128 再開と満身創痍
モグラとゴロウは力尽きていたから、一旦休憩をとった。
たっぷり30分休んだし、狩りの再開だ。
「それじゃあ二人とも、良いですか?」
「おっけー、大丈夫だよ」
「あのゲソまじぶっ殺す!」
「ゴロウさん、荒れてますね」
「モグラさんよりも多めに殴られてたからなぁ」
「そうさせたのはナガマサさんじゃなかったっけ」
モグラはいつも通りに、ゴロウはミルキーが心配するくらい殺気を漲らせている。
元気そうだし、身体にも異常はなさそうだけどな。
「ゴロウさんの場合念入りに測っておかないと怖いので」
「まぁね。もう三回も死にかけてるし」
ゴロウはさっきのを合わせて、死ぬかと思ったと言ったのは今日三回目だ。
俺達との待ち合わせ場所に向かう途中でPKに襲われて一回。
おろし金に乗って飛行中に、タマに手を振ろうとして一回。
ついさっきの≪ディスペル≫の後の、≪古代異界烏賊の足≫の攻撃を直撃しそうになって一回だ。
本人は前から間が悪いと語ってたらしいが、そんなレベルじゃない気がする。
俺達が気を付けてれば防げるようなことばかりではあるし、それなら計測に念を入れておこうと思っただけだ。
「じゃあ手筈通りで」
「しゅっぱーつ!」
基本的に狩り方は変わらない。
適当に戦って、モグラとゴロウが相手をしてるモンスターには極力手を出さない。
足が来た時は俺が二人の戦いを注意して見ておく。
他のモンスターはミルキーとタマにお任せだ。
≪ディスペル≫の使用頻度はそこまで高くないようだが、沈黙の状態異常を常にかけられてスキルが使えない状態では、どうしても戦闘時間は伸びる。
ディスペルを二度か三度撃たれることもあった。
しかし、俺が見張っているからすぐに紐を繋ぎ直せる。
そして特訓のお陰で支援が切れても二人とも動じない。
支援が掛け直されるまではきっちり回避と防御に専念することで、ダメージも低く抑えられている。
支援さえ掛け直せば、足ももはや二人の敵ではない。
どうしても火力が不足気味だから、俺達よりも時間は掛かっちゃうけどな。
それでもしっかり狩れているということで、二人は楽しそうだ。
足の落とす素材にはしゃいだり、宝石がドロップした時はすごかった。
そういえば元々宝石狩りに来てたんだったっけ。
改造した盾も試してみた。
まず固定具を外して普通に持って使う。
うん、盾だ。
手を放してみる。
落ちずにその場に浮いている。
盾の動きを頭の中で考えてみると、盾はその通りに動いた。
かなり早くしてもその通りに動く。
そのままモグラへの攻撃を防いだりしてみたが、問題なく防げた。
自動も試したが、これもしっかり機能した。
モグラを守れ、とか俺を守れ、でもその相手の周囲を漂って、攻撃に反応して自動的に防いでくれる。
これはかなり便利な装備を手に入れたな。
手動で使う場合は少し慣れが必要そうなのと、自動の場合でも過信し過ぎないように気を付けないといけないが。
狩りの方は大丈夫そうだったから、タマは三層に派遣した。
足を狩るのと本体を狩るのをお願いしておいた。
モグラ達を本体狩りに連れて行くのは流石に危険すぎるが、ここまで来て狩らないのも勿体ない。
三層に行く可能性も考えたら、先に狩ってしまった方がいいだろう。
一旦タマのストレージの素材を俺の方の新しいタブに移しておく。
素材がごっちゃになったら面倒だからな。
こっちは俺とミルキーだけでも問題ない。
モグラとゴロウは少しの時間なら足相手に持ちこたえられるし、他のモンスターの相手はミルキー一人で余裕ってレベルじゃないからな。
ジュエルマンとか、適当に小突くだけで砕け散る。
か弱そうに見えるミルキーの、か弱そうな攻撃で木端微塵になるのは、完全にギャグだ。
モグラもゴロウも、最初見た時は驚いてたな。
流石に触手は危険だからスキルでさっさと始末するようにお願いしてあるが、それも一撃だ。
通常攻撃で時間をかけて倒しているモグラ達からすると十分衝撃的だったらしい。
すごいしとんでもなさすぎると、力説されてしまった。
そこから休憩を挟みながら、三十分の狩りを四セット行った。
格上相手だと集中力がいるせいか、結構疲れるようだ。
途中でタマが帰ってきたが、報告だけ聞いてまた三層へ送り出した。
そして今は、タマとの待ち合わせの時間に合わせて、三層の前で休憩中だ。
「どうしましょう、まだ狩りますか?」
「うーん、オレはまだ行けるけどゴロウちゃんはどう?」
「マジ無理、ハードすぎる。きっといっぱい稼げたよ」
「にゃあ」
「だってさ」
「それじゃあタマが帰って来たら戻りましょうか」
続行するかどうか聞いてみたら、ゴロウが限界のようだった。
仰向けになって地面で力尽きている。
お腹の上ではにゃーこが丸くなっているのが面白い。
まるで実家みたいな寛ぎっぷりだな。
「ただいまー!」
「おかえり」
「おかえりなさい」
「おかー」
「おかおか」
「それじゃあ帰りましょうか。行けます?」
「ん、大丈夫だよ。ほらゴロウちゃん、立って立って」
「うえー」
ゴロウがモグラに引き起こされて呻いている。ほんとに大丈夫なんだろうか。
帰り道は俺達が蹴散らすか、おろし金に乗るかと提案したが、モグラにやんわりと断られた。
せっかくだから歩いて、普通に戦いながら戻りたいらしい。
意外なことに、ゴロウも同じ考えのようだった。
それなら俺達に異論はないということで、歩いて戻った。
一度立ってしまえば大丈夫なのか、ゴロウも問題なく戦っていた。
足にもきちんと対処出来ている。
「ふぅ、やっぱり俺達にはかなりハードだったよ。流石ナガマサさん達」
「ははは。でもこれでがっぽり稼げたと思いますよ」
「まぁね。素材も一杯拾えたし、レベルも結構上がったよ。オレらより高いはずのナガマサさん達のレベルの方がポンポン上がってた方がびっくりだけどね」
「ははははは」
笑って誤魔化した。
モグラもそれ以上追及したりはしないでくれる。
この世界に詳しいモグラのことだ、俺達が経験値増加系のスキルを持ってるってばれてるんだろうな。
談笑しながら一層を突破して、ついにダンジョンの外へ出た。
もうすっかり夕方だ。山脈や地面が赤く染まっている。
「シャバの空気はうめー!」
「うめー!」
「ふふ」
夕焼けに染まったゴロウが叫びだした。よっぽど疲れてたんだろうか。
タマは楽しそうに真似をして、ミルキーはそれを見て笑っている。
大人数での狩りも楽しいな。
ただ、今日は危なかった。
いい勉強になったと思って、また誰かを難易度の高いところに連れて行く時にはしっかり下調べをしておこう。
さぁ、帰って精算だ。




