17 トラブル回避と初パーティー狩り
†紅の牙†はミルキー相手に喧嘩腰で絡んでいる。
大きな声を上げて、明らかに脅かしている様子だ。
放ってはおけない。
「なぁおい、文句あんのか!?」
「う……」
「生意気そうな眼しやがって……なんだよ?」
助けると決めたものの、俺は走れない。
だからとりあえず歩いて二人に近寄った。
†紅の牙†に突撃していきそうなタマは抱えて抑え込んでいる。
頼むから少し大人しくしててくれ。
「まぁまぁまぁ、ちょっと落ち着きましょうよ」
怪訝そうな顔をしている†紅の牙†を無視して二人の間に割って入る。
ミルキーを背中に隠すように男と対面する。
そんなに若くなさそうだけど一体何歳なんだろうか。
「さっきのやつか。オレはただモンスターを狩ってただけだぞ。その女が妙な言いがかりつけてきただけだ」
「言いがかりってそれはあなたが」
咄嗟に言い返そうとするミルキーに振り返って、静かにするようジェスチャーをする。
気持ちは分かるけど今それを言っても火に油だ。
分かってくれたみたいで口を噤んでくれた。
この世界に来て……前の世界も合わせて、女の子の顔をこんなに近くで見たのは家族以外では初めてだ。
つい眺めてしまう。
ミルキーは肩よりも更に長い黒髪が似合う、真面目そうな女の子だ。
少しツリ目がちだけど、怖い印象はない。
あっと、見つめてる場合じゃない。
あいつをなんとかしないと。
「まぁこのくらいで許してあげましょうよ。そんな強そうな武器を見せられたら恐がっちゃいますよ」
「ふん、オレの相棒は最強だからな。今日はこのくらいで許してやるよ。これに懲りたら妙な言いがかりつけてくるんじゃないぞ!」
それだけ言い残して男は別の獲物を探して走り去っていった。
このゲームにスタミナとかはないらしく、一応走りたいだけ走れるらしい。
脳が疲れるから、限りがないわけではないとは思うんだけど。
「助けてもらってありがとうございました。でもあれはあの人が……」
ミルキーはお礼を言ってくれるくらいには冷静だった。
それでもやっぱり納得がいかなかったらしい。
気持ちは分かる。
「俺もさっきやられました。ミルキーさんは間違ってないですよ」
「ほんと有り得ないですよね」
「マナーなんて言ってられない部分があるのは分かるんですけどね」
そう、ここはもはやゲームの世界ではない。
理由は色々だろうが、肉体を捨てた俺達にとっては第二の人生。
生きるってことは必死にならないといけないことも多い。
それこそマナーやルールなんてものは、余裕があるからこそ成立するものだ。
この世界で『他の人が狙ってるモンスターを狩る』ことが禁止されてなければ文句を言ったってどうしようもない。
それは事実だ。
だからといって自分がそうするかはまた別の話なんだけど。
「私もついカッとなってしまって……本当にありがとうございました」
「いえいえ。ああいうのは関わらないのが一番ですからね。相棒も強そうでしたし」
「すごく怖かったです……」
恐怖がまだ残ってるのか顔色が悪い。
このまま放り出すのもなんかあれだな。
手元が狂って死んだりしたら大変だし。ちょっと様子を見たい。
「見えてるだろうけど、俺はナガマサっていいます。昨日始めたばかりの初心者なんですが良かったら一緒に狩りをしませんか?」
「良いんですか?」
「正直一人だと心細いので」
本音だ。
だけどきっと目の前の彼女も一緒だろう。
さっきみたいな絡まれ方をすれば尚更だ。
「私も、一人で心細かったんです。宜しくお願いします」
こうして第二の人生で初のパーティーを組むことになった。
パーティーを組んでいると経験値が平等に分配されるらしい。
だから昨日はモグラとはパーティーを組んでいなかった。
スキルの補正がかかるのは分配された後の経験値のみで、パーティーメンバーに俺のスキルの倍率はかからないらしい。
残念だ。
「ナガマサさんの相棒ってその子なんですか?」
「そうですよ。何かよく分かってないんですけど。名前はタマです」
ミルキーの視線はタマに釘付けだ。
紹介すると、ゆっくり明滅しながらミルキーの方へふわふわ飛んでいく。
「よろしくね。うわぁ、ボールみたい」
「ミルキーさんの相棒ってなんなんですか?」
「私のはこれです」
ミルキーが差し出したのは、手鏡だった。
その大きさは30cmあるかないか?
素材も鏡部分以外はプラスチックっぽいし武器にはなりそうにない。
さっきの†紅の牙†みたいに武器そのものが相棒の人ってどのくらいいるんだろうね。
「じゃあ狩りに行きましょうか」
「はい!」
相変わらず誰も狙っていないモンスターの姿はほとんどない。
仕方ないから誰も狙わないオオカナヘビを中心に狩ることになる。
探すのに苦労するものの、狩り自体は順調だ。
マッスル☆タケダにもらった武器は中々の使い心地で、攻撃力も昨日使ってた『初心者用短剣』より強い。
ステータスもかなりがっつり上がってるおかげでさくさく倒せる。
「そのトカゲって結構強くないですか?」
「武器も新しいのにしたし、レベルもそこそこあるからだと思います」
「なるほどー」
ミルキーを驚かせるくらいにはさくさくだったようだ。
そんなミルキー自身も一人の時にオオカナヘビに攻撃してみたら案外強く、攻撃も当たらないし反撃は痛いしで、近くのプレイヤーに手伝ってもらってなんとか倒したことがあるそうだ。
今は隙を見て攻撃している。
パーティーを組んでるから攻撃しなくても経験値はきっちり半分もらえるけど、何もしないのは嫌なんだそうだ。
さっきので分かってたけどミルキーさんは真面目な感じだ。
好感が持てる。
そしてレベルアップ。基本と職業レベル、両方だ。
女神のエフェクトが同時に発射された花火を握りつぶしていた。
怖いんだけど。
「おめです」
「ありがとう。ミルキーさんもおめでとう」
「ありです!」
ミルキーさんも同時にレベルアップした。
彼女はこれで2回目かな。
ちなみに、レベルアップ時のエフェクトは他のプレイヤーにも見えるようだ。
「じゃあ一旦休憩しましょう」
「はい」
その場に腰を下す。
レベルアップ時の操作は座ってのんびりやるのがいい。
特に急いでないしね。
「ん?」
思わず疑問の声を口に出してしまった。
これはなんだろう。