118 逃走と確保
本日二回目の更新です。
「ナガマサ、どうして戻ってきた!?」
門番を素通りして城の中へ。
何故かいるパシオンが、顔を合わせた瞬間にすごい勢いで寄ってきた。
いつもより威圧感がすごい。
「えっ、ちょっとミゼル様にお話があって」
「今日は駄目だ。日を改めろ」
パシオンは何故か俺に帰るように言う。
どうやらミゼルに会わせたくないようだ。さっきのネックレスの件なんだろうか。
「どうしたんですか一体。さっきの件なら」
「これは貴様の為でもあるのだ。いいから今は一先ず退く――こっちだ!」
「えっ、うわぁ!?」
「こっちモジャー!」
事情を話そうにも聞く耳を持ってない感じで扱いに困る。
と思ったら、突然腕を引っ張られて階段の裏に押し込まれた。
タマがノリノリで突っ込んでくる。狭い。
「ナガマサ様がお出でになられたそうだが、どこにおられる?」
「姿が見えませぬな。城内にはおられるはずですが」
「まだ遠くには行っておらんはずだ。何名かは門のところで見張っていろ。残りの者は他を捜すぞ!」
「「はっ!」」
何か慌てたような声が近づいて、遠ざかって行った。
今俺のこと捜してなかったか?
パシオンのどいたことで、タマを押しやって階段の裏から脱出する。
とりあえず人の気配はないな。
「ちっ、門を抑えられたか」
「一体何がどうなって……」
「ナガマサよ」
「はい」
「モジャマサよ」
「モジャ」
「……貴様ら、なんだそれは」
「なんでしょうね」
「モジャモジャ」
焦ったようなパシオンを見るのは中々レアな気がする。
将軍クワガタ討伐の時でも自信満々にふんぞり返ってたからな、こいつは。
突然割り込んできたタマの茶番に俺が乗ると、パシオンが吠えた。
「ええい、今はそれどころではない! ナガマサ! 今朝言っていた通り、ミゼルにあのネックレスを渡したのはただの誕生日プレゼントで、他意は無いな!?」
「は、はい。一般的にはプロポーズにあたる行動だと知ったのはさっきで、その件を謝罪しに来ました」
「……そうか。だがもう手遅れだ」
怒られてしまった。
ヒートアップしてるからか勢いがすごい。そんなに迫られると怖い。
正直に答えたら少し安心したようだが、パシオンの表情は晴れない。
「手遅れって一体――」
「いたぞ、ナガマサ様だ! パシオン様が匿っているようだ!」
兵士に見つかったようで、大声が響く。
「逃げるぞナガマサ! こっちだ!」
「お、おう、行こうタマ!」
「にげろー!」
パシオンが走り出した。
とりあえずパシオンの後を追いかける。
なんだこの状況は。
廊下の先から突然現れる兵士を避けつつ、パシオンが開いた隠し扉に飛び込んだ俺達は、何とか追手を撒くことに成功した。
今いるのは、狭い通路のような場所だ。
両側が四角い石を積み上げて作った壁で、前後にまっすぐ伸びている。
天井に一定間隔で光る石がはまっているのが照明代わりのようだ。
おかげで真っ暗ではない。
「なんとかやり過ごせたようだな」
「パシオンさん、さっきの続きなんですが……」
「ああ、手遅れという言葉か。貴様の行動が父上の耳に入ってしまったようでな、守護竜として崇められているおろし金との結びつきを強くする為に、大賛成なのだ。意味を分かっていなかったのだと説明しても、我が父なだけあって聞く耳を一つも持っておらんかった」
「えぇ……」
非常にまずいことに王様がノリノリらしい。
これは謝って済むかどうか分からないな。
雲行きが怪しい。嵐になりそうだ。
というか、聞く耳を持ってない自覚があるならまず自分の分を用意しろ。それから王様にも持たせてやってくれ。
「これからどうすればいいんですか?」
「ほとぼりが冷めるまで、城には近づかない方がいい。今父上に捕まればそのまま結婚式が始まる勢いだぞ」
「マジですか」
「大マジだ。有事の際に最前線で戦う我が王家の、行動力と決断力を舐めるでないぞ」
「その二つをこんなことに活かさないでください」
もっとこう、決戦とかで活かすものじゃないかそれは。
俺からすると使いどころが盛大に間違ってるように思うんだが。
でもそれだけ王様も本気ってことだ。
「ここは大丈夫なのか?」
「ここは隠し通路の中でも私しか知らない特別な空間だ。誰にもばれずに城の外まで脱出をずすっ!?」
「パシオン!」
「に、げろ――がくっ」
「ナガマサ様、お迎えにあがりました。国王陛下とミゼル殿下がお待ちでございます」
突然パシオンが奇声を挙げて崩れ落ちた。
その背後から現れたのは、いつもお世話になっているメイドさん。
逃げようと思えば俺のステータスなら簡単に逃げられるだろう。
悪いなパシオン。
逃がそうと頑張ってくれたけど、俺は最初の目的通りミゼルに会って直接謝ることにする。
王様に捕まればそのまま結婚式なんて言ってたが、流石にそんなことはない筈だ。
なんとか謝って許してもらおう。
「分かりました。案内してください」
「こちらです」
メイドさんに案内されてやって来たのは、まるで教会のような場所だった。
そこには王様と妃、ミゼルがいる。
ミゼルは綺麗なドレスを身に纏っていた。
普段の可愛らしいドレスとは比べものにならないくらい、煌びやかで豪華なドレスだ。
詳しくはないが、装飾品やメイクなんかも普段よりふんだんにあしらわれている気がする。
これから結婚式でもするかのような格好だ。
そして、神父っぽいおじさんもスタンバっている。
「よく来たな、ナガマサよ。それでは我が娘ミゼルと、守護竜の使者、ナガマサの婚姻の儀を執り行う!」
「すみませんちょっと待ってください」
「ナンジナガマサはぁ、ミゼルでんかをォ、ヤメるトキモ、すこヤカなるトキモ」
「神父さんも一旦ストップで」
「ハイ」
「どうしたというのだナガマサよ。お主が今朝、ミゼルに婚姻を申し込んだのではないのか?」
「そのことでお話があって来ました」




