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194 お願いと快諾


「初心者さん?」

「そう。お察しの通り悪質なPKに対して打って出ようと思うんだけど、流石に連れて行くわけにもいかないし、かといって一人にするのも危ないから」


 少し遠い目をしながら、モグラは色々と教えてくれた。

 その初心者プレイヤーの名前は≪(あおい)≫。 

 俺の時のように偶然拾ったのかと思ったら、少し事情が違った。


 葵は、父親と一緒にこの世界へ来ていた。

 お金を稼いだりは父親が担当し、葵は戦闘には一切関わらずに過ごしていた。

 モグラはその父親と偶に狩りをしたりする仲で、何度かお酒を飲む内に葵のことも紹介されたんだとか。


 その父親が、少し前にPKに襲われた。

 モグラが駆け付けた時には僅かに遅く、愛用の剣が地に落ちる(ドロップする)瞬間だった。

 PKは捕まえたものの、父親はもういない。

 葵は一人で生きて行かないといけなくなった。


「勿論、ナガマサさんにお願いするのにはまだ理由があるんだよね」

「理由って、PKに狙われる理由ですか?」

「うん」


 PKが狙う理由でぱっと思いつくものは多くない。

 レアなアイテムか、お金。

 後は経験値を求めての相棒狙い。


 初心者ならお金もアイテムも少ないだろうし、相棒が目立つとか?

 それも良く分からないけど。


「葵の父親……≪椿つばき≫っていうんだけど、椿の使ってた武器が結構なレアものだったんだよね。見た目も明らかにレアで強いぞ、って感じの。その武器が原因でPKにも襲われたんだけど……」

「もしかして」

「そう。形見の武器だから使うって聞かなくて……まぁそれはいいんだけど、ストレージにも仕舞わないんだよ。文字通り、肌身離さず」

「なるほど」


 明らかに初心者なプレイヤーが、明らかにレアな武器を持っている。

 間違いなく目立つ。

 それが相棒だと思ってくれたらまだいい。

 だけど、相棒っぽいものがまた別に居たりすれば……。


「ああ、そりゃあカモネギだな」

「鴨がネギとガスコンロと鍋まで背負って出汁を噴射してますわ」


 マッスル☆タケダとゴロウが口を挟む。

 鴨がネギを背負ってくる、だっけ。

 ゴロウのは言い過ぎな気もするが、意味は分かる。

 PKにとって、これ以上ないくらい分かりやすくて親切な獲物に違いない。


「そういう訳で、一人にしておけないんだよ。だからナガマサさん、PKが特に活発化するだろうこの一週間でいいから、頼まれてくれないかな」

「うーん……」


 他でもないモグラの頼みだ。

 引き受けたい。

 好みでPK討伐には行きたくないんだし、それくらいの手助けはしたい。

 でも俺一人で即決するわけにもいかない。


 俺は今ミルキーと一緒に暮らしている。

 それは色々あってそうなった。

 だけど、発端としてはミルキーが見知らぬ人と狩りに行くのが怖い、というところから始まった。


 俺から固定パーティーを組もうと提案した。

 別に他の人と組んだらダメだって話じゃない。

 固定パーティーを組もうと提案した俺が、一方的にミルキーを放置するのは良くないと、俺は思う。

 一週間だけだとしてもそれは変わらない。


「ミルキー」

「いいですよ。どうせなら家に連れてきたらいいんじゃないですか?」

「え?」


 名前を呼んだ時点で返事が飛んできた。

 早すぎてびっくりした。

 固まってる場合じゃない。

 ちゃんと確認しておかないと。

 気のせいだったら困る。


「えっと、まだ何も言ってないんだけど……いいの?」

「預かりたいって顔に書いてありましたよ。モグラさんにはお世話になってるんですから、それくらい大丈夫です」

「ミルキー……ありがとう」

「どういたしまして」

「へいへいへい、あんまりいちゃついてると、にゃーこの毛皮をそのモジャモジャと絡ませてやんぞー?」

「やんぞー?」

「にゃあ」


 葵の育成と護衛を引き受けることになった。

 なし崩し的に始まった宴会の後、モグラから詳しい説明をメッセージで受け取った。

 

 葵を預かる間は俺の家で一緒に暮らす。

 育成とは言っても見守りつつ、なるべく手を出さない。

 そういう注文だ。

 特に反論はない。

 レベルだけ高くても困るかもしれないし、自分で戦える方が絶対に良い。


 出来れば、PKから獲物に見えないくらいには強くしてあげたい。


 モグラ達三人と別れた後は、お昼ご飯を食べた宿屋に泊まった。


 葵もストーレの街に滞在してるそうだから、どうせならとそうなった。

 勿論ミルキーとは別の部屋だ。


 俺にそこまでの度胸は無い。

 そもそも何の知識も無い。

 果たしてこの世界で学ぶ方法はあるんだろうか。


「モジャマサー、起きないと毟っちゃうぞー」

「起きた起きた、ストーップ」

「ブチブチブチィ!!」

「ぎゃああああああ!」

「おはようございます。……何やってるんですか?」

「準備運動?」

「モジャ」


 翌朝、タマとの朝の挨拶を見たミルキーは不思議そうな顔をしていた。

 ただの会話で、深い意味は無い。


 朝食と支度を済ませた俺達は、待ち合わせの場所へ向かった。

 ストーレの中央にある噴水広場だ。

 約束の時間の時間までまだ20分くらいある。

 が、モグラはもう待っていた。

 早いな。


「おはようございます。お待たせしちゃいましたか?」

「おはよー!」

「おはようございます」

「みんなおはー。いや、丁度今来たところだよ。ほら、挨拶して」

「……おはようございます」


 モグラに促されて、モグラの背後からおずおずと現れた。

 立派な剣を背負った、中学生くらいの女の子だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 目の前で親父が死んで形見を離せないのはわかるけど、理由を説明された上で対策しないのは本人の意志なんだろうし強くなればいいだけ。初心者だからと甘やかされるのに慣れてるか自殺志願者なのかは知らん…
2020/01/06 11:05 退会済み
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