165 当日と開始
本日二回目の更新です。
いよいよ決戦の朝となった。
12時にこの村の広場で行われる。
午前中はいつも通り過ごした。
朝は畑で雑晶を抜いて、昨日拾ったドロップアイテムの一部を砕いて畑に撒く。
今日は薬草が収穫出来た。
ハーブみたいに別のものになったりはしていなかったが、品質はAと高かった。
この薬草と宝石化したハーブでポーションを作ってみたい。
そういえば、生産系のスキルを取得するのを忘れていた。
自分で作らないでも、外注する方法もある。
そうなると、作ってくれそうな生産職の人を探す必要があるな。
マッスル☆タケダやモグラは顔が広そうだし、聞いてみるのもいいかもしれない。
畑から戻る時に道具屋を覗くと、そこではミゼルが店番をしていた。
今日はここのお手伝いだそうだ。
「本日の戦い、応援に行きますわ」
「ありがとうございます」
「負ける心配はしていませんので、救国の英雄であるナガマサ様方を馬鹿にするような者達に、目にもの見せてあげてくださいませ」
「頑張ります」
「タマ達がけちょんけちょんにするからだいじょーぶ!」
「ふふ、お願いしますね」
ミゼルがちょっと怖かった。
タマとは相変わらず仲が良さそうで良かったけど。
11時頃に少し早めの昼食を済ませた。
肉体はないから横腹が痛くなったり吐いたりはしないだろうけど、気分の問題だ。
今更緊張してきて、なんかお腹が痛いような気もするし。
いや、気のせいだ。
無いはずの内臓がストレスに反応することなんて、きっと無い筈。
畑と放牧スペースからは、コインを回収してある。
移動は出来なくもないが、設備に登録してあるとその場所以外では戦闘能力はなくなってしまう仕様のようだ。
宝石城や宝石化したハーブは、すぐに消えるようなことはないらしく安心した。
24時間経つと自動で元の状態に戻ると注意が出たから、それまでに戻せばOKだ。
テイムしたモンスターを連れて歩けるのは、一人一体。
おろし金はタマ、石華は俺、ピンポン玉はミルキーが担当している。
ピンポン玉は≪古代異界烏賊≫ではなく、デフォルメされたタコのマスコットみたいな≪貝烏賊飯蛸≫本来の姿だ。
ミルキーの頭の上で帽子のようになっている。
広場に着くと、それなりの人が集まっていた。
この村にはこんなにプレイヤーはいなかったと思うんだけど、全員≪三日月≫の関係者なのか?
それとも他の村やストーレの街から来た野次馬か?
「おっ、みんな揃ってるね。おはー」
「おはおはおっはー」
「にゃあ」
「モグラさん、ゴロウさん、おはようございます。どうしたんですか?」
「にゃーこさんー! よーしよしよしよし」
「にゃあー、ゴロゴロゴロゴロ」
「三日月の連中がこの村でレアな家を賭けて決闘するって話題になってたからね。多分ナガマサさん達のことだと思って応援に来たんだよ。そこにいる連中も見物に来たみたいだね」
「なるほど」
やはり決闘の話が広まっていたようだ。
俺達はここを離れてないから、多分三日月の人達が流したんだな。
自分達が負ける瞬間をしっかり見てもらえばいいさ。
その後は昭二が応援してくれたり、ミゼルと出汁巻が合流した。
ミゼルがあの儀式の時の鎧姿だったのはびっくりした。
相変わらずすごい出来だ。
ミゼルの容姿と相まって、野次馬の注目も凄い。
「ナガマサ様達の出陣ですから、正装で見守るのが当然ですわ」
とのことだった。
この決闘というか、俺達のことを大事に思ってくれてるってことだな。
なんだか嬉しい。
無様なことにならないように気合いを入れ直そう。
皆と話をしてる内に12時の十分前となった。
少し前に到着していた≪三日月≫の集団の中から、伊達正宗がこちらへやって来た。
みんなが怖い顔をしてて迫力が有る。
正直俺も恐いからちょっと抑えて欲しい。
「人数は集まったか?」
「ええ、ルールを変えてもらえたお陰でなんとか。自慢の仲間達ですよ」
「へえ」
伊達の視線が金剛、おろし金、ピンポン玉へ向く。
明らかに小ばかにしたような表情だ。
金剛は小柄な女性型だし、おろし金は少しいかつくなったオオカナヘビ。
ピンポン玉に至っては、キャラクターみたいなタコだからな。
侮るのは分かる。
戦いの時になるのが楽しみだ。
「言っておきますけど、とても強いですからね。本気じゃなかったなんて後から言わないでくださいよ」
「はっ、言うじゃねーか。そっちも吠え面かくんじゃねーぞ」
伊達は笑いながら戻って行った。
進行係は三日月から選出されている。
俺達は人手が無いからな。
審判はシステムに頼るから必要ないし、不正の心配もない。
本当にただの進行役だ。
オーダー表を渡しておく。
五分前になって、お互いの選出が全て読み上げられた。
俺達の方はタマ、出汁巻玉子、金剛、ピンポン玉、おろし金、ミルキー、俺となっている。
対する三日月は、竜馬、ハットリ、めら☆もっちゃ、如月、サッポロ、ポチョム筋、伊達正宗、だ。
伊達があえて一番手に来るかもしれない、ということでタマを配置。
後は、俺が強そうに思う順番で並べただけだ。
伊達は普通に最後だったから良かった。
どうせなら、俺が直接戦いたかったからな。
それまでに四勝しそうではあるけど。
名前だけ読み上げられても、どんな相手か俺にはさっぱり分からない。
野次馬は一々反応してるから有名なのかもしれないが。
モグラはそういうのには詳しくないだろうか。
一応聞いてみた。
「知ってるけど、ナガマサさん達に勝てると思えないから別になんとも思わないし、言うことも特にないんだよね」
とのことだった。
信頼してくれるのは嬉しいんだけど、トッププレイヤー集団なんだから油断は出来ない。
俺達はステータスやスキルがおかしいだけで、プレイヤーとしての実力は間違いなくあっちが上だと思う。
「時間になりましたので、これからギルド≪三日月≫と、ナガマサパーティーによる決闘を開始します! リーダーは前に出て、決闘の申請を行ってください!」
進行係の声が響く。
おおっと、行かないと。
広場の中央で伊達と向かい合う。
戦いを始めるわけではない。
システムを利用するから、前に行った決闘と同じように申請をする必要があるからだ。
送られてきた申請に目を通す。
七人選抜して、一対一の団体戦。
七戦して勝利数の多い方の勝ち。実質、四勝で勝ちだな。
相棒、テイムモンスターの参加有り。
降参有り。
勝利条件は相手のHPを1にするか、降参させること。
ペインフィルターは100%。
つまり痛みは無し。
三日月が勝った場合は、伊達に俺の所有する家と、システム上それに付随するものの売却。
買い取り金額は10M。ちょっと減ってるな。
俺達が勝った場合は20Mを受け取る。
うん、多分不備は無い。
しっかりと確認して許可を押す。
これで決闘が正式に成立した。
「あーあ、もう逃げられねぇぞ」
「そうですね」
あんた達がな。
「それでは第一試合目、竜馬対タマ! 双方、前へ!」




