209 モグラと乾杯
本日二回目の更新です
「こんー。待たせちゃったかな?」
「こんばんは、俺達も今来たところなので大丈夫ですよ」
「やっほー!」
「こんばんは……!」
「明日に備えての作戦会議が長引いちゃってさー。ごめんね。葵はどう? いい子にしてるかな?」
モグラとの待ち合わせ場所はいつもの広場、噴水前だ。
俺たちよりも早く来て待っているモグラだが、今日は少しだけ俺達の方が早かった。
明日はPKの討伐に出る訳だし、仕方ないだろう。
まだ待ち合わせの時間の10分前だし。
「いい子だよ……!」
「ほんとかなー? んんー?」
「むー……!」
モグラが葵に絡んでいる。
絵面がやばい。
中学生くらいの女の子に因縁を付けてるチャラい男にしか見えない。
仲が良いからこそのやりとりなのは分かるけどな。
葵の頭の上のダンシングフラワーがずっと揺れてるのも面白い。
相棒なのは分かったけど、あれって取り外せないんだろうか。
気にしないようにしてたけど、会話してるとずっと踊ってるからつい笑いそうになるんだよね。
まじめな空気になったらまずい気がする。
「葵ちゃんは良い子ですよ。修行も頑張ってますし」
「そっかそっか。ナガマサさんがそう言うなら安心だね」
「私もそう言ってるのに……!」
「自分でよい子とか言っちゃう子は信用出来ないんだよねー」
「むむむー……!」
モグラは葵をからかうように笑っている。
葵の方も、俺達に対してよりも素直に見える。
やっぱり付き合いの長さかな。
残りの期間でもっと慣れてもらえるよう頑張ろう。
「さて、とりあえず移動しよっか。葵がどんな様子なのかも詳しく知りたいし」
「はい」
「いっぱい食べるぞー!」
「さっきご飯食べてきただろ?」
「食べたいと思ったら食べられるからだいじょうぶ!」
作戦会議が押して夕食がまだだったモグラと何故か沢山食べる気のタマのリクエストで、がっつり系の酒場へとやってきた。
ここは料理人プレイヤーが経営する酒場で、ボリュームと男気に二極振りしたメニューが自慢だそうだ。
人数を告げると、奥のほうにあるテーブルへと案内された。
「まずは適当に頼んじゃっていい? おなか空いちゃって」
「タマもー!」
「そうしましょうか。葵ちゃんは何飲む?」
「オレンジジュース……!」
「俺もそうしようかな。タマは食べるんだよな。どれにする?」
「モジャのお任せコース!」
「そんなメニューあるの?」
「無いですよ」
タマの適当な発言に何故かモグラが食いついた。
あまりにも自信満々に言うから誤解したようだ。
勿論そんなメニューは載ってない。
多分俺が適当に選んでくれ、ということだ。
どれがいいかな。
タマが満足できるようにいくつかと、せっかくだし何かつまめる物があった方がいいか。
ご飯を食べたといっても、会話の合間に摘むくらいのスペースはある。
「これ、メニューが豪快ってレベルじゃないんですけど」
「ははっ、すごいでしょ。ここ、食べられる人にはすごくコスパが良いんだよ」
メニューを眺めてもどんな料理があるか、全ては分からない。
知ってる文字もあるけど多くない。
だが、モグラが言うように量が多いことは分かる。
どの料理も、最後に『丸焼き』もしくは『大盛り』と書いてある。
豪快としか言えない。
オオカナヘビの丸焼き……テーブルがこれだけで埋まるんじゃないかな。
適当にいくつか注文した。
飲み物がすぐに届けられた。
まずは乾杯だ。
「かんぱーい」
グラスを打ち合わせる。
乾杯も、この世界でモグラ達としたのが生まれてはじめての乾杯だった。
あの時は確か、ミゼルを襲った魔王モドキを倒した日だ。
ミルキーに告白した後、こっそり見ていたモグラ達に酒場へ連れて行かれた。
改めて考えてみても、いろいろお世話になっている。
恩を返していかないとどんどん大きくなってしまう。
PKの討伐から帰ってきたら何かプレゼントしよう。
マッスル☆タケダはもう依頼した武器の製作に取り掛かってるだろうし、ゴロウは今日は用事があると言っていた。
そうだ、せっかくだから自分で作った武器をプレゼントしよう。
流石に初めて作った武器を渡すのはあれかな。
いくつか練習して、出来るだけ良い武器が作れるように頑張ろう。
「で、転職したみたいだけど何になったの?」
「≪魔導機械士≫」
「だよねー。やっぱりそうなったかー」
「タケダさんも知ってましたけど、有名なんですか?」
「まぁね。条件は知ってればそこまで難しくないし。初心者向けの職業ではないんだけどね」
転職条件は≪魔導機械≫で一定数のモンスターを倒すこと。
武器さえ用意すれば条件は満たせる。
その武器のカテゴリ自体がレアなのと、ノービス時代でステータス的に使いこなせる扱いやすいものが少ないせいで初心者には向かないらしい。
もっともだ。
ただ、葵の剣への拘りを見れば、そうなるだろうというのは分かっていたそうだ。
「レベルはいくつ?」
「21の13」
「へぇ、かなり早いね。オレなんて1上げるのでやっとだったのに、ナガマサさんはすごいね」
「それほどでも」
「タマがついてるからね!」
「そっかー、タマちゃんもありがとね」
モグラが葵を見ていた頃は、足りないステータスで無理に父親の形見である≪魔導機械≫を使おうとしていた。
だからろくに振れないし、持つのがやっとだった。
そんな状態でレベル上げは難しい。
数日かけて1上がっただけで頑張ったと思ってるらしい。
俺もすごいと思う。
俺は支援魔法でブーストしただけだからな。
StrとDexが+1000もされれば、弱いモンスターなんてただの経験値だ。
ただ、きちんと訂正しておかないといけない。
葵は頑張ってるからな。
「でも、俺が手伝ったのは転職するまでで、後は葵ちゃんの努力の結果ですよ」
「へー、そうなんだ。頑張ってるみたいだね」
そこからは、葵はひたすら≪オレンジ細マッチョ≫と実戦形式の修行をしている。
そのお陰で立派な剣士になってきたからな。
技量であのオレンジ細マッチョとほぼ互角になってきたというだけで、俺からすれば凄まじい上達振りだ。
スキル無しでステータスが同じなら、葵に普通に負けそうだ。
剣の扱いで考えると、勝てるプレイヤー自体そんなにいないんじゃないだろうか。
「当たり前だよ。お父さんみたいになるんだから……!」
「……そっか」
憧れである父親を語る葵の目は輝いている。
対照的に、モグラはどこか遠くを見るような、悲しげな目に見えた。




