168 ペット無双と決着
本日五回目の更新です。
相手は格闘家のようで、ゴツいナックルを装備している。
モグラが言うには、格闘家には防御を無視したり防御が高いほどダメージが増すようなスキルもあるらしい。
石華は堅そうな見た目だし、それに合わせたんだろう。
上手くいくかどうかは別にして。
「はじめ!!」
始まったと同時に、石華の周りに十体の≪クリスタルナイト≫と、一体の≪ダイヤモンドナイト≫が出現した。
めら☆もっちゃへと群がって行く。
「なっ、くそっ!」
そしてそのままHPは1に。
ひどい数の暴力を見た。
クリスタルナイトを二体倒しただけでも、相手は頑張った方だと思う。
観客達もざわついている。
よしよし、もっと石華の頑張りを称えろ。
「だ、第四試合、如月対ピンポン玉! 双方、前へ!」
「出番ですよ。いっておいで」
「プシッ」
ミルキーが頭の上のピンポン玉をそっと持って地面へ下ろした。
声に応じるように空気を吐いて、中央へと這って行った。
「おいおいなんだれ、勝つ気あるのか?」
「むしろ今までが異常だったんだよ。エンジョイプレイヤーって噂だし、数合わせか捨石だろ」
「なるほどな。もう三勝してるから負けても問題ないし」
「ってことは後は大将同士の対決か」
「実質そうなるだろうな」
観客達はピンポン玉の姿を見てざわついている。
三日月のメンバーや伊達も、すっかり余裕の笑みを浮かべている。
それは対戦相手の如月も同じのようだ。
「如月、もう後が無いぞ!」
「分かってますよマスター。私に任せてください」
如月は魔法使い風の女性だった。
ミルキーと同じような、近接も出来る魔法使いタイプなんだろうか。
「彼女も有名だね。三日月の頭脳担当でサブリーダー。確か純粋な魔法型、対人戦でも負け無しの猛者だったと思うけど……その時点でもう勝敗が決まってるんだよね」
「そうですね」
『可哀そうにのう』
「皆様、どういうことですか?」
モグラの話を聞いて、俺達は勝利を確信した。
それどころか憐みにも似た空気が流れる。
戸惑った様子でミゼルが首を傾げた。
そうか、知らないんだな。ちょっと悪い事をしてしまった。
疎外感を感じさせてしまったかもしれない。
「えっとですね、あれを見てください」
「はい」
ピンポン玉の姿が消えた。
開始を宣言しようとしていた進行役が固まる。
数秒後、巨大なイカが広場に出現した。
≪輝きの大空洞≫にいた時と同じように、足は一際長い二本を残して地面の下へ。
周りには移動式の足が八本、直立するように地面から生えて蠢いている。
「あの状態になると、ピンポン玉に魔法は効かないんですよ」
「まぁ、すごいですわね」
ミゼルが笑顔を咲かせる。
そういえば、冒険やモンスターの話が好きだったな。
出汁巻を貸してもらったし、また今度みんなでゆっくり話をしようかな。
俺はそんなに引出しはないけど、モグラなんかは一杯持ってるだろう。
周りも突然現れた≪古代異界烏賊≫の姿に驚いている。
それでもパニックになったりしないのは、決闘のバトルフィールドの中にいることと、合図を待つようにじっとしているからだろう。
もしも危険な野生のモンスターなら、進行役と如月に襲い掛かるのに十分な時間が過ぎている。
「は、はじめ!!」
戦いは一方的だった。
辛うじて放たれた数発の魔法は全て、1ダメージにしかならない。
如月は群がった足の攻撃を受けて崩れ落ちた。
これで四勝。
決闘自体の決着はついた。
観客は困惑している。
三日月も、伊達も困惑している。
負けを認めるしかない状況なのに、なんでそんなに固まってるんだ。
仕方ない、話をするか。
中央を通って、三日月のメンバーが集まる場所へ真っ直ぐ向かう。
「ピンポン玉、お疲れ様」
「プシッ」
途中で、俺達の方へ戻ろうとしていたピンポン玉に声を掛けると、空気を吐く音を一つ鳴らしていった。
今はデフォルメされたタコの姿だ。
「おつかれー!」
『さすが先輩じゃのう』
「ピンポン玉、お疲れ様」
「すごいなー。まずMVPモンスターをテイムしてるのがすごい」
「たこたこちゅーたこたこたこ」
「にゃあ」
後ろからは、タマ達の声が聞こえる。
最後の意味がわからないのはゴロウだな。
「伊達さん」
「――なんだ?」
「まだやりますか?」
「くっ」
何故かは分からないが、続けることも出来る。
その場合も、既に決まった勝敗は変わらない。
七戦して勝利数が多い方という条件だからな。
意味があるのかは分からない。
そういうのが選べるということはきっと、俺には分からない意味があるんだろう。
ただ聞いてるだけなのに悔しそうに睨まなくても。
「どうしますか?」
「――もういい、俺達の負けだ」
もう一度声をかけると、伊達は負けを認めた。
思ったより素直だった。
メンバーは納得がいかないようだけど。
「マスター!?」
「終わってませんよ! あいつら、何か不正を!」
「うるせぇ! どう見ても負けてるだろうが! 恥をかかせるな!」
「っ――!」
「す、すみません」
「分かればいい……。降参だ、四敗した俺達三日月は、負けを認める」
伊達が宣言したと同時に、俺の頭上に今までよりも大きな『WINNER!!』の字が現れた。
金色だしくるくる回っている。
花火のようなものまで上がって、ファンファーレが鳴り響く。
派手だ。
多人数での勝負だとこうなるのか。
賭けていたものは自動で支払われるようで、所持金が20M増えていた。
これだと決闘が成立した時点で逃げられないな。
「俺達は楽しく暮らしたいだけなので、もうちょっかいを出してこないでくださいね」
「っ……」
話は終わった。
黙り込んでいる伊達に背中を向けて、ミルキー達の方へ足を踏み出した。
背後で、観客の中から誰かが飛び込んで来たようだ。
ちらっと見てみると、懐かしい顔がいた。
伊達と知り合いだったんだろうか。
まぁいいか。
もっと大事なことがある。
「みんな、お疲れ様。帰ってパーティーしようパーティー!」