207 二つの新機能
お昼が近くなって、少し早めの昼食を摂ることにした。
葵は休みを挟みながらもずっと修行をしていた。
段々と動けるようになってきて、楽しいらしい。
合間の小休憩の時に教えてくれた。
畑の縁に腰かけて、港町の屋台で買い込んだ料理を皆に配る。
天気も良いので外で食べることにした。
ここならフルーツも食べ放題だしな。
≪モジャの家≫の住人は全員揃っている。
葵はタマにじゃれ付かれながら、石華とミルキーに褒められている。
馴染んでくれているようで良かった。
「ナガマサさん、また運営からメッセージが……」
「え、ほんとだ」
ミルキーに言われて確認すると、確かにメッセージが届いている。
今日も12時ぴったりだ。
タイトルは、『新機能の紹介』と書かれている。
悪い内容じゃなさそうだ。
とりあえず読んでみるか。
少し前にモグラからもメッセージが届いているが、後回しだ。
特に緊急性がありそうなタイトルじゃないし。
『急にどうしたのじゃ?』
「あー、ちょっと天の声がね」
「モジャの声?」
「どんな声なんだ」
メッセージに反応した俺達を見て石華とが不思議そうにする。
石華とタマの相手をしつつ、メッセージを読んでいく。
主な内容は二つ。
まず、ギルドシステムの実装。
≪ギルド≫というのはゲームによって違うが、このゲームではプレイヤーの作るものを含めて、集団を表す。
冒険者ギルドや、商人ギルドなんかもギルドだが、今回は関係ない。
ここでいう≪ギルド≫とは、プレイヤーが集まった小集団を言う。
今まではそういうのは無かった。
気の合った人達が集まって一緒に行動することは出来たが、そういうシステムは存在しなかったわけだ。
だから、≪三日月≫のようにギルドを名乗っていても、それはただ集まっただけ。
特に何かが変わるとかはない。
『タマよ、わらわにもフルーツをくれぬか』
「はい!」
「うむ、礼を言うぞ。これは感謝の気持ちじゃ」
「わーい! ありがと!」
しかし、それが実装される。
特殊なイベントをクリアすることで手に入る≪ギルドフラッグ≫というアイテムを使う事で、ギルドが作成出来る。
ギルドは好きな名前とエンブレムを設定出来る。
そしてギルドに加入しているプレイヤーの名前を表示した時に、ギルド名とエンブレムが表示されるようになるらしい。
それだけじゃなく、ギルドには色々な機能もあるようだ。
メッセージにはその一部が紹介されている。
ギルドスキルなんかは便利そうだ。
最初は10人までしか所属出来ないが、レベルを上げることによって最大人数を増やすことも可能とある。
≪三日月≫の連中が大喜びしそうな内容だ。
「ナガマサさんはギルド作るんですか?」
「楽しそうだけど、俺はギルドマスターって柄じゃないし」
「そうですか?」
「うん。自分達が楽しむのに精いっぱいで、責任が伴うことは出来そうもないなぁ。出来れば、のんびりしてても怒られないような、ゆるーいギルドに入りたい」
「ふふ、確かにナガマサさんらしいですね」
素直に答えた。
何故か笑われてしまった。
いくつかのゲームをしてきたが、ギルドやクランといった集団はトラブルも起きやすい。
そんな集団を自分で作って纏められる人はすごいと思う。
俺には出来そうもない。
思いつくままに行動するタイプだからな。
引っ張っていくよりかは、引っ張って貰う方が得意だ。
だからギルドマスターはやりたくない。
第二の人生を楽しむ為の友達は欲しいから、どこかのギルドに参加するのはありだ。
実装されたら、ノルマとかが無いまったりギルドを探してみるか。
二つ目。
≪天気≫の実装。
実は、カスタムパートナーオンラインに、天候の変化は無かった。
最初からずっと、常に晴れていた。
それが雨が降るようになるそうだ。
ずっと晴れてるのも退屈かもしれないしな。
ちなみに、季節というのは無い。
常に雪が降っている雪のエリアとかはあるから、雪が好きな人はそこを拠点にしてるんだとか。
ちょっと話が逸れた。
≪天気≫の実装というのは何も雨だけじゃない。
曇りなんかもあるらしい。
そして天気に応じたクエストや、モンスターが発生するようにもなるらしい。
夜だけじゃなく天候まで関わって来るのか。
ちょっと楽しみだな。
これらは、数日後に迫った正式リリースの為の準備なのだろうか。
俺達にもきちんと連絡をしてくれるのは有難いな。
「ご馳走様。そろそろ頑張る……!」
「お、頑張ってな。疲れたらすぐに休むんだぞ」
「がんばれー!」
「がんばです!」
『わらわ達も応援しておるからの』
「キュル!」
メッセージを読み終わった葵が立ち上がる。
走り出した背中に、みんなの声が送られる。
腕組みして待っていたオレンジ細マッチョが迎撃の構えを取る。
葵は頑張り屋だなぁ。
預かる期間が終わった時の為に、何かプレゼントでも用意しておこうかな。
葵の奮闘を少し眺めた。
そういえば、モグラからもメッセージが届いていたな。
どれどれ。
そこには、捕まえたPKから重要な情報を聞き出せたと書いてあった。
PK達が集まる、拠点のような場所があるらしい。
その場所の情報だ。
情報を元に、明日仕掛けるそうだ。
一掃出来るといいんだけど。
「どうしたんですか?」
「モグラさんがPKのたまり場を見つけたんだって。明日にでも攻め込むみたいだよ」
「なるほど。危なくないといいんですけど」
「モグラさんなら大丈夫だよ」
「そうですね」
「ところで、ミルキーってフルーツマッスル達苦手じゃなかった? ウチの畑のフルーツはそうでもないように見えるんだけど」
「ここに成ってるのはそこまで筋肉モリモリじゃないですし、テカテカしてないですから」
「あー、確かに」
「葵ちゃんも凄くお世話になってますし」
「確かに」




