158 畑の大海魔
本日二回目の更新です。
畑に植えたハーブが宝石化していた。
赤と緑が十株ずつ、合計二十株全部だ。
一緒に植えた薬草に変化は見られていない。
何故なのか。
普通の畑ではこんなことは起きない筈だ。
村でも普通のハーブはあっても、≪ルビーハーブ≫が植えられている畑は見当たらない。
確定ではないが、思い当たる節が一つしか無い。
それは、土に混ぜた粉末だ。
それは、≪輝きの大空洞≫や≪無明の城≫で得た宝石系のドロップ品を砕いて作った。
貝殻とかを畑に混ぜてたって何かのテレビで見た覚えがあったから、なんとなく入れてみたものだ。
今も、タマとおろし金によって畑に撒かれている。
「ミルキー、これってやっぱり粉のせいだと思う?」
「どうなんでしょう。私は、ピンポン玉ちゃんの影響もあるんじゃないかと思うんですが」
「あー、それもあるかもしれない」
確かに、他の畑に無い要素はもう一つあった。
≪貝烏賊飯蛸≫のピンポン玉が呼び出したと思われる、≪古代異界烏賊≫の存在だ。
他の畑にはMVPボスは植わっていない。
そんな畑が常識的な村があったら怖すぎる。
「とりあえず、詳しそうな方に聞いてみたらいいと思います」
「詳しそうな人?」
「石華さんですよ。もし知らなくても何か分かるかもしれません」
「なるほど」
石華は≪輝きの洞窟≫に住んでいたが、色々な事情があって俺がテイムしたモンスターでありNPCだ。
今は俺の家の放牧スペースに城を建造して暮らしている。
≪古代異界烏賊≫とは因縁もあってか、それに関する逸話にも詳しい。
昨日の宴会の時に色々語っていたし。
粉末の方に原因があった場合も、俺達よりも遙かに得られる情報は多い筈だ。
名案だ。
早速連れて来よう。
「終わったよー!」
「キュルル」
「おっ、二人ともお疲れ様。お手伝いしてくれてえらいぞー」
「わーい!」
「キュルッ!」
タマとおろし金が戻ってきた。
結構な量を渡したと思ったが、もう撒き終わったみたいだな。
口の中で宝石を纏めて粉砕してくれるのは助かる。
「そうだ。タマ、石華を連れてきてくれないか?」
「おっけー! 行くよおろし金!」
「キュルル!」
丁度良いタイミングだったからタマに石華を連れてくることをお願いした。
タマは颯爽とおろし金に跨ると、そのまま駆け出して行った。
数分もしない内にタマが戻ってきた。
その頭上には何かが掲げられている。
それはタマに持ち上げられたおろし金だ。
更にその背中には、石華がちょこんと腰掛けている。
まるで自転車の後部分に座るお嬢様のように、横を向く、あの座り方だ。
なんとなく似合っている。
タマは俺達の前に来るとおろし金を地面に下ろした。
石華がおろし金の背中から立ち上がる。
「ただいまー!」
「キュルル!」
『感謝するぞ、おろし金。してご主人様よ、一体どうしたのじゃ?』
「よく来てくれたな。実は――」
石華に来てもらった訳を説明する。
畑に植えていたハーブの宝石化と、思い当たる理由について。
『なるほどのう。おそらくご主人様達の予想は間違っておらぬ。こうなった理由は、両方じゃな』
「両方?」
『うむ』
石華が言うには、≪古代異界烏賊≫は住む場所に結晶を生やす性質があるそうだ。
ただそれは、常に起きるわけではない。
主食である宝石の類を食べた時に、吸収されなかった部分が魔力と合わさって周囲に放出される。
それが溜まって床や壁から結晶が生えてくる。
今回は土に含まれる宝石分を摂取。
消化して周囲に放出。
その放出されたものをハーブが吸収して、変異したんじゃないかということだ。
実際、畑には小さな結晶がいくつも顔を出している。
放っておけば≪輝きの大空洞≫のように生え放題になるから、小まめに抜くことをおすすめされた。
今の状態だと魔力の大部分がハーブに吸われている。
土から生えた結晶は残りカスみたいなもので、石ころ程度の価値しかないそうだ。
雑草か。
「さすが、詳しいですね」
『彼奴とは長い間戦い続けていたからのう。詳しくもなる』
「ありがとう、助かったよ」
『もっと褒めるがよいぞ』
「よしよし、えらいぞ石華――あっ、ごめん」
『ふむ、悪くないのじゃ』
石華のお陰で色々分かった。
褒めろと言われて、ついタマやおろし金にする感じで撫でてしまった。
親しみやすいというか、なんだか年下の子供みたいな感じがするんだよな。
慌てて手を放すが、どうやら嫌な風には思われなかったようだ。
頭というか髪の部分もキラキラしてて、手触りも固かった。
ダイヤモンドを削り出して作ったような感じなのかな。
とりあえず皆で畑に生える結晶を抜いた。
アイテム名は雑草ならぬ≪雑晶≫。
品質も低いしレア度も低い、まさに石ころだった。
でも結構硬そうだから、投擲武器として使えるかもしれないな。
マッスル☆タケダやゴロウに頼んで加工してもらったら何かになるかもだし。
念の為取っておこう。
なんとなく勿体なく感じてしまってつい捨てられないのは、きっと俺の悪い癖だ。
「モジャ畑に悪さする奴は引っこ抜くぞー!」
「キュルル!」
タマとおろし金が張り切ってくれたお陰で作業はすぐに終わった。
さて、帰るか。