141 ハイキングとトレイン
隠れている草や擬態しているモンスターが、ぼんやり光って見えるようになった。
スキルリストを確認してみる。
誰かが≪看破の魔眼≫というスキルを取得したようだ。
多分ミルキーだな。
同じことを考えたようだ。
二時間が経過。
俺達は集合場所で合流した。
成果はそこそこ、といったところか。
「植物系のアイテムをドロップするとしても、植えられるものじゃないのがほとんどだったな」
「アイテムだけで見ると大量なんですけどね」
乱獲してきたアイテムの中には、薬草やハーブがいっぱいある。
村では売ってなかった草もだ。
それは普通の素材としてのアイテムで、畑に植えられるようなものはほとんど無かった。
ゼロではなかっただけ上出来か。
素材は、アイテムを作る人達には売れるだろうし。
一旦木々に囲まれたまま休憩にした。
お昼のメニューは屋台で買い込んでおいた串焼き肉。
実にワイルド。
冒険者っぽくて良い。
現実世界ではしなかった、出来なかったことをどんどんやっていこう。
景色や雰囲気も相まって、非常に美味しかった。
山に登って食事をとる。
これぞまさしくハイキング。
「しゅっぱーつ!」
さあ、タマの号令で移動開始だ。
ここからは自分達の足で移動する。
目的地まではそんなに遠くないからな。
そのままダンジョン≪輝きの大空洞≫へ突入する。
一層はほぼ最短距離で移動だ。
向かってくるモンスターは蹴散らしてただ先へ。
好きなことをする為のお金を稼ぎに来たんだ。
≪銀幽霊≫くらいしか金銭的に稼げそうなモンスターがいないから、ほとんど用は無い。
ここでの狩りはまた今度。
あっという間に二層に到着した。
ここは身体が宝石で出来た≪ジュエルマン≫というモンスターが多く配置されている。
稼ぎポイントその1だ。
「タマとミルキーはここでひたすら狩って欲しいんだけど、いい?」
「宝石狩りだー!!」
「大丈夫です。しっかり稼ぎますよ!」
「俺は三層で足をひたすら狩るから、一時間したら二層の三層手前で落ち合おう」
「あいあい!」
「了解です!」
分担を決めて俺達はそれぞれ動き出す。
タマとミルキーは二層で宝石狩り。
俺は三層でゲソ狩り。
チーム分けに大きな理由はない。
ただ、一人で≪古代異界烏賊≫と戦ってみたかっただけだ。
「よーし、やるぞ」
まずはひたすら足を狩る。
本体は同じような場所にいるから後回し。
軽く準備運動が必要だ。
実はソロでの戦闘ってかなり久しぶりだからな。
初めの頃はタマも弱いしソロみたいな状態だったが、今ではほぼタマが倒す。
お陰で鈍ってるかもしれないから慎重に行こう。
≪気功法≫と≪速度上昇≫、≪筋力上昇≫を自分にかける。
剣と盾を構えて準備完了だ。
「よっと」
まずは近くにいた足の目の前に移動する。
≪五体解放≫の効果で、簡単に言えば瞬間移動が出来る。
足が反応して動き出すよりも早く剣を振った。
特に抵抗を感じることもなく真っ二つになって消えていった。
……こんなに弱かったっけ。
次だ次。
少し歩いた先に足が二匹、ジュエルマン(白)と(無)が何匹かずつ。
足は魔法が効かないからな。
普通に物理でいくか。
今度は瞬間移動をせずに駆け寄っていく。
モンスター達も一斉にこっちへ向かってくる。
足は縦に埋まったままとは思えないスピードだが、ジュエルマンはたどたどしい足取りのせいで遅い。
まず左手に持っていた盾を向かってくるゲソの後方へ投げる。
高速で盾をぶつけられたジュエルマンは爆散した。派手だな。
盾を遠隔操作してそのまま次のジュエルマンへ叩きつける。
そしてまた次のジュエルマンへ。
操作をしながら俺自身は足を思い切り蹴飛ばした。
衝撃はそれなりにある。
ブーツの出来がいいのか、それらは全部手応え――足応えとして伝わってくる。
前に居たゲソはそれだけで撃破。
二匹目も近づいて拳を叩き込んだらドロップアイテムへ早変わりした。
うん、問題なく戦えてるな。
アイテムを拾ってどんどん行こう。
倒した位置がばらけてると拾うのが少し面倒だな。
何か便利なスキルがないかな。
あった。
残念ながらユニークスキルじゃない。
≪異端者≫の職業スキルで≪強欲≫というものがあった。
使うと自分の半径2mの範囲内に落ちている、所有権が自分にあるアイテム全てをストレージに放り込むというスキルだった。
まとめて倒したら数が多くても手間にならない。
これは便利な気がする。
5ポイント叩いて取得したぞ。
勿論≪我らが道を行く≫で10倍された≪五体解放≫の効果で100倍される。
半径200mのアイテムは念じてスキルを発動させるだけで拾える。
便利ってレベルじゃない。
どんどん行こう。
足の本体である≪古代異界烏賊≫がいる場所以外をざっと周った。
他のプレイヤーの姿は確認できなかった。
他に比べて急に難易度が高くなってる気がするし、通うプレイヤーはまだいないようだ。
これなら纏めて狩っても迷惑にならないか。
狩りのやり方を変えてみよう。
足を見かけてもすぐには倒さない。
引き離さないように歩き回る。
ある程度の数が集まったら、≪六道踏破≫を乗せた≪滅魔刃竜剣≫でまとめて薙ぎ払う。
ドロップアイテムはすぐさま≪強欲≫を発動してストレージに放り込む。
すぐさま次の獲物を求めて走り出す。
完璧だ。
これなら効率はすごく良いだろう。
この狩り方は通称≪トレイン狩り≫と呼ばれている。
モンスターを連れ歩く様子を電車に例えたんだな。
このトレインは、マナー的には良くない。
モンスターのタゲを集めて練り歩くことからモンスターの独占や、MPKに繋がるからだ。
だけど他に人がいなければ迷惑がかかることもない。
狩場に他のプレイヤーがいるなら勿論しないぞ。
念の為、ミルキーにプレイヤーを見かけたら教えてもらうようにメッセージを送っておいた。
三層の入ってすぐの場所にもおろし金を配置して、他の人が来たらすぐに教えてもらうようにお願いしてある。
これなら多少トレインしたって大丈夫な筈だ。
さぁどんどん狩ろう。




