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172 来訪と許可


「パシオンだー!」

「お兄様、どうしてここへ?」

「城へ戻ったらミゼルの姿が見当たらんではないか。そこで探し回っている内に出汁巻玉子とノーチェを捕まえたのだ。二人は全て吐いたぞ」


 勢いよく捲くし立てるパシオンの後ろには、出汁巻玉子とノーチェが立っていた。

 二人とも申し訳なさそうな顔をしている。 

 まさかこのタイミングでパシオンがここにくるとは、俺も思わなかった。

 間が悪かったな。


「ミゼル、こんな村で暮らすなど、どういうことだ!?」

「お兄様と同じく、民を知る為の、王女としての務めです」

「おお、我が麗しの妹よ。お前がそんなことをする必要はないのではないか?」


 パシオンは芝居がかった口調でミゼルに跪く。

 多分あれは本気の態度だ。

 決して芝居がけてるつもりはない筈だ。

 心配なのは分かるんだけど、俺の隣に立つミゼルの顔が段々真顔になっていることに気付いてほしい。


「立ち話もなんですから中へどうぞ」

「おお、すまぬな。邪魔しよう」

「すんませんっす」

「すみません……」


 ミルキーが三人を中へ招き入れた。

 パシオンは堂々と。

 続く二人は申し訳なさそうに。


 長方形のテーブルの片側にミゼル、俺、タマ、ミルキー。

 反対側にパシオン。

 出汁巻とノーチェはミゼルの後ろに立っている。

 席に着いたら話の続きだ。


「我が王族は常に前線へと立つ覚悟を持っていると、そう教わりました」

「そうだな」

「それは私も同じことです。私も、もう成人を迎えたのですよ。お兄様も祝ってくれたのではないですか?」

「うぐ、し、しかしだな……」


 毅然とした態度のミゼルに、パシオンが怯んだ。

 傍若無人がシスコンを着ているようなパシオンは妹に弱い。

 言い淀んだパシオンの視線が俺に向く。

 ばっちり目が合った。


「おお、ナガマサよ、貴様もいたのか。貴様からも何か言ってやってくれ」

「公務なら仕方ないと思いますが」

「――なっ――!?」


 思ったことをそのまま返すと、パシオンが心の底から驚いた顔をした。

 そんな口を開けたまま見ないで欲しい。


 変な事を言ったつもりはない。

 だけど、パシオンからすれば信じられないようだ。

 固まっていた表情が段々と歪んでいく。


「ナガマサァァアアァァァアァァ!! 貴様、この私を裏切ったな!?」

「特に味方をした覚えもないですけど」

「きさ、貴様! 貴様にはミゼル守護部隊ファンクラブのナンバーツーとしての自覚が無いのか!?」


 パシオンはどんどんヒートアップしていく。

 いつの間にか謎の組織の副官に抜擢されていた。

 勿論入会した覚えはない。

 そんな怪しい団体は、ミゼル親衛隊だけで十分だ。


「ぬおおおおおお――!! ……しかし、私は知っているぞナガマサ。貴様が友を見捨てない、優しい奴だということを。ミゼルを共に守ってくれると、私は信じている」


 どこまで燃え上がるのかと思ったら、一つの結論に達したらしく急激にクールダウンした。

 落差が激しすぎてついて行けない。


「お兄様」

「どうしたのだ、ミゼル?」

「結婚したい相手が出来たら連れて来いと、仰ってましたよね?」

「うむ、確かに言った。その時は私がそいつを、ミゼルに相応しいかどうか試してやろう」


 ミゼルの振った話題が唐突過ぎる。

 何で今その話に?

 パシオンは特に気にならなかったようで、悪い笑みを浮かべて答えている。


 ミゼルが俺の腕を取って引き寄せた。

 まずい、油断してた。

 引き戻そうとするが、戻らない。

 乙女の圧力には、Strが530万を越えるステータスでも逆らえない。


「私、ナガマサ様と結婚したいです」

「なっ――!?」


 ミゼルが悪戯っぽく笑う。

 パシオンは再びショックを受けて固まってしまった。

 俺達は無言で事の成り行きを見る。


 結婚したいというのは、前から聞いていた。

 ミゼルが俺の活躍を見て好きになったとか、そういう話ではない。


 おろし金は、タマのペットだ。

 元々はその辺りにいるオオカナヘビというモンスターだったが、いくつかの強力なコインを取り込んで凄く強くなっている。

 そのコインの内一枚が、王家の守護竜とされている竜と同格の竜で、姿やオーラが酷似しているらしい。


 それで魔王を倒したこともあって、現役の守護竜として崇められるところまでいってしまった。

 そのおろし金との繋がりを強くしたいというのが、王様の考えらしい。

 俺の強さも理由の一つっぽいけど、あくまでもおまけだろう。


 つまりは政略結婚だ。

 それでも結婚したいと言ってくれるのは、正直嬉しい。

 だけどパシオンに言うのは早くないか。

 するって決まってる訳じゃないのに。


「ナガマサと結婚だとぉ!? ナガマサ貴様、どういうつもりだ! 表へ出ろ!」

「俺はまだ結婚すると決めた訳では」

「ミゼルと結婚したくないと言うのか!? ナガマサ貴様どういうつもりだ! 表へ出ろ!」


 結婚するのかと怒られ、否定しようとしたらしたくないのかと怒られた。

 相変わらず理不尽だな。

 どうしろっていうんだ。


「そういうわけです。どうぞ、好きなだけ試してください」

「よかろう。ミゼルに相応しいかどうか、この私が試してくれるわ!」


 落ち着きかけていたパシオンが再び燃え上がり始めた。

 一体何を試されるんだ。


「どこの馬の骨とも知れぬ奴にミゼルはやれぬ。が、ナガマサは我が友だ。問題ない」

「はい」

「次に、ミゼルを守れる強さが無ければならぬ。が、ナガマサは強い。タマやおろし金がいれば、それこそ魔王ですら怖くはない」

「そうですわね」

「次に、ミゼルを養える甲斐性が無ければならぬ。一日でいくら稼げる?」

「ええっと、多分100万cくらい?」

「では今の所持金は?」

「2000万とちょっとです」

「問題ないな」


 その後もいくつか項目を挙げては自己解決していく。

 なんか褒められてるというより公開処刑されてる気分だ。

 恥ずかしいからやめて欲しい。

 ミゼルも笑ってないでもう止めよう?


「なんということだ、否定する要素がないではないか」

「お兄様、それでは」

「うむ、ナガマサとの結婚を認めよう。ただし! ナガマサよ、分かっているとは思うが、ミゼルを泣かせたら我が騎士団が全力を持って貴様を討伐に向かうぞ」

「パシオン様、オレらじゃ勝てないっすよ」

「勝てなくても討伐するのだ。例え死んでも、永遠に付き纏ってやるからな」


 ミゼルの結婚相手としてパシオンに認められた。

 パシオンに認められてもあまり嬉しくない。


『称号≪王子の心友≫の称号を獲得しました』


 あまり嬉しくない。



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