216 素材リストと不審人物
純白猫から送られて来たリストには、素材の特徴が記されている。
俺が提案した装備を作る為に必要な素材だ。
製作期間を考えると出来れば二日で集めたい。
一度純白猫と別れ、リストをじっくり見ることにする。
うーん、ある程度は行ったことのある狩場で調達出来るか?
宝石は良い狩場を知っていて助かった。
・宝石。種類はなんでも可。但し、種類で属性が決まります。足りなかった場合の予備。
・金属。お好みでどうぞ。金属っぽいモンスターの素材でも可。多めに。
・何かの皮。丈夫な方が良いと思います。多めに。
・その他使いたい素材。無機物の方が相性は良いです。
これが、リストだ。
かなりざっくりしている。
外せない要素は指定して、後はこっちの好みに合わせてくれるってことだろう。
多分。
純白猫の性格の表れの可能性も否定は出来ない。
金属系の素材もそれなりに要求されている。
結局鉱山は行ってないし、突撃するのもありだろうか。
「よーし、タマ、早速素材を集めに……」
「モジャマサ、怪しい奴がいるよ?」
「うん?」
タマの視線の先には、人型の発光体がいた。
うわっ、なんだあれ。
しかし、周りの人達は一切気にした様子がない。
まるで、見えていないかのようだ。
もしかして、本当に見えていないんだろうか。
「とりあえず追いかけてみようか」
「らじゃー!」
発光体に気取られないように同じ方向へ歩く。
少し距離が縮まると、頭上に文字が浮かんでいることに気付いた。
≪ピーヒョロロ≫……アイコンは緑。
どうやらこの人型発光体はプレイヤーであるらしい。
なんでこんな姿なのかと思った時、一つのスキルのことを思い出した。
そういえば≪看破の魔眼≫で見た時に、隠れているものは光っていた。
今まで草やアイテムを発見するのにしか役立っていなかったから忘れてたな。
人間相手だと人型発光体になるとは思ってなかった。
発光体は、見覚えのある場所へとやって来た。
少し先にはマッスル☆タケダの露店がある。
脇道に逸れたかと思うと、そこから動かなくなった。
まるでタケダを見張るように、物陰からタケダの様子を窺っている。
俺達はカモフラージュとして近くの露店を覗きこみながら、発光体の動きを観察する。
一体なんだろうか。
もしかして、タケダのファンか?
もしくはマッスルの方のファンかもしれない。
それならいいんだけど、PKとかだったら嫌だな。
よし、進化した≪看破の魔眼≫の力を見せてやろう。
人型発光体を見つめる視線に力を込める。
何らかのスキルで隠れていたであろうピーヒョロロの姿が露わになった。
俺の目からは全身の照明がオフになった感覚だけど、消えてた姿が現れたんだと思う。
ピーヒョロロはそのガタイの割に身軽そうな装備をしていて、手には短剣が握られている。
スキルが解除されたことに気付いていないようだ。
人目につかないように脇道に潜んでるのが仇になったようだ。
これが≪極・看破の魔眼≫の力だ。
隠されたものを見破るだけでなく、効果そのものを解除することが出来る。
成功率は使用者のIntと相手のIntによる。
俺達が使えばほぼ成功すると思う。
俺達にちょっかいをかけてきたトッププレイヤー集団、≪三日月≫との戦いに備えて進化させた。
結局三日月メンバーの相棒には効果が無くて、情報とられてたけど。
空気だから別に隠れてたわけじゃないからな。
普通に目の前を漂って、全て筒抜けにされていただけだ。
「あいつ敵? 敵?」
「うーん、もう少し様子を見よう」
「あいあい!」
ピーヒョロロは武器を持ったまま、タケダに熱烈な視線を送っている。
武闘派なファンである可能性も、なくはない。
ここは本人に確認してみるか。
何食わぬ顔でタケダのところへ。
「タケダさん」
「おん? ナガマサさんか、どうしたんだ? 何か忘れてたか?」
「あの人って見覚えあります?」
「うん?」
指を指すと、ピーヒョロロは驚いた顔をした。
そして自分の姿を確認して、再び全身が発光した。
スキルをオンにしたようだ。
そのまま脇道の方へ引っ込んだ。
「いや、俺は知らない奴だな」
「分かりました」
タケダが知らないってことは、知らない奴だ。
つまり怪しい。
本人には内緒の護衛というパターンも有り得るが、それは聞けば分かることだ。
そうだったら謝ろう。
「タマ、GO!」
「わーい!」
タマに合図を送ると、瞬間移動を繰り返しながら消えていった。
これで、すぐにでもピーヒョロロを捕まえてくれる筈だ。
どうやって聞こうかな。
素直に教えてくれるといいんだけど。
「それじゃあ俺もこれで」
「お、おう。……なんだったんだ、一体」
人型発光体が消えていった脇道へ入る。
奥に進んで、一つ曲がる。
そこには、首を鷲掴みにされて地面に押しつけられているピーヒョロロがいた。
抵抗を試みたらしく、粉々になった短剣の残骸が転がっている。
「よし、よくやったぞタマ」
「えっへへー!」
「ちくしょ、離せっ……!」
「タマ、離してあげて」
「はーい」
「隠れて何をしてたんですか?」
「はっ、何もしてねーよ!」
どうやら素直には話してくれないようだ。
仕方ない。
手荒な真似はしたくないし、ここは諦めよう。
「そうですか。分かりました」
「おいおいおい、それで済むと思ってんのか、ああん? オレの武器どうしてくれんだよ?」
「あー、すみません。姿を隠して武器を持ってたから、PKと間違えてしまいました」
「はぁ? 謝罪だけで済むと思ってんのか?」
「お世話になってる人を武器を持ったまま見つめてた変質者に、謝罪だけで済ませるのは有情だと思いますよ。それ以上の私刑が欲しいならあげますけど」
「ふふふふふ」
「ぐっ……」
俺の言葉に合わせてタマが手をわきわきさせる。
調子に乗っていたピーヒョロロも、実際に瞬殺されたであろうタマには下手に出るしかないようだ。
「ちっ、今日はこのくらいで勘弁してやらぁ」
ピーヒョロロは悪態をつきながら去っていった。
勿論、このまま逃がすことはしない。
「タマ、分裂してあいつを見張っておいてくれ。ばれないように、コッソリな」
「「はーい!」」
一瞬の間にタマが二人に増えた。
その内の一人がシュバッと姿を消した。
俺のお願い通り、ピーヒョロロをマークしてくれているんだろう。
これで何かあってもタケダの安全は保障されている。
あいつがPKだとしたら、同じようなのが葵のところへも来ているかもしれない。
素材集めの前に一度我が家へ帰ろう。




