180 筋肉の生態
あれから少し経った。
この島では少し歩くとマッスルに遭遇する。
向こうから攻撃はしてこないから、ポーズをとっている間に先制攻撃で倒してしまう。
放っておいてもHPにダメージはない。
だけど精神的にはダメージを負うから、放っておくのはよろしくない。
一度、倒さずに探索してみた。
その場合、ずっとついてきてポーズを取る。
ある程度距離が離れると全力ダッシュで追い越した後、またポーズをとりながらにじり寄ってくる。
それの繰り返しだ。
しかも倒さないとどんどん増える。
一度全滅させてもすぐに遭遇する。
このマップのモンスターの数は、他よりも多めなのかもしれない。
「これからどうします?」
「どうするモジャ? モジャ植えるモジャ?」
「とりあえずぐるっと周ってみよう。何か植えられるものがあるかもしれない。モジャは植えないよ」
「分かったモジャ」
「分かりました」
島に来た目的は、畑に植えられそうなものの入手だ。
出来れば普通の果物の樹がいい。
もしこのフルーツマッスルが畑に植えられるとしても、ミルキーに反対されそうだ。
中々強烈な見た目だからな。
あんなのが畑に埋まってたら、村の人達が安心して眠れなくなるかもしれない。
ライリーの依頼はおまけだ。
ある程度こなすつもりではいるけど。
探索を続ける。
木に成っている果物は飾りで、収穫は出来ないようだ。
それどころか、高い位置にある果物が落ちてきたと思ったら≪リンゴマッスル≫だったりした。
恐ろしいところだ。
遭遇したマッスル達のほとんどを、ミルキーが即座に狩っていた。
よほどさっきの地獄絵図は恐ろしかったようだ。
ポーズをとる前にしとめている。
数が多い時は同時にタマが、極稀におろし金が倒している。
皆が嬉々として――鬼気として? 狩ってるから俺はあまり出番がない。
余裕があるってことだから良いことだ。
筋肉・即・滅って感じじゃなければだけど。
「あれ、ここから先は別エリアみたいだね」
「本当ですね。どうしましょう」
島は結構広いようだ。
半分くらいで別のエリアになっているらしい。
もしかすると拾えるアイテムや、生息するモンスターも違うかもしれない。
「一旦こっち側を探索しちゃおう。色々違うかもしれないし」
「そうですね、分かりました」
奥のマップへは行かず、境界に沿って歩く。
途中うっすらと光る場所があった。
どうやら、何かが隠れているらしい。
≪看破の魔眼≫の効果だな。
近寄って見てみる。
草だ。
何かの植物だろうか?
畑に植えられるものだと良いな。
「どうしたんですか?」
「ほらここ、見てみて」
「あ、何かあるみたいですね」
「そうなんだよ。ちょっと抜いてみる」
引っ張ってみる。
葉っぱが千切れないようにゆっくりだ。
ずぼっと抜けたのは、大根のように太い根っこだった。
ただ太いだけじゃなく、鍛えた筋肉のようにムキムキだ。
腕を少し曲げて両の拳をへその辺りに持ってきて、力を入れているボディビルダーにも見える。
またこのパターンか。
「マッスルウウウウウウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」
「うわっ」
「耳が……!!」
40cm程の根っこは絶叫をあげた。
思わず手を放してしまった。
器用に地面に着地した根っこは、ものすごい早さで地面に潜って行った。
再び草の部分まで埋まった筋肉植物は静かになった。
一瞬だったけど、植物の頭上に≪マッスルドラゴラ≫と表示されていた。
どうやらモンスターだったらしい。
「タマインパクト!」
タマが埋まった状態のマッスルドラゴラに拳を叩きつけた。
一撃必殺。
HPが消し飛んだマッスルドラゴラは消滅した。
残されたのは、≪植物の根っこ≫と≪コイン:マッスルドラゴラ≫の二つ。
まさかのコイン。
ドロップ率がおかしい気がする。
もしかしてステータスのLuckが関係してたりするんだろうか。
「コインだー! モジャマサ、タマあれ植えたい!」
「あー、俺は良いけど……」
チラッとミルキーを見る。
微妙な顔だ。
あんな筋肉植物を植えたいと言われたら、あんな表情になってもおかしくない。
タマがミルキーの前に瞬間移動する。
「お願いミルキー! ちゃんとお世話するから!」
「うー……ちゃんと面倒見るんですよ」
「はーい! やったー! ありがとー!」
タマが小躍りして喜んでいる。
そんなにあれを畑に植えたかったのか。
ピンポン玉と喧嘩しないように気を付けておこう。
「ありがとね」
「いえ。そもそも、私が反対するようなことじゃないですし」
ミルキーにお礼を言うと、苦笑いを浮かべていた。
そうは言われてもミルキーの意思を無視するつもりはない。
俺達に合わせてくれたなら、それは有難いことだ。
お礼の言葉だけじゃ足りない。
また何かお礼を考えておこう。
「そんなことないよ。家族――うん、家族なんだから!!」
「ありがとうございます。どうしてそんなにテンション高いんですか?」
「家族っていいよね」
「え、はい、まぁ」
この世界に来る前は家族に良い思い出がほとんど無かった。
だけど今は違う。
タマもいるし、ミルキーもいる。
おろし金や金剛、ピンポン玉も俺の家族だ。
これから一杯思い出を作って行きたい。
「よし、まずは新しい家族を探そう!」
「おー!」
「お、おー」
「キュルル」
マッスルドラゴラをテイムするべく、足元を凝視しながら探索を再開した。




