187 大根と烏賊
※≪マッスルドラゴラ≫の名前を≪大根≫へ変更しました。
「マッスル!」
「キュル?」
「マッスルマッスル!」
「キュルル」
「マッスル!」
「キュル!」
大根とおろし金が何やら会話をしている。
……この二人の名前を並べるとなんか意味深だな。
≪マッスルドラゴラ≫の鳴き声は独特だ。
会話が終わったのか、軽く手を上げて挨拶をした後地面へと潜って行った。
葉っぱの部分だけが地上に出ている。
「ぬふふふふー。えいっ」
「マッスルウウウウウウウウウゥゥウウウウウウウウウウウウ!!」
「あはははは! おもしろーい!」
マンドラゴラがモチーフなんだろうけど、身体の部分は割と自由に動くらしい。
普通に地上も歩いてたし。
「大根で遊ぶのはいいけど夜は駄目だぞ。安眠妨害になるからな」
「はーい」
この時間なら、多分村の住民はほとんど起きてる。
だけど夜だとすごく迷惑になりそうだからな。
遮蔽物が少ないし、音を発するものもほとんどないからよく通るんだ。
全裸で畑エリアを疾走する酔っ払い共の笑い声に関する苦情と、情報提供の依頼が回覧板で周って来たからな。
気を付けないといけない。
さて、次だ。
俺は更に一枚のコインを取り出す。
それは、フルーツアイランドに出現するMVPモンスター、≪始まりの筋肉大樹≫のものだ。
これは、≪大根≫と違ってテイムした状態ではない。
だから畑に登録して植えることは出来ない。
もししようと思うなら、フルーツアイランドに行ってテイムしてくれば多分植えられると思う。
こっちを見つけても攻撃してこないから、あいつもノンアクティブのはずだ。
次々にマッスル達を呼び出して集団で筋肉を見せつけてくるのは、きっと攻撃じゃない。
彼らにとっては芸術的な何かなんだと思う。
見る方がそう思うかは別として。
だからテイムも出来る筈。
今畑から生えてる≪ピンポン玉≫もMVPモンスターだからな。
ノンアクティブでさえいれば、種類問わずテイムは出来る仕様のようだ。
だけどテイムはしない。
じゃあどうするか。
装備にセットすることも考えた。
だけど島に行った目的は戦力強化の為じゃない。
畑を充実させる為だ。
畑の真ん中に生えているイカへ歩み寄る。
≪古代異界烏賊≫……正確には≪貝烏賊飯蛸≫のピンポン玉だ。
「ピンポン玉、お土産だぞ」
「プシッ」
コインを放ると、口のような部分に吸い込まれていった。
マンガとかでは口みたいに描かれたりするけど、違うんだっけ?
この世界だとマンガ寄りらしい。
そう、俺が考えたのは、ピンポン玉に吸収させることだった。
テイムするのも良いかと思ったけど、筋肉大樹はでかい。
多分周囲の畑が陰になってしまって苦情が殺到する。
あと、フルーツマッスル達が成ってもちょっと困る。
見た目がかなり筋肉質だからな。
ミルキーも嫌そうだったというのもある。
カラフルでテカテカしたマッスル達の見た目は、生理的に受け付けないとのことだった。
その代わり、ピンポン玉にコインをあげることは賛成していた。
筋肉大樹のコインを吸収したピンポン玉はどうなるかな。
おろし金みたいに進化するんだろうか?
おろし金があそこまで進化出来たのは、タマのコインの影響も大きい。
タマのコインを使うと剣も鎧も、進化し続けるみたいな説明がついてたし。
だけどMVPボスの金色のコインだし、一回くらいは進化しても良い筈。
進化するにしても筋肉に寄るか大樹に寄るか、どっちだろう。
出来れば大樹に寄って欲しい。
何かの罠で筋肉に寄った場合、どんな姿になるか全く想像出来ない。
姿は想像できないが、みんながパニックになるのはなんとなく想像できる。
流石の金剛も水に流せなくなるかもしれない。
フルーツアイランドに住むマッスル達の話をしたら、
『そんな恐ろしい者が住んでおるのか。魔境じゃのう。わらわは絶対に行きとうないぞ』
と怖がってたからな。
ピンポン玉の姿は、大きな三角錐形の貝に住む大きな烏賊だ。
二本の足だけを地上に出して、他の足は地面に埋まっている。
その大きな貝の部分が光に包まれた。
まるで卵が孵るように、光っている貝の先端にヒビが入った。
ヒビは大きくなり、ついには剥がれ始める。
その中から何かが迫り出して、更に大きくなっていく。
「木だー!」
「木だな」
光が収まると、貝の中ほどから木が生えていた。
良かった、大樹に寄った。
貝から生えた木は、それなりに枝を伸ばしている。
葉も生い茂っているが、実はなっていない。
しばらくしたら収穫出来るようになるかもしれないな。
楽しみだ。
畑仕事を終えて家へと帰る。
ミゼルと出汁巻は昨日から一般家庭にホームステイしていたそうで、井戸水を汲んでいた。
朝食の準備だそうだ。
精が出るなぁ。
帰宅した後はストレージから出した朝食を摂って、準備をする。
昨日ほぼ素通りしたライリーに会いに行かないといけない。
フルーツアイランドへ行くことが目的だったとは言っても、受けた依頼はきちんとこなしておきたい。
ミルキーも起きてきて支度も終わった。
俺、タマ、ミルキーでおろし金の背中に乗って港町イズハントへ向かう。
近くで降りて、歩いて移動する。
町へ着いた。
9時を回ったところだ。
相変わらず活気があって人が多い。
広場にはステージもあり、今は三人のプレイヤーが光る棒を持って激しく踊っていた。
動きが凄く早いのに、三人の動きはぴったり同じだ。
全くずれていない。
すごい。
でもステージの上じゃなくて手前でやってるのは、何故なんだろう。