190 運営からのお知らせ
『 お知らせ
カスタムパートナーオンライン運営チームです。
皆様にプレイ頂いている当ゲームですが、正式リリースの日が決定致しました。
丁度一週間後の正午より、抽選にて先行プレイ権を獲得した一般の方一万人が、ゲームへのログインが可能となります。
それに伴いまして、いくつかの修正点をお知らせします。
・アイコンの変更。
実験に参加いただいている皆様は名目上≪βテスターNPC≫、βテストに参加したプレイヤーのキャラデータをそのままNPC化したもの、として扱い公表します。
よって、アイコンの色を緑から青へ変更します。
PKしたことのある方は、紫へ変更されます。
また、アイコンが赤か紫以外のキャラクターを倒した場合は紫となります。
NPCのアイコンは白へ変更いたします。
一般プレイヤーの方のアイコンは緑、一般PKの方は赤となります。
・ゲーム内時間の変更
ゲーム内の時間の流れ方を現実の二倍の速度へ変更いたします。
・パーティー戦闘における経験値について
パーティー内での最高レベルと最低レベルの差が十以下の場合のみ、経験値が均等に配分出来るよう変更いたします。
十より大きいか、もしくは設定を≪均等≫にしない場合は与えたダメージの割合で分配されるよう変更いたします。
・PK行為について
現在、村や街等の居住エリアであってもPKが可能ですが、居住エリアにつきましてはPK行為が出来ないよう変更いたします。
一般プレイヤーがβテスターNPCをキルした場合、装備品を含めて所持しているアイテムを全てドロップするよう設定いたします。
・禁止ワードについて
それぞれの現実でのこと、実験についての話題等は禁則事項として設定しております。
一般プレイヤーが増えることで、なんとかして伝えようとする方が出ると予想されます。
従って、禁止されている内容を何度も伝えようとした場合、死亡するよう変更いたします。
最後になりましたが、HPが0になった場合の処理については変わらず、死亡しますので注意してください。
これからもカスタムパートナーオンラインをよろしくお願いします』
地味に量が多い。
俺達のスキルやステータスの修正かと思ったけど、そうじゃなかった。
ほとんどが仕様の変更に対するお知らせのようだ。
だけどいくつか書いてあることが酷い。
正式リリース?
βテスターNPC?
これってどういうことだ?
俺達が今いるこの世界は≪カスタムパートナーオンライン≫。
物凄く話題になってたけど、リリース直前で会社が倒産してお蔵入りになったゲームだ。
それをとある実験で使う。
参加すれば一生ゲームの中で暮らせると言われ、俺は参加を決めた。
もう身体なんて無い。
脳味噌だけで培養槽に漬けてコンピューターと直結してある筈だ。
それは俺だけじゃない。
ミルキーも、モグラも、マッスル☆タケダやゴロウも、皆がそうだ。
理由は違うかもしれないが、皆その状態でこの世界にいる。
どうやらそれを、普通のゲームとして改めて発売するらしい。
一週間後に一万人のプレイヤーがゲームとしてこの世界にやってくる。
実験のことは他言無用。
これは前からそうだ。
実験に参加してる同士でも実験に関することは口に出さない。
というか、出せない。
俺達の脳味噌が研究所の管理するコンピュータを経由して、この世界の身体は動く。
禁止されていることを喋ろうとしても言葉は出ない。
文字を書こうとしても、動かない。
それで俺達は、NPCとして扱われるらしい。
βテストに参加したキャラそのままとして。
なるほど、それなら確かに違和感なくこの世界に居られる。
どれだけ強くても、NPC相手なら新しく始めるプレイヤーもそこまで違和感を持たないだろう。
どうやら研究所は俺達に、NPCのフリをして欲しいようだ。
それくらいなら構わない。
俺の目的は楽しく安泰に生きることだ。
正式にリリースされようがプレイヤーが増えようが、問題ない。
だけど、周りのプレイヤーは違うようだ。
目に見えて慌てたり、混乱している。
酷いのになると、近くにいたプレイヤーと掴みあいの喧嘩を始めた。
ちょっと落ち着いた方が良いと思う。
俺の正面に座っているミルキーも、あまり顔色が良くない。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないですよ! 運営からのメッセージ読みましたか?」
「読んだよ」
「大変じゃないですか! なんとも思わないんですか?」
「プレイヤーが増えるなら村も賑やかになるかな、ってちょっと期待しちゃうね」
「そういうことじゃなくって……」
明らかに呆れられてしまった。
何故だ。
田舎だからか若い人がいなくて村の人達は大変そうだ。
だから若い人がいっぱい住み始めたら活気も出てみんな喜ぶと思うんだけど。
「ミルキーは何か心配なの?」
「心配ですよ! だって――――」
何かを言おうとしたミルキーが固まった。
動かない。
どうしたんだほんとに。
「――――言えないんですけど!」
「まぁまぁ、落ち着いて。何となく伝わったから」
「本当ですか?」
「うん」
多分、ミルキーは正式リリースについて言いたいんだと思う。
そんな話聞いてない、とか、実験じゃなかったのか、とかそういう感じのこと。
それで禁止ワードに引っかかったんだと思う。
俺も口に出せないから確認は出来ないけど。
「でも、それって問題ある? 俺達の生活は何も変わらないと思うよ」
「そう、なんでしょうか?」
「多分ね」
カスタムパートナーオンラインが普通にゲームとして発売されたとする。
一般プレイヤーが増える。
一万人だけど、先行って書いてあるから後続もいずれ来るはず。
俺達はNPCのフリをしないといけない。
だけどそれは禁止ワードを伝えようとしなければいいだけだ。
今までと同じ。
この世界でただ生きて行くだけ。
アイテム欲しさにPKが横行するとする。
それも変わらない。
今までだって、PKは普通にいた。
ある程度期間の差はあるし、始めたてのプレイヤーじゃあすぐにPKするのは難しいだろう。
だからβテスターNPCのPKの方がよっぽど怖い。
どれも、大して気にする要素じゃない。
今まで通りで大丈夫だ。
と、俺は思う。
「今まで通り楽しく暮らせばいいだけだよ」
「……そうですね、難しく考えないようにします」
「狩り、止める?」
ミルキーが納得して微笑んでくれた。
良かった。
暗い顔でいて欲しくない。
俺達の会話が終わるのを待っていたのか、タマが遠慮がちに聞いてきた。
気遣うような顔でミルキーを見つめている。
タマなりに何か察したようだ。
「ううん、ご飯を食べたら狩りに行く約束したんだもんね。狩りに行きましょう、いつも通り」
「だってさ。良かったな、タマ」
「やったー!」
「わっ、あまり騒ぐと迷惑に、わわっ」
ミルキーの顔に笑顔が戻る。
いつも通りだ。
タマもいつも通り元気いっぱいで、喜びを素直に全身で表している。
慌てるミルキーを余所に、まだ混乱したプレイヤーの多い店内を瞬間移動で駆け回り始めた。
やばい、そろそろ止めないと。