15 ソロ狩り開始とトラブルの予感
「服以外何も装備してないとこを見るに転職したてか?」
「はい」
「PKに合いそうだったところを助けて、そのまま転職まで付き添ってたんだよ」
マッスル☆タケダの質問に素直に答えると、横からモグラが補足した。
その節はほんとにお世話になりました。
「なるほどな。料金はモグラからの転職祝いってことにしておくから気にしなくていいぜ」
「え、いいんですか?」
「勿論だ。な?」
「はいはい、分かってますよ。元々そのつもりだって」
何やら無料にしてくれるらしい。
厳密に言うと、モグラが払ってくれるみたいだけど。
これは有難い。
「ありがとうございます」
「気にしなくていいよ。装備がないと大変だしね」
「それと、片手剣も俺が作った失敗作で良ければつけるぞ。この中から選ぶといい」
お礼を言うとモグラが笑顔で応えてくれる。
なんて優しい人なんだ。
更にタケダもサービスしてくれるらしい。
ミーガンの件もあったしもっと殺伐としているのかと思ったけど、優しい人も多いみたいだ。
「どれがいいかな」
タケダが並べてくれたのは三本の片手剣。どれも似たような性能だけど若干重量や長さ、バランスが違うらしい。
「持ってみてもいいですか?」
「勿論だ。遠慮なく確かめてくれ」
許可ももらえたし手に取ってみる。
剣なんて振ったこともないし、持ってみても違いはよく分からない。
ただなんとなくしっくり来た一本に決めよう。
≪ショートソード≫
武器/片手剣 レア度:E 品質:E-
Atk:+5 Matk:0
金属で出来たやや短めの片手剣。
扱いやすく広く普及している。
マッスル☆タケダの銘が入っている。
「じゃあこれにします」
「分かった。こいつはそのまま持っていくといい」
「ありがとうございます」
初心者用短剣は攻撃力が3だった気がする。
それに比べて攻撃力も高いし長さもあるから戦いやすくなるだろう。
早速装備して腰に差した。
「それで他には何か作るか?」
オオカナヘビの皮は鎧を作っても余るそうで、他に何か作れるらしい。
けどどんな装備があるかとか、そもそも何が必要なのかよく分かってない。
流石に鎧がないととは思ったけど、それが俺の限界だった。
「必要な装備って他に何かありますか?」
困った時は聞く。
モグラに。
お世話になりっぱなしだけどそれはもう今更だ。
後でまとめて返せばいいんだ。
「そうだなぁ、鎧があるなら後は好みだけどグローブとかいいんじゃないかな」
なるほど、グローブ。
今の俺は素手だから、いいかもしれない。
「じゃあグローブでお願いします」
「グローブだな、分かった」
タケダに向き直ると、ニッと笑って了解してくれた。
ナイスガイって感じだな。
ボディビルの大会に出てそうな笑顔だ。
「1日あれば出来ると思うから、明日の夕方にでもまた来てくれ。多分ここにいるはずだ」
「分かりました。お願いします」
「タケダさんありがとね」
「おう、またな」
頭を下げてモグラと二人で立ち去る。
装備の発注も終わったし出来上がりが楽しみだ。
「それじゃあオレもこの辺りで帰ろうかな。お互い頑張ろうね」
「今日はありがとうございました。またお礼させてください」
「はは、楽しみにしてるよ」
モグラからフレンド登録の申請が届いた。
許可すると、フレンドリストにモグラの名前が。
このリストから選択すればメッセージを送ったり出来るらしい。
「それじゃおつー」
「はい、お疲れ様です」
さて、これからどうしようか。
時間は21時を過ぎたところ。
今日は色々あって疲れたし、もう宿に帰って寝よう。
殺されそうになったことや狩りもそうだけど、何かしながら常に封印スキルの経験値稼ぎをしてたのが地味にきた。
明日からは少し控えめにやろう。
次の日。
宿屋のベッドから身体を起こす。
隣で布団の中に納まっているタマを揺するとふわふわと飛び上がった。
まるで寝起きだ。寝てたのか?
今一正体が分からない。
生き物っぽくないしなぁ。だけど感情はあるように思える。謎だ。
装備品を身に着けて準備完了。
装備の付け外しはウインドウを操作してもいいし、実際に脱いだり着たりしてもいい。
せっかくなので俺は自分の手で着ている。
もはやこの動作だけでも楽しい。
多分そのうち飽きる。
1階に下りて宿のおばちゃんに挨拶をする。
食堂スペースに行けばすぐに朝食が用意されて来た。
メニューはパンとスープ。
うん、美味しい。
今日はどうしようか。
防具はないが武器はある。
昨日の感じからするとオオカナヘビでもそこまで危なくないような気もする。
とりあえずすぐ隣のエリアで狩りをしてみようか。
危険そうなら街を散策するのも良い。よし、そうしよう。
門を守る兵士に軽く会釈して通り抜ける。
ゲームだからなのか、門を通るのに検閲とかはないらしい。
視界に広がるのは草原。ちらほらモンスターやプレイヤーの姿が見える。
さて、フィールドに出てきた訳だけどどうしよう。
手当たり次第に目についたモンスターを狩るか。
オオカナヘビがいっぱい狩れると嬉しいんだけど。
少し歩いたところに獲物を発見した。
ゲームでは有名なモンスター、スライム。
それを可愛くデフォルメしたような感じのやつだ。
半透明でピンク色のゼリーみたいな感じ。
円らな瞳と猫みたいな口がある。
名前はプルン。
このゲームのマスコット的なやつでもあるらしい。
昨日も後半の方に何匹か狩ったけど大して強くなかったはず。
新しい武器の試し切りはこいつに決定だ。
剣の抜いてにじり寄る。
プルンはぽよんぽよん跳ねている。呑気なものだ。
「うおおおおおおおおおお!!」
剣を振り上げたところで大きな声がした。
何事!?
手を止めて辺りを見ると、誰かがすごい勢いで走ってくる。
緑のマーカーがあるからプレイヤーみたいだ。
名前は『†紅の牙†』とある。
そのプレイヤーは俺がロックオンしていたプルンの前まで来たかと思うとそのまま蹴っ飛ばした。
え?
そしてそのまま地面を転がるプルンに追いついて、手に持った剣を叩きつけた。
プルンのHPは0になり、アイテムを残して消えていった。
え、なに? 横取り?
「よっしゃセーフ!」
セーフじゃないよ。
なんなんだ一体。