっかり寝静まった頃だった。
 




